生まれ変わるベンリアック・ファミリー【第2回/全3回】
マスターブレンダーにレイチェル・バリー氏を迎え、新しい時代に一歩を踏み出したベンリアック。高品質なアメリカンオーク樽も潤沢に確保し、原酒の幅も広がった。ブランドアンバサダーを務めるクレイグ・ジョンストン氏が、ベンリアック蒸溜所の現在を語る。
文:WMJ
ベンリアック蒸溜所の創業は1898年。3軒のベンリアック・ファミリーでは最も新しい蒸溜所である。休止と再開を繰り返す波乱万丈の歴史を乗り越え、2004年にベンリアック・ディスティラリー社が設立。グレンドロナックとグレングラッサも加えたバラエティ豊かなウイスキーづくりを実践してきた。
スペイサイドの中心に位置するベンリアック蒸溜所では、古くからノンピートタイプとヘビーピートタイプのシングルモルトウイスキーを製造してきた。また現在では希少となったフロアモルティングを年に2回おこない、熟成と仕上げに様々な樽を駆使する革新性でも高い評価を受けている。
ブラウン・フォーマンでアジア太平洋地域のブランドアンバサダーを務めるクレイグ・ジョンストン氏は、自らがベンリアックの大ファンであることを明かす。
「ベンリアックの身上は、スペイサイドらしい複雑さです。この複雑さの理由は、蒸溜時にできるだけ多くのフレーバーを引き出す方針が徹底されているから。極めて冒険的なブランドとしても知られ、シェリー、ラム、マルサラ、赤ワインなど30種類以上の樽で熟成しているのもユニークです」
ジョンストン氏が第一におすすめするのは、定番品の「ベンリアック10年」だ。
「フラッグシップであるノンピートのベンリアック10年は、ウイスキーファンにもおなじみの味。バーボン樽原酒とシェリー樽原酒に加え、わずかですがアメリカンオークやフレンチオークの新樽原酒もマリッジさせています。フルーティーで甘みがあり、なおかつスパイスも感じさせることによって、典型的なスペイサイドの魅力を凝縮したウイスキーといえるでしょう」
色は輝きのあるアンバー。グラスにレッグと呼ばれる付着が見られるのは、43%とやや高めに設定したアルコール度数の影響だ。香りは豊かで、オーク、モルト、オレンジ、マンゴー、パパイヤなどのフルーツを感じさせる。口当たりはなめらかで、ジューシーなフルーツとモルトの風味にあふれている。アップルパイやカスタードを思わせるフィニッシュも心地よい。
ベンリアックの複雑なフレーバーをもっとも豊かに表現できる樽は、アメリカンオークであるというのがジョンストン氏の考えである。そのため使用する樽の多くは米国から取り寄せる。親会社が米国のブラウン・フォーマン社に変わったことで、高品質な樽の確保もより容易になったようだ。
革新性を推し進める天才ブレンダー
ジョンストン氏が、もうひとつの「ベンリアック キュオリアシタス10年」を手に取る。スペイサイドでは珍しく、自家製麦したヘビーピートモルトを使用したウイスキーだ。パワフルなピート香に、フレッシュなフルーツの甘みが調和している。
「ベンリアックはピーテッドモルトを1972年から生産しているので、決して新しい試みという訳でもありません。ピートのレベルは55ppmとかなり高めですが、ピートのタイプもアイラ島とは異なるスコットランド東部のもの。バーボン樽で熟成したベンリアックには豊かな甘みがあるので、このスモーク香と拮抗した絶妙なバランスが実現できるのです」
もともと革新的な遺伝子を持つベンリアック蒸溜所で、さまざまな試みを指揮しているのが新しいマスターブレンダーのレイチェル・バリー氏である。当代でもっとも冒険的なブレンダーの一人といわれる彼女が、今後どのようなウイスキーを繰り出してくるのか期待は高まるばかりだ。
クレイグ・ジョンストン氏もまた、レイチェル・バリー氏の卓越した技量に高い信頼を置いている。
「レイチェルは名高いブレンダーのなかでも特に経験が豊富です。ヘビーピートとノンピートのトップブランドを手がけ、さまざまな樽を用いたフィニッシュも実践してきました。私から見たレイチェルは、まさにアーティスト。ブレンダーには批評家タイプや科学者タイプもいますが、レイチェルは情熱的で、大きな絵を描きながら非常に緻密な設計を具現化していきます。それぞれのブレンドを最高レベルにまで引き上げる方法を、直感的に理解しているのです」
これから日本で発売されるベンリアックのボトルも、レイチェル・バリー氏が独自のひねりを加えたブレンドだ。スペイサイド屈指の複雑なウイスキーは、まだまだ進化する余地を残しているのである。
(つづく)
ベンリアック10年容量:700ml
ベンリアック キュオリアシタス10年容量:700ml |
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