テキーラとラムの製造経験が、まったく新しい発想を可能にする。コラレホのシングルモルト「レイセカ」は、どんな新しい世界を見せてくれるのか。

文:ヤーコポ・マッツェオ

 
コラレホのアプローチは、大きなムーブメントを引き起こしているクラフトウイスキーの姿勢にも呼応している。その具体的な要素のひとつが、酵母へのこだわりだ。蒸溜所では独自の酵母株を使用して麦汁を発酵させている。

これはグアナフアト大学の研究者であるフアン・カルロス・トレス・グスマン博士との共同研究から生まれたアプローチだ。コラレホ蒸溜所で栽培されたブルーアガベの一番絞り果汁から、酵母菌株を分離して発酵用の酵母を開発した。さまざまなテキーラを製造してきたコラレホ蒸溜所の経験をフルに活かした独自手法である。

テキーラやラムを熟成した樽は、自社内で調達できるのがコラレホの強み。ただし乾燥地帯なので天使の分け前は多い。メイン写真は品数が豊富な蒸溜所ショップ。

グスマン博士とのパートナーシップを成功させたコラレホのチームは、再び地元の大学と協力してウイスキー用酵母をさらに細かく改良した。その結果として生まれた酵母が、現在の主力酵母だ。従来のウイスキー用酵母と同様の高い収率でエタノールを生産できる。

さらにペールモルト、キャラメルモルト、チョコレートモルトを独自にブレンドした麦汁から最大限に風味を引き出し、味わい豊かなウォッシュに発酵させられる酵母でもあるのだとバルガスが説明する。

「ダークモルトはエタノールの収率が低い傾向にあるため、アルコールを十分に生産できる酵母の存在が頼りになります。同時にこの酵母は、モルトの特徴を最大限に引き出して麦汁に豊かな香りを与え、最終的なウイスキーにも豊かな香りをもたらしてくれるのです」

発酵後はテキーラとは異なる設備で蒸溜工程に進むが、その手順を見ればテキーラとほぼ同じようなものである。初溜は銅製のコラムスチル、その後の再溜は銅製のポットスチルでおこなわれる。

この蒸溜工程はテキーラ製造の影響を受けたものであるが、スピリッツの熟成はバーボンウイスキーの影響を色濃く受けている。バルガスは、すべてのニューメイクスピリッツをアメリカンオークの新樽で熟成させることに決めた。

メキシコ中央部の気候は、この熟成プロセスに大きな影響を与える。この地域は夏も冬も非常に乾燥した気候なので、樽内の液体が大幅に蒸発しかねない。その緩和策として、バルガスは定期的に樽に水を注ぐことでエンジェルズシェアを取り戻している。

この差し水をした後でも、天使の取り分は年間約3~4%とヨーロッパの基準よりかなり高い。その一方でアルコールの損失は比較的少なく抑えられており、特に3年という短い熟成期間に失われるアルコール分は最大で0.7~0.8%ほどだという。
 

ユニークな香味のモルトウイスキーを味わう

 
多様なアプローチを採用したバルガスのウイスキーづくりは、グラスの中でついにその真価を発揮する。最初にリリースしたウイスキーは、この蒸溜所の明確な個性をしっかりと押し出した若々しいシングルモルトだ。ストレートで飲んでも、個性豊かなカクテルの主材料としても十分に楽しめる。特にその特徴を最もよく引き出すカクテルはオールドファッションドだ。ブールヴァルディエでバーボンを代用しても美味しく仕上がる。

このウイスキーは、まず最初にモモのような柔らかなフルーツ香が感じられ、やがてバニラ香、ドライフルーツ香、モルト由来のくっきりとしたキャラメル香やロースト香が立ち上がってフルーツ香を引き立てる。

口に含んでも舌触りは柔らかく、オーク風味の存在感が際立っている。穀物、核果、生の柑橘などの風味に、豊かなスパイスの香りが加わってバランスを取っている。余韻ではロースト香が強まってミーティーになり、最後に再びフルーティーな回香が広がっていく。

禁酒法をイメージさせるボトルデザインに反骨精神が垣間見える。メキシカンモルトの時代は始まったばかりだ。

この第1弾リリースは、コラレホのウイスキーが前途有望であることを印象づけるものだった。これから発売されるウイスキーにも、大きな期待が寄せられる。バルガスいわく、そんなに遠くない未来に新しいウイスキーが発売されそうである。

「ウイスキー製造の試行錯誤は始まったばかりで、今でも多くの実験が進行中です。それでも間違いなく、近いうちに新しいウイスキーをリリースする予定です」

最初にリリースした「レイセカ」は3年熟成のウイスキーだったので、第2弾の商品はもう少し熟成期間の長いウイスキーになりそうだ。おそらくは同様の香味プロフィールを備えた5年熟成の原酒を使用することになるののではないか。

蒸溜所のマーケティング活動を統括するノエミ・ムリージョが、今後の予定について教えてくれた。

「新しいウイスキーは、12か月以内に発売できると確信しています」

今後のリリースに向けて、コラレホのチームはさらに実験的なアプローチも検討している。蒸溜所にあるさまざまな樽を最大限に活用し、異なる熟成技術を試してみようという計画もある。樽の大きさもさまざまで、以前に貯蔵していたお酒の種類も多彩だ。

コラレホがすぐ着手できる熟成樽のオプションとしては、同社のラム「ロン・プロヒビド」で使用したラム樽がある。そしてもちろん、最高級のアガベスピリッツ「コラレホ 99000 オラスアネホ」を熟成したテキーラ樽もある。この「コラレホ 99000 オラスアネホ」は18ヶ月間にわたってオーク樽の香りを引き出したテキーラだ。

これらのような樽でモルト原酒を熟成させれば、アガベ原料のスピリッツに見られる柑橘やハーブの香りをはじめ、エステル系の豊かな風味や独特のうま味が加わる。ウイスキーの香味に深みと複雑さを付与してくれることは間違いないだろう。

今後どのようなウイスキーがリリースされるにしても、コラレホがこれまでに積み重ねてきたスピリッツ熟成の豊かな専門知識は大きな力になるはずだ。多彩な蒸溜設備や樽の特徴が組み合わされば、従来のウイスキーメーカーにはない型破りなアプローチも採用できる。コラレホ蒸溜所が、メキシコのウイスキー界を牽引する存在となる可能性は十分にあるだろう。