セラーマスターが見出した最高のコニャック

October 29, 2016

究極のフィーヌ・シャンパーニュを求め、たどり着いたのはひとつの大樽だった。話題の新商品発売にあわせ、レミーマルタンのセラーマスターを務めるバティスト・ロワゾー氏が来日。稀有なボトルを味わいながら、テロワールに根ざしたコニャックづくりの神秘を学ぶ。

文:WMJ
 
フランス南西部、ボルドーの100kmほど北にあるコニャック地方。ここで収穫したブドウからワインを醸造し、さらにアルコール度数約70度にまで蒸溜するとオー・ド・ヴィー(命の水)と呼ばれるスピリッツができる。だがこのオー・ド・ヴィーが「コニャック」と呼ばれるまでには、まだ長い道のりが待っている。

その年のブドウを原料にするコニャックづくりは冬が本番。外の寒さをよそに、蒸溜室には熱気とアロマが立ち込めている。

レミーマルタンの場合、自社畑からつくる原酒の他にも約1,000軒もの農家とパートナー関係を結んでおり、その農家の約半数が蒸溜器を持っている。つまり約500軒からなるファームディスティラリーが毎年収穫されるブドウからオー・ド・ヴィーを蒸溜し、多彩なサンプルをレミーマルタンに届けてくれるのだ。以降の采配を握るのが、セラーマスター(メートル・ド・シェ)率いるテイスティング委員会である。完全なブラインドテイスティングで原酒が選別されるため、先入観や情実が入り込む隙間はない。セラーマスターには、定期的にブドウの栽培者と会ったり、蒸留器の様子もチェックしながら要望を伝える役割もある。いわば楽器の音色やレパートリーを細部にわたって決めるオーケストラの芸術監督のような存在だ。

1724年に創業して以来、レミーマルタンは約3世紀にわたってコニャックをつくり続けてきた。コニャック地方のブドウ畑のなかでも上位2地区(グランド・シャンパーニュ51%以上とプティット・シャンパーニュ)のブドウのみを使用した「フィーヌ・シャンパーニュ」しか使わない。この最上級クリュから生まれるオー・ド・ヴィーは、石灰質の土壌に由来する酒質のため長期熟成にも適している。そんなフィーヌ・シャンパーニュのストックをもっとも多く保持しているのが、レミーマルタンの誇りである。

現在、このコニャックの老舗メゾンでセラーマスターの重責を担っているのは、1980年生まれのバティスト・ロワゾー氏。地元コニャック地方で生まれ育ち、農学者兼ワイン醸造家への道を選んだ。名門校で学んだ後は国外で実績を重ね、2007年にレミーマルタンに入社。2011年より副セラーマスターとして前任セラーマスターのピエレット・トリシェ氏に師事し、2014年にセラーマスターに就任した。トリシェ氏は、若いロワゾー氏がセラーマスターに相応しい素質を備えていることに当初から気づいていたという。

セラーマスター就任から1年以上が経った2015年のある日、オーナーのエリアール・デュブルイユ家がロワゾー氏に提案を持ちかけた。セラーマスターになって2年の節目に、まったく自由な采配でコニャックをつくってみないか。そんな「白紙委任状」はもちろん栄誉なことであるが、2年目のセラーマスターにとっては重圧でもある。

「自由にやるためには、まず自分自身で楽しむこと。目標は、私たちが持っている財産の豊かさを世に知らしめるようなコニャックです。私はこの課題が、『フィーヌ・シャンパーニュの魅力をあますところなく表現せよ』というミッションであると受け止めました」

 

フィーヌ・シャンパーニュを体現する味わい

 

最上位2地区のブドウから、長期熟成に適した酒質が生まれる。フィーヌ・シャンパーニュ最大のストックを保有しているメゾンがレミーマルタンだ。

白紙委任を受けたロワゾー氏は、師であるピエレット・トリシェ氏と共に書き溜めてきたテイスティングコメントの山を読み直す。そのメモを参考に30種類の原酒を選抜し、ブラインドでテイスティングを始めた。

「今のタイミングで、レミーマルタンの財産の奥深さを世界に証明できる原酒はどれか。何度もテイスティングして考えました。ひときわ輝いている原酒の出自を調べたら、2004年にブレンドが完了してジャンサック=ラ=パリュ村のセラーで眠っている大樽だとわかりました」

限られたクリュの原酒を用いながらも、常に大胆なチョイスをするのはレミーマルタンの伝統である。パワフルなアロマをそのまま提示しようと決めたロワゾー氏は、大樽に約5,000リッターほど残された原酒を、カスクストレングスの41.1%でボトリングすることにした。分量としては約7,000本分である。

「樽からは、天使の分け前でかなりの分量が蒸発していました。熟成年はいちばん若い原酒で20年、他にも40~50年の原酒がブレンドされたもの。しかし年数よりも重要なのは、凝縮感とアロマです。さあ実際に味わってみましょう」

グラスに注がれたコニャックは、長い熟成期間を暗示する琥珀色に輝いている。鼻を近づけると、イチジク、砂糖漬けのフルーツ、ナッツ、リラの花、チョコレートなどの香り。驚いたことに、時間が経つとスモーキーな感触が姿を現してくる。葉たばこや紅茶。スパイシーなナツメグやジンジャー。圧倒的に複雑だ。

口に入れると、大きな優しさが広がる。ドライフルーツや、砂糖漬けのフルーツ。プラムのジャム、紅茶と、少しスモーキーな風味もある。口のなかで風味が変化し、お香やレザーの匂いも混じる。そして長期熟成のフィーヌ・シャンパーニュらしく、フィニッシュが延々と持続する。

フランス語で「白紙委任状」を意味するこの「レミーマルタン カルト・ブランシュ」は、IWSCで金賞を受賞するなど、専門家の評価も高い。複雑に変化する味わい、絹のようにスムースなあたたかさ、満ち足りたフィニッシュなど、レミーマルタンのスタイルを余すところなく持ち合わせた銘酒である。

 

多彩な原酒から伝統の風味を生み出す

 

できたてのオー・ド・ヴィーには、フレッシュな果実味がある。それが何年もかけて変化していく様子をじっくり追跡していくのもセラーマスターであるバティスト・ロワゾー氏の仕事だ。気候やワインの栽培者によってオー・ド・ヴィーの性格は異なり、新しい原酒が毎年1,000アイテムも加わってくる。特性を見抜いて長期熟成用にキープする場合もあれば、より早期の商品化に最適化すべく先を見通したブレンドや加水をおこなう場合もある。

多彩なチョイスと変化に適応していくのが、コニャックづくりの基本だとロワゾー氏は語る。本拠地のメルパンだけでも、29箇所のセラーで14万本ものコニャック樽が眠っている。細かく分類された膨大なストックを駆使し、各銘柄のスタイルを一から組み上げていくのがセラーマスターの責務なのだ。

「初めて出会う原酒を使いながら、変わらない伝統の風味を表現する。この困難な仕事を完遂するにはチームワークが欠かせません。ひたすらテイスティングを繰り返す忍耐も必要ですが、自然が相手だから退屈はありません。レミーマルタンの真髄は継続性。私たちは毎日、先人たちから受け継がれたものに感謝しながらコニャックをつくり上げています」

 

 

レミーマルタン カルト・ブランシュ

発売日:2016年11月14日

アルコール度数:41.1 度

容量:700ml

希望小売価格:45,000円(税別)

 

3世紀に及ぶクラフツマンシップの結晶、レミーマルタンのオフィシャルサイトはこちらから。

 

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