アイル・オブ・アランの30年とウイスキーの未来【後半/全2回】

September 19, 2025


ウイスキーブームの以前に伝統を復活させ、2つ目の蒸溜所も島内で開業させたばかり。アイル・オブ・アラン・ディスティラーズのユアン・ミッチェル氏が目指す理想のウイスキーづくりとは?

聞き手:ステファン・ヴァン・エイケン

 

アイル・オブ・アラン・ディスティラーズが設立された当時は、スコットランドで新設された唯一の独立系蒸溜所でした。でも2005年以降は、世界中で新しい蒸溜所が続々と誕生しています。ロックランザ蒸溜所の成功が、多くの人々を触発したという自負はありますか?
 
2005年以降に登場した世界中の蒸溜所から、「ロックランザに影響を受けました」と言われるのはとても嬉しいことです。新進の蒸溜所のオーナーたちから、そんな声が実際に届いています。新しいウイスキーブームのきっかけになった蒸溜所として、真っ先に熟成したウイスキーを市場に届けられたことにも誇りを感じています。
 

新しいラグ蒸溜所を2019年に開業しましたが、この決定に至った要因は?
 

最初は、アラン島に新しい貯蔵庫用の土地を探していたんです。島の南端にあるラグの敷地が利用できるとわかったところで、小規模な実験用蒸溜所を建設してはどうかという議論が取締役会で始まりました。その後、ピーテッドモルトのスピリッツ生産を新施設に移そうというアイデアに進展したんです。

エアシャー出身の建築家と会い、設計の初期スケッチを見せてもらった頃から、プロジェクトが本格的に動き出しました。会議を重ねるごとに、蒸溜所の計画はだんだん規模が大きくなって、最終的に完成した建物の規模にまで達しました。ロックランザ蒸溜所の開業以前に、アラン島で最後まで合法的なウイスキーづくりを守っていたのが旧ラグ蒸溜所(1837年に閉鎖)でした。時を超えて、私たちが再び島の南部にウイスキー蒸溜の歴史を復活させることになりました。
 

ロックランザ蒸溜所の創設時とは異なり、ラグ蒸溜所は多くの新しい蒸溜所のひとつとしてオープンしました。ラグ蒸溜所の設立は、ロックランザ蒸溜所の設立とどのように異なりましたか?
 
私はロックランザの設立に関与しておらず、ラグ蒸溜所の開業は完全に新しい経験でした。アラン島で、あれだけの規模の蒸溜所を建設するのは簡単なことではありません。実際に、工事では多くの遅延が発生しました。

ラグ蒸溜所がオープンした後も、市場の激しい競争に直面している現実にすぐ気づきました。ラグというブランドが、自然に成長するのを待つだけでは不十分です。再び原点に戻って、一杯ずつ消費者の信頼を獲得していく必要がありました。それでも私たちの大きなメリットは、シングルモルト「アラン」の生産チームがラグ蒸溜所の運営を手掛けていること。品質に対する消費者の信頼は、すぐに得られました。
 

現在の「アラン」のコアレンジについて説明していただけますか?
 
「アラン バレルリザーヴ」は、初めてアランを味わう人にぴったりのウイスキー。フレッシュで生き生きとしたバニラと柑橘系の果実香が特徴です。アペリティフにぴったりのウイスキーで、ハイボールや他のロングドリンクにも相性は抜群です。

ブームの先導者として、新しい世代のウイスキーファンから絶大な支持を受けてきたアイル・オブ・アラン。メイン写真は2019年に創設されたラグ蒸溜所。

「アランモルト 10年」はクラシックなアランの香味が楽しめるウイスキー。ラインナップの中核をなす商品で、甘いリンゴ、ハチミツ、スパイスなどのニュアンスがあります。普段飲みのウイスキーとして最適で、あらゆる場面で楽しめる万能な味わい。ロブロイなどのカクテルもおすすめです。

「アラン クオーターカスク」は、アメリカンオークのパワーが凝縮されたウイスキーです。リッチかつ濃厚な味わいで、水を加えると甘い洋梨やトーストしたハチミツのような香りが広がります。コアレンジの中ではあまり知られていない商品ですが、一度飲んでいだけば誰もが気に入ってくれるはずです。

「アラン シェリーカスク」は、クラシックなアランの味わいをオロロソシェリーの温かなブランケットで包み込んだような味わい。シェリー樽熟成の香りは、アランらしいスピリッツの特徴を覆い隠すことなく、絶妙に調和しながらダークチョコレートやキャンディアップルの深みを加えてくれます。
 

数量限定の「シグネチャーシリーズ」は、これまで3つのエディションが発売されています(※第3弾は日本で2025年秋販売予定)。最終回となる次回作の内容は?
 
