蒸溜所自身の主催もあれば、非営利団体や業界団体の主催もある。フェスティバルの開催形態はどんどん多様化している。

文:ミリー・ミリケン

 

単一のウイスキーフェスティバルの開催規模も、近年はどんどん進化している状況だ。テイスティングや蒸溜所見学は当然として、主催者側は遠くから足を運んでくれたゲストたちに思い出に残る体験を提供したい。

フィンランドでライウイスキーを製造しているキュロ蒸溜所は、独自のキュロフェスを開催している。

このキュロフェスの催事には「自分だけの花冠を作ろう」といったアートワークショップや花火などのお楽しみもある。さらにはバレリーナのようにチュチュを着た中年男性たちが奇抜なショーも繰り広げて、和気あいあいとした一日を演出するのだ。

フランスを代表するイベントといえば、ウイスキーライヴ・パリだ。2023年の来場者数は21,000人にのぼり、ラム・ギャラリー(ラム)、パティオ・デ・アガベス(テキーラ)、サケ・ディストリクト(日本酒)など、他の酒類カテゴリーからも出展者を集めて賑わっている。

フィンランドのキュロ蒸溜所が主催するキュロフェスは、アートや音楽などのアトラクションをふんだんに盛り込んだ祝祭的な内容。ブランドの認知にも大きな効果がある。メイン写真もキュロフェスより。

もともとウイスキーの一大消費地だったイングランドは、近年になってウイスキーの生産地としても成長している。会員制の愛好家グループであるエクスプロアリング・イングリッシュウイスキーを組織し、イングリッシュ・ウイスキーフェスティバルを立ち上げたのはリチャード・フォスター。生業を2020年に辞め、大好きなウイスキー関連の事業を始めることにした。コロナ禍にオンライン上で始めたウイスキー愛好家のオフ会を自宅の近所で開催しようと画策したのがフェスティバル主催に乗り出すきっかけとなった。

「私はクロイドン(ロンドン南部)出身です。この地域でウイスキーフェスティバルを開催するのは、面白い試みだと思いました。未来のフェスティバルを先取りできるような気もしたんです。今までにない広い文脈の中でウイスキーを楽しむ機会になるんじゃないかと」

そしてクロイドン・ウイスキーフェスティバルは始まった。当初の反応についてフォスターは次のように語っている。

「あんなところまで、誰がウイスキーを飲みに行くんだ?と驚かれました。でも私は、そもそもクロイドンに大勢の人を呼ぼうと思っていた訳ではありません。ここにはすでに大勢のウイスキーファンがいるので、その愛好家コミュニティのためのイベントを作ればいいと考えたのです」

周辺地域から人を集めたクロイドンの事例もあれば、より先鋭的なファン層を惹きつけたイベントもある。

同じくリチャード・フォスターがバーミンガムで開催するイングリッシュ・ウイスキーフェスティバルは、ウイスキーへの関心と知識が豊富なコア層をターゲットにしている。それでも会場には大勢のウイスキー初心者たちが訪れるのだという。

「観客の中心は、地元の蒸溜所とすでに付き合いのある人たち。根っからのウイスキーファンです。新しい蒸溜所が、まだ熟成年の若いウイスキーを出展しています。フェスティバルは、若い世代の人たちが新しいウイスキーに出会う機会になっています。彼らがイングリッシュウイスキーの個性を理解すれば、そこに大きな可能性が生まれてくるでしょう」
 

祝祭化で広がる協力関係

 
ウイスキーフェスティバルの一般的な開催形態は、ひとつ屋根の下の会場に数多くのブランドが集結するもの。だがフィンランドのキュロ蒸溜所のように、イベントをお祭り化して多彩化することで独自の存在感を示す生産者もいる。

カナディアンウイスキーのフォーティークリーク蒸溜所は、毎年9月にオンタリオ州グリムスビーで「フォーティークリーク・ウイークエンド」と呼ばれるイベントを開催してきた(2023年で17回目)。今ではカナダとアメリカのウイスキー愛好家たち数千人を魅了するイベントだ。

フォーティークリーク蒸溜所のウイスキーとイベントには、ほとんどカルト的な熱狂がある。それはまるで家族のような親密さなのだと作家のダヴァン・ドケルゴモーは言う。

ロンドン南部で開催されるクロイドン・ウイスキーフェスティバル。首都の立地を活かすというよりは、地元のウイスキーコミュニティを築くために始まった。

「フォーティークリーク蒸溜所は、愛好家向けの本格派ウイスキーとしてカナディアンウイスキーの知名度を高めた最初の存在です。彼らの継続的な協力が、ウイスキーとイベントに対する熱狂を力強く後押ししています」

ドケルゴモーによれば、イベントではその場でウイスキーのテイスティングが開催され、非常に珍しいウイスキーが持ち込まれることもある。時には駐車場のような場所で、本格的なテイスティングがおこなわれる場合もあるという。

このように単一の蒸溜所が独自に主催しているフェスティバルもあれば、複数の蒸溜所で共同開催するフェスティバルの形態もある。スコットランドのヘブリディアン・ウイスキー・トレイルもその好例だ。今年も9月の1週間にわたって、ルート上にある7軒の蒸溜所がさまざまな催しを用意している。

イベントを立ち上げたマネージャーのシンディ・キャンベルは、このような複数の蒸溜所による共催という形にさまざまなメリットを見出している。

「伝統的な堅苦しい固定観念を取り払い、お祭りのような雰囲気にできるのが共催イベントの良いところ。もっと楽しくて華やかな体験ができるはずです」

参加する蒸溜所は、年ごとに持ち回りで幹事役を担当する。今年の幹事は、スカイ島のトラベイグ蒸溜所になるのだとキャンベルは言う。

「トレイルに参加するすべての蒸溜所に、素晴らしい協力関係が生まれています。参加する蒸溜所は、本心からお互いのブランドを宣伝したいと思っているんです。ウイスキーヴィレッジに蒸溜所のマスターディスティラーたちが集って、ウイスキーに関する質疑応答を交換した年もありました。本当に素晴らしい時間でしたよ」
(つづく)