アメリカンウイスキー今昔物語【その2・全2回】
アメリカのマイクロディスティラリー産業を、WMJ寄稿ライターで日本在住のアメリカ人、マイク・マーフィーが考察【全2回】。第2回目となる今回は、順調に開花しつつあるアメリカのマイクロディスティラリー産業の今を概観する。
アメリカン・ディスティリング・インスティチュート(ADI)社長、ビル・オーエンズ氏からも同意見を確認した。現在、アメリカのスピリッツ産業では、十分に教育を受けた熱心なプロフェショナルたちが自分の立ち位置を定め、スピリッツ産業を一生の仕事として励んでいる、とオーエンズ氏は熱く語る。70年代から80年代までオーエンズ氏はビール業界に在籍し、現在彼はADIのリーダ-だ。クラフトディスティリング業界で教育事業を行ったり、マーケットデータを提供したりしている。
ADIのデータによると、1980年には、数ヵ所しかなかったクラフトディスティリング産業が、現在は400ヵ所の蒸溜所まで増えている。5年以内には1,000ヵ所程になるとオーエンズ氏は予想している。急ピッチで伸びているアメリカンクラフトディスティリング業界のパイオニアたちの中で、オーエンズ氏は求心力として見られている。急成長しているアメリカン・ディスティリング産業のバブルがいつか弾けると思う人もいるだろうが、オーエンズ氏は、決してそうではないという見解だ。事実、400ヵ所のうち、閉鎖したのは10ヵ所のみである。
実際にアメリカ各地でフィールドワークを行った結果を報告したい。テキサス州、テネシー州、ケンタッキー州とシカゴにて、蒸溜所を尋ねた。オーナーにはそれぞれ、独特の技法、哲学があり、製品には、それら要素と人柄が反映されている。
実に幅広くかつユニークなウイスキーがつくられている。テキサス州にあるバルコーンズ・ディスティリングの「ブルーコーンウイスキー」(写真右)、シカゴにあるコーヴァル・ディスティラリーの「100%スペルト」、「ミレットウイスキー」など。テネシー州のコルセア・ディスティラリー(写真下左・中央)では、若く美味しいウイスキーだけではなく、香り高くて上質なジンもつくられている。テキサス州では、景色もすばらしいガリソンブラザーズ蒸溜所(写真下右)が、テキサスバーボンを新樽で熟成している。同じくテキサスのサンアントニオでは、レンジャークリーク・ディスティングが、自社が販売しているビールをベースとしたスモールバッチのまろやかなテキサスバーボンを生産している。
禁酒時代が始まった街、イリノイ州のエバンストンでもスピリッツ産業が育っているのは驚きだ。ケンタッキー州のルイビル・ディスティリングは、大手バーボンメーカーのすぐ近くに位置しながら、人気の高いクラフトウイスキーを手がける。かつてオールドフォレスターとウッドフォードリザーブで働いていた伝説的なマスターブレンダー、リンカーン・ヘンダーソン氏が樽を選択して「エンジェルズ・エンヴィ・バーボン」をつくっている。
禁酒法時代の「呪縛」を振り払ったアメリカは、クラフトウイスキーとクラフトスピリッツ再生の時を謳歌している。現在つくられているスピリッツは若いものの、のどごし、味ともに良く、国内外で数々のアワードを受賞している。業界の成熟とあわせて質の高い新商品が市場に出ていくことによって、アメリカがウイスキーとスピリッツの大国となる日も近いだろう。
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