ウイスキー用語集―AからZまで【B】
ウイスキー用語集シリーズの第2弾では、アルファベットのBから始まる言葉、特にブレンドについて語る
ウイスキー初心者をわざと混乱させることに特化した言葉があるとしたら、それは「ブレンド」だろう。
今までもそうだったが、ウイスキー業界が新しい表示を使うようになった今、その混乱はますます激しくなってきている。「ブレンド」という言葉の問題は、それがある特定の種類のウイスキーを定義する技術的表示として使われているが、それ以外にもウイスキーをつくる方法を説明するときに漫然と紛らわしい形で使われてしまっている点にある。
それでは、ウイスキーの「ブレンド」に関するふたつの言葉の定義を見てみよう。
ブレンデッドウイスキーは、シングルモルトのウイスキーと、異なる穀物からつくられた別のウイスキーを混ぜ合わせたもの。つまりモルトウイスキーと、グレーンウイスキーを混ぜ合わせる。シングルモルトは1種類でも何十種類でも、グレーンウイスキーと混ぜれば「ブレンデッドウイスキー」になる。
ブレンデッドモルトウイスキーは、異なる蒸溜所でつくられたモルトウイスキーを混ぜ合わせる。複数のシングルモルトウイスキーからつくるウイスキーのことだ。これは新しい業界用語、かつては「ヴァッテッドモルト」と呼ばれていた。以上。単刀直入だ。
問題は、辞書上の意味でこの言葉を使う場合、この「ブレンド」という言葉で他のタイプのウイスキーを説明することが出来てしまう、ということなのだ。
例えば、前回説明した通りアイルランドではピュアポットスチルウイスキーというものがつくられている。マイケル・ジャクソンはその古典的著書「Whisky: The Definitive World Guide(世界のウイスキーガイド)」の中で、「発芽した大麦としていない大麦でつくられたもの。これがアイルランドに伝わるポットスチルウイスキーである」と説明している。
この場合、発芽させた大麦と別の種類の穀物(つまり発芽していない大麦)の両方が使われるが、これらは製造過程の中でウイスキーがつくられた後ではなく、つくられる前に混ぜ合わされるのである。これは、ブレンデッドウイスキーとは全く異なる概念である。
ならば、ピュアポットスチルをもっと上手に説明するなら、製造前に未加工の素材をミックスさせ、混ぜ合わせたもの、と言えばよいのだろうか?
また別の「ブレンド」の使い方もある。バーボンや、シングルモルトウイスキーでも。
こちらの場合、ひとつの蒸溜所のさまざまな種類や年代物のカスクを使って、バランスの取れたウイスキーがつくられている。英語、日本語のどちらでもこれはブレンディングと呼ばれるが、「ブレンデッドウイスキー」という言葉の意味とは違う概念の言葉だ。アメリカンウイスキーでは「ミングル(mingle/ 混ぜる)」とも言う。
どれも、些細で杓子定規なことに聞こえるが、確かに混乱を招く。ウイスキーの製造過程を説明するのに「ブレンド」と言う言葉が使われていたら、疑問を持ったほうが良い。「ミックス」、「結合」、あるいは「混合」という言葉で説明できるものなら、出来るだけこちらの言葉を使ったほうが良いだろう。
用語集―【B】
バックセット(Backset / Thin slop, Setback, Yeast backとも )
アメリカのウイスキー製造用語。前の蒸溜で残ったアルコールを含まない液体のことで、これをマッシュタンに戻して再度仕込む方法を「サワーマッシュ法」と呼ぶ。雑菌の繁殖を抑えると同時に風味を増すという利点がある。サワーマッシュ法ではこのバックセットを全体の液量の25%ほど使用する。
ボール・オブ・モルト(Ball of malt)
1杯のウイスキーを指すアイルランドの表現。
ビーディング(Beading)
ウイスキーをシェイクしてウイスキーの大まかなアルコール度を知る方法。ウイスキーをシェイクすると、表面に気泡が出来る。気泡が大きいほど、また表面に滞留する時間が長いほど、ウイスキーのアルコール度は高いと言うことになる。
ビール(Beer / ここでは”Distiller’s Beer” を指す)
モルト等を粉砕して水を加え、酵素の働きで穀物から風味、糖分を引き出し(マッシング)、残留物を取り除いた液体に酵母を加えると、糖分がアルコールに変化する。これがウイスキー製造過程におけるビール、ウォッシュなどと呼ばれるもの。日本では醪(もろみ)とも呼ばれる。ウイスキーの場合、アルコール度数7~8%の発酵液を指す。この工程を発酵(Fermentation)、醸造(Brewing)と呼ぶ。
ビールスチル(Beer still / Wash still)
ウォッシュは、大型の銅製ポットスチルで蒸溜させると、スピリッツに変化する。最初に使うスチルは、ウォッシュスチルと呼ばれるが、ビールスチルとも呼ばれる(主にアメリカ)。日本語では初溜釜とも。
ブレンディング(Blending)
本文参照。
保税倉庫(Bond / Bonded warehouse)
熟成中のウイスキーは、物品税が払われるまで保税倉庫に留め置きされる。
小屋(Bothie)
無免許の蒸溜用スチルを隠した建物あるいは隠れ家。大抵は地下にある。
ボトルド・イン・ボンド(Bottled in bond)
アメリカで1897年に制定された法律。アメリカのウイスキーは物品税を払わずに連邦政府の保税倉庫に、一定の基準を満たす品質が備わるまで保管することが義務付けられていた。さらにアルコール度数50度、熟成4年以上、シングル・ディスティラリーの原酒(1年のうちの1季節内に蒸溜されたもののみを使用)等の細かい規定がある。
バーボン(Bourbon)
アメリカのウイスキー。原料に51%以上のトウモロコシを使用しなければならない。バーボンとしての認可を受けるためには、蒸溜方法や熟成方法を定めた厳しい製造規定に従う必要がある。よく混同されるジャック・ダニエルは、また別の厳しい「テネシーウイスキー」の基準に則っており、バーボンとは異なる。近年ではバーボンは必ずしもケンタッキー産のみを指すことはない。
【ショート・メモ】知ってた?
一般的に、スコットランドのウイスキーはアイルランドから伝わったものだ、と思われている。アイルランドとスコットランドの西海岸は、言葉や文化の面で強いつながりを持っている。だが、アイルランドにはピート・ウイスキーはほとんどないが、スコットランドの西海岸にはたくさんある。それはなぜか? アイリッシュウイスキーは、ピートの掘削機械が発明される前から商業ベースで製造されており、製造面で採算が合わなかったという説がある。