残念ながら、シリーズ最終作についてはまだ内緒です。2026年に発売予定なので、そんなにお待たせせずにお届けできると思います。
 

現在発売されている最高酒齢の商品は25年熟成ですが、30年熟成のウイスキーを発売できるだけの原酒は残っていますか?
 
残っていますよ。実は2026年春に「アランモルト 30年」が発売される予定です。今年11月に蒸溜所限定の「ファーストリリース」を発売し、その数ヶ月後に「アランモルト 30年」をリリースします(※日本での販売時期は未定)。
 

無人島で余生を過ごすなら、ロックランザ蒸溜所とラグ蒸溜所からどのボトルを持っていきますか?
 
ロックランザ蒸溜所からは「アランモルト 10年」を持っていきます。これは私にとって、自宅で楽しむための定番ウイスキー。個性が豊かなのに、シンプルな味わいです。島から脱出する方法に思案を巡らせたり、逆に島に残って幸せに暮らしていく方法をあれこれ考えながら味わうのにぴったりでしょう。

ラグ蒸溜所からは、「ラグ スモールバッチ パロ・コルタドカスクフィニッシュ」(※日本では2025年秋発売予定)を選びます。ピートのスモークとシェリー樽熟成のハーモニーが絶妙なウイスキーです。
 

世界的なウイスキー市場の退潮を踏まえ、近未来をどう予測していますか?
 
近年のウイスキー業界はずっと上向きだったので、いずれ下降に転じる時期が来るのは避けられなかったでしょう。

ウイスキー業界の現状を冷静に見つめながら、将来については前向きに考えるユアン・ミッチェル氏。アラン島での挑戦はまだまだ続く。

ウイスキー業界の成長期しか知らず、この状況に驚いている人たちもいますね。コロナ禍があって販売数量が天井を打ち、余剰在庫が発生しました。ウイスキー業界はこれがニューノーマル(新常識)だと考えていますが、消費者と小売業者は将来の在庫を確保するために売買を控えている状況だと思います。

コレクターズアイテムや投資目的のウイスキー市場は現在枯渇しており、現在はまさに飲用者が主導する市場となりました。人々は適切な価格の良質なウイスキーを求めています。ウイスキーは棚に飾るためではなく、家族や友人たちと楽しむためにつくられる製品。だから現在の状況も、悪いことではないと思っています。

ウイスキー業界は、過去にもさまざまな浮き沈みを経験してきました。だからいつか必ず回復することだけは確信しています。ウイスキーは一過性のトレンドではなく、グローバルな文化の一部であり、社会の状況を映す存在なのです。良質なウイスキーを飲みながら、リラックスしたいと考える人はたくさんいます。だから業界が完全に衰退するのではないかという悲観論はまったくナンセンスです。
 

最後の質問です。アイル・オブ・アラン・ディスティラーズが、これから乗り越えていくべき課題は?
 
私たちは「アラン」と「ラグ」の両ブランドで確固たる遺産を築きたいと考えています。今から100年後、人々が「アラン島が誇れる特別なものを生み出した」と振り返ってくれるようになれば事業は成功です。現在のグローバル市場は厳しい状況にありますが、パートナーたちと緊密に連携し、ブランドを成長させ続ける方法を模索しなければなりません。

いつも消費者の声に耳を傾け、私たちのウイスキーの個性や強みを決して見失わないことが重要です。あらゆる課題は改善へのチャンスでもあり、これまで以上に努力を重ねていく必要があります。自宅やバーの棚に、専用の指定席などはありません。その場所にふさわしいウイスキーをつくり続けるため、これからもみなさんの信頼を勝ち取っていこうと決意を新たにしています。

 

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