来日したマスターディスティラーのコラム・イーガンと一緒に、4種類のシングルモルトをテイスティング。どこまでも繊細な樽熟成の妙技を満喫した。

文:WMJ

 

ブッシュミルズ蒸溜所は、アイリッシュウイスキーの歴史そのものだ。蒸溜所として認可されたのが1784年。それ以前にも英国王ジェームズ1世から1608年に酒造許可を得ており、これは世界最古の記録として認められている。

そんな400年以上に及ぶウイスキーづくりの伝統を継ぐのは、2002年よりマスターディスティラーを務めるコラム・イーガンだ。来日するのは8年ぶりだが、少年のような笑顔は変わっていない。

カジュアルなブレンデッドもおなじみだが、シングルモルトのラインナップも充実している。歴史も品質も、アイリッシュウイスキーを代表するブランドだ。

「ブッシュミルズと日本には、100年以上のつながりがあります。自社の輸送船『SSブッシュミルズ号』を1890年に建造したとき、クルーメンバーには長崎出身の日本人もいました。ウイスキーを積んで、1891年4月20日に横浜港までたどり着いた記録があります」

バランスの良いブレンデッドウイスキーも人気のブッシュミルズだが、その味わいの本質はアイリッシュを代表するモルト原酒にこそある。アイルランド産100%のノンピート麦芽を使用し、伝統の3回蒸溜でスムースな口当たりを生み出す。玄武岩の大地から湧き出す仕込み水も、複雑な香味を支える不可欠の原料だ。

昨年は新しいコーズウェイ蒸溜所も完成し、ブッシュミルズの生産力は倍増したばかり。だがスピリッツの品質は、既存の蒸溜所と完全に同じだという。操業開始から2ヶ月後、新旧の蒸溜所でつくられたニューメイクスピリッツに寸分の違いもないことを確認したのだ。

「今年の商品も、50年後に送り出す商品も、同じブッシュミルズでなければなりません。先日、貯蔵庫のストックから1882年のビンテージを味わって驚きました。古い100年以上前のモルト原酒ですが、いま自分がつくっているウイスキーと同じ香りがしたんです。だからここにあるウイスキーも、19世紀のブッシュミルズと変わりはありません」
 

年数だけではない熟成のマジック

 
マスターディスティラーは、今回の来日でも4種類のシングルモルトを用意してくれた。熟成年数の違いだけでなく、それぞれ特有の樽熟成を施した香味の完成度を比較してみたい。さっそくコラム・イーガンが手に取ったグラスには、「シングルモルト10年」が入っている。

「スコッチファンこそ、アイリッシュの実力をブッシュミルズで知ってほしい」とコラム・イーガンは語る。長期熟成のシングルモルトは、期待をはるかに上回るエレガントな香味だ。

「アイリッシュウイスキーは、とてもフレンドリーです。このウイスキーはバーボン樽の影響が強いので、とてもクリアで明るい色。グラスに鼻を近づけると、さらにグラスに鼻を引き込まれるような感じがするでしょう」

香りはバニラ、ハチミツ、そしてモルトの甘い匂い。飲み口は軽やかで、舌触りもやさしい。バニラ、リンゴ、菓子パンの風味がある。喉の奥はドライで、舌先では甘味を感じるフィニッシュ。この珍しいコントラストによって、どんな食事ともあわせやすいウイスキーなのだとイーガンは言う。

それよりも2年だけ熟成年数が多い「シングルモルト12年」は、もともと日本のウイスキーファンを意識したアジア市場限定の商品だった。バーボン樽とオロロソシェリー樽で11年以上熟成し、シチリア産のマルサラ樽で6ヶ月以上のフィニッシュを追加。シェリー樽とマルサラ樽の影響から、しっかりとした琥珀色に染まっている。

「飲み口はフルボディで、スモモやハチミツのニュアンスが湧いてきます。ドライフルーツのような甘さやスパイスの風味があり、しっかりとした飲み応えがありますね。ハイボールで愉しむなら、個人的にはこの12年がおすすめです」

すっきりとフルーティなモルト原酒だからこそ、樽熟成に変化を加えることで異なる世界が広がっていく。ブッシュミルズのシングルモルトは、洗練された樽熟成のマジックを学ぶのに格好の教材でもある。
 

変わらぬ伝統と樽へのこだわり

 
熟成年はさらに増えていく。「シングルモルト16年」で、まず目を引くのは赤みがかった液色だ。バーボン樽とシェリー樽でそれぞれ16年熟成した原酒を、ポート樽の中でマリッジさせて6ヶ月間の追熟を加えている。贅沢な3種類の樽熟成によって、驚くほど豊かなアロマが立ち上がってくる。

「アーモンドやチョコレートのニュアンスがあり、永遠に楽しんでいたい香りですね。もちろん味わいも濃厚です。ポート樽の影響で喉越しはあたたかく、トロピカルフルーツのような回香が口の両脇に広がります。スコッチがお好きな方に、ぜひ味わってほしいアイリッシュウイスキーです」

コラム・イーガンの来日は8年ぶり。アイリッシュを代表するマスターディスティラーだが、冗談が満載のセミナーはいつも笑いが絶えない。

最後に味わうのは「シングルモルト21年」だ。バーボン樽とオロロソシェリー樽で19年間熟成し、最後の2年間をマデイラ樽でフィニッシュしている。

「チョコレートのニュアンスが、ミルクチョコレートからダークチョコレートのイメージに変わっていますね。フルーツ香も、干したレーズン入りのケーキを思わせるような印象です。口に含むと舌触りは滑らかで、ハチミツや熟成した果実のような風味。複雑な甘味が舌に絡んできます」

喉を通り過ぎてからも、複雑な後味がずっと残っている。この豪勢なフィニッシュこそが、長期熟成ウイスキーの本領なのだとイーガンは説明する。

「唇を開いてから、また閉じてみてください。同じ甘味がまだ感じられますね。これが素晴らしい樽熟成の効果なのです」

ブッシュミルズには自前の樽工房があり、4代続く樽職人の家族もいる。蒸溜所で働くスタッフの多くは終身雇用で、文字通り家族のような絆が伝統の味わいを守っている。コラム・イーガンは、1904年に書かれた原酒のリストを写真で見せてくれた。

「時代の潮流が変わっても、ブッシュミルズには旧来の伝統を変えない頑固さがありました。だから100年後も、100年前と同じ味わいを出荷できると断言できるんです。製麦、発酵、蒸溜、熟成、瓶詰めを一箇所でできる蒸溜所は、世界でもそんなに多くありません」

真面目な顔で情熱を語ったマスターディスティラーは、再び笑顔に戻って得意のなぞかけをしてきた。

「お酒を輸出するために自前の船まで建造したブッシュミルズですが、ウイスキーを運ぶのに最適な船はいったいどんな船でしょう。トールシップ(背の高い船)? ロングシップ(船体が長い船)? どちらも違います。長い航海には、やはり『フレンドシップ』が欠かせません」

 

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