アラン蒸溜所マネージング・ディレクター ユアン・ミッチェル氏インタビュー

October 20, 2014

1995年に創業し、来年20周年を迎えるアラン蒸溜所。創業から19年を経た現在、蒸溜所はどのように変化し、何を目指しているのか?蒸溜所マネージング・ディレクター(以下MD)ユアン・ミッチェル氏へのインタビューを行った。

新蒸溜所建設ラッシュの現在と異なり、アラン蒸溜所が創業した1995年当時のスコットランドでは、閉鎖蒸溜所の再開はあっても新蒸溜所が立ち上がることは珍しかった。
そのためアラン蒸溜所は、長い間「スコットランドで一番新しい蒸溜所」として注目され続けた。反面、「まだ若い」「せめて○年モノが出るくらいでなければ」という声とも戦い続けていたことは想像に難くない。
しかし少量生産を守りながらも成長を続け、ついに一つの到達点ともいうべき「18年」リリースへのカウントダウンともいえる「アランモルト17年」を本年5月に発売。特に最近では、シングルカスクはリリースと同時に完売する人気の高さだという。

10月7日、アラン蒸溜所MDユアン・ミッチェル氏を迎え、アランの発売から現在までを支えた顧客を招いての感謝のイベントと、アランウイスキーファン向けのイベントが二部に渡って開催された。
この会では、アラン蒸溜所の歴史を示す記念碑的なボトルが提供された。ニューポットや初めてウイスキーとして発売された3年モノのデキャンタ、様々なワインフィニッシュや「アイコンズオブアラン」シリーズなど、アラン蒸溜所の成長を見守り続けた出席者には懐かしいボトルが並ぶ。
一方で、新発売となる「デビルズパンチボウル」第3弾や来年登場予定の「アラン18年」の原酒サンプルも登場。参加者は19年の蒸溜所の足跡を辿る貴重な垂直テイスティングを楽しんでいた。

会の合間を縫って、ユアン氏へインタビューをさせていただいた。

ウイスキーマガジン・ジャパン(以下WMJ) 本日はお時間をいただきありがとうございます。「若い」「新しい」と言われ続けたアランもすでに19年、来年はついに20周年ですね。今のお気持ちはいかがですか?

ユアン・ミッチェル氏(以下EM) 感慨深いですね!私がこの会社に入ったのは2003年で、それから早11年が経ちました。その間にアランウイスキーは世界のあちこちで楽しんでいただけるようになり、お褒めの言葉をいただくことも多くなりました。まだ名もない蒸溜所だったころから支えて下さった皆さんのお陰です。

WMJ その11年の間にユアンさんは蒸溜所MDになられたわけですが、MDとしてこれまで一番大変だったことは何でしょう?

EM やはり資金繰りは大変でした。しかし、ウイスキーの「商品化して現在の市場に出す量」と「熟成させて将来に備える量」のバランスにはいつも頭を悩ませています。販売量が増えることは嬉しい反面、長期熟成品をリリースするための原酒もとっておきたい。こればかりは今生産を増やしてもすぐに対応できる問題ではないですからね。

WMJ やはりそれはウイスキー特有の悩みですね。では、反対に一番嬉しかったことは何でしょうか?

EM 製品がコンペティションで受賞したとき、お客様がアランウイスキーを楽しんでいるのを見たときなど、いろいろありますが… 個人的には、「アイコンズオブアラン」シリーズの第1弾「ザ・ピーコック」で世間の評価が大きく変わった時ですね。これまでの「若いけどなかなか美味しいウイスキー」という視点から、ウイスキーそのものが「素晴らしい」と評価されるようになり、老舗の蒸溜所と肩を並べられるようになりました。これは大きなステップでした。

WMJ 確かにもはや新しい蒸溜所とは呼ばれなくなりました。では、その19年の間で「変わったこと」はありますか?初代蒸溜所マネージャーのゴードン・ミッチェル氏から現在のジェームス・マクタガード氏に受け継がれたことで、方針が変わったことなどは?

EM つくり方は全く変わっていません。蒸溜所の施設としては貯蔵庫の増設…今年はさらにブレンディングをする設備を建てました。それから、2016年にはポットスチルを2基増やします。今は初溜釜と再溜釜が1基ずつですが、その隣にそれぞれ1基ずつ導入する予定です。ゴードンとジェームスはどちらも素晴らしいつくり手です。ゴードンはウイスキーの品質に注力し、アランウイスキーの基礎を築いてくれました。ジェームスはその製法を守り、さらに世界の市場からのニーズに沿った製品の開発にも意欲的に取り組んでいます。

WMJ 増設されるスチルは同型ですか?

EM ええ、全く同じ形です。アランウイスキーの「華やか、フルーティ、リッチ」という特徴をそっくりそのままに、生産量を増やしたいのです。それでもスコッチ業界から見れば少量生産ですが、私たちはシングルモルト中心の独立系蒸溜所ですから、味と品質にこだわってつくることが最優先です。

WMJ なるほど、では味が変わる心配をすることはなさそうですね。では、最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

EM アラン蒸溜所にとって日本はとても重要な市場であるだけでなく、多くの「頼もしい仲間のような」お客様が支えてくれる大切な国です。日本には素晴らしいジャパニーズウイスキーがあるため、ウイスキー文化がしっかりと根付いています。そこが他の国と大きく異なる点であり、アジアにおいてはリーダー的存在になっているのだと思います。
私たちの蒸溜所は来年20周年を迎えますが、その時には一緒にお祝いしていただけるようなボトルをご紹介できればと思います。これからもどうぞアランウイスキーをお楽しみください。スランジバー!

WMJ 来年を楽しみにしています。ありがとうございました。

スコットランドだけでなく英国、ヨーロッパ、世界中に新しい蒸溜所が続々と出来ている現在からみれば、蒸溜所創業は一見簡単なことのように思えるかもしれない。しかし20年前…ちょうどブームに陰りが見えていた頃にウイスキーの大海に船出したアラン蒸溜所は、傍から見れば波に飲まれそうな小舟だったことだろう。
しかし今では立派な船体を持ち、当時と変わらぬ地図と指針を持って着実に前進を続けている…その姿を追う船が後を絶たないほどに。来年のアニバーサリーイヤーの大きな躍進を期待したい。

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