世界のウイスキーフェスティバル【第3回／全3回】
新しいフェスティバルの潮流は、社会貢献や多様性の包摂。ウイスキーのイメージが、祝祭を通じてアップデートされている。文：ミリー・ミリケン
ウイスキー蒸溜所は、さまざまな動機を持ってフェスティバルに臨む。フェスティバル限定商品や通年商品を販売し、コレクターや愛好家のニーズを満たすことはもちろん重要だ。たくさんの来場者と触れ合うことで、売り上げや認知度の向上も期待できる。
ウイスキーフェスティバルの多くは、非営利団体として運営されている。そのためイベントが地域社会への貢献や困っている人々たちへの支援を担うケースも増えてきた。
今年のスピリット・オブ・スペイサイド・フェスティバルの抽選会では、スコットランドの慈善団体マイキーラインに6,933ポンド（約140万円）の寄付金が集まった。マイキーラインは、深刻な精神疾患に悩む人々を支援し、エルギンに新しい医療施設を立ち上げようとしている。
カナダのブリティッシュコロンビア州で、地域貢献のフェスティバルとして知られているのがビクトリア・ウイスキーフェスティバルだ。フェスティバル実行委員長のフランク・ハドソンは説明する。
「私たちは純粋なボランティアで運営されているフェスティバルです。誰一人として報酬を得ることはなく、集まったお金はすべて地元の慈善団体に寄付しています」
初開催の2015年以来、このフェスティバルはTLC児童基金など子供たちを対象とした慈善団体に総額で数十万カナダドルを寄付してきた。
アイラ島のアイラ・フェスティバルも、2022年に「アイラ・ウェーブ・プロジェクト」を立ち上げている。これは地元アイラ島で特に若者のニーズをサポートする文化プロジェクトだ。
その支援計画によると、新しい第3弾のプロジェクトではアイラ島とジュラ島のすべての小学校で伝統音楽の体験を導入する。地元の音楽家であるシアラ・マクタガートが学校を訪問し、島の音楽の伝統を維持するために次世代との交流を活発化させるのだ。子供たちには音楽のレッスンも提供することになるという。
今年で第3回のヘブリディアン・ウイスキートレイルも、蒸溜所が地元のコミュニティと関わりを持つことを奨励している。例えばタリスカー蒸溜所は、地元の人々のためにコンサートを開催した。
ヘブリディアン・ウイスキートレイルは、王立救命艇協会（RNLI）も支援している。マネージャーのシンディ・キャンベルがその内容について説明してくれた。
「王立救命艇協会の地元担当者が協会の活動を紹介し、各蒸溜所には特別な寄付缶が用意されています。2024年はRNLIの創立200周年にあたるため、今年のフェスティバルにはRNLIも直接参加する予定です」
ダイバーシティとインクルージョンを重視
こうしたイベントに参加するさまざまなコミュニティへのケアも見逃せない。ウイスキー業界は、ともすれば排他的なコミュニティであると誤解されがちな側面もある。
そのようなイメージを払拭するため、ウイスキーコミュニティ全体を代表してダイバーシティを明確に押し出すフェスティバルも増えてきた。
作家のダヴァン・ドケルゴモーは、フォーティークリーク・ウイークエンドでそのような姿勢を目撃しているという。
「イベント開催の当初から、組織委員会や出席者には女性の代表者が多く見受けられました。現在ではさらに配慮がなされ、ウイスキー業界における女性の地位も向上しています。カナディアンウイスキー業界のブランドアンバサダーやプレゼンターには女性が増えており、その何人かは業界屈指の人気と知識を誇っています」
イングリッシュ・ウイスキーフェスティバルを立ち上げたリチャード・フォスターも、ウイスキーフェスティバルへの参加に興味を持ちそうな人をステレオタイプ化しないことが大切だと繰り返し述べている。
フォスターがクロイドン・ウイスキーフェスティバルについて言及したLinkedInの投稿にも、次のような記述があった。
「熱心にテイスティングする人や、同じカウンターに戻っておかわりする人が、いかにもウイスキーが好きな男性ばかりとは限りません。この時代は、人を見た目で判断してはいけないんです」
そのような先入観でターゲットの設定を間違えると、イベントに参加したいと思っている潜在層の存在を見逃しかねない。フェスティバルのポスター掲示についても同じだとフォスターは言う。
「ウイスキーを飲む人が行きそうだと勝手に思い込んでいる店だけでなく、あらゆるジャンルの店に貼ってもらえるようにお願いしています」
今年の初め、LGBTQ+の当事者と支援者が運営する非営利団体のクィア・ケンタッキーは「ケンタッキーのクィア・バーボン・ウイーク」と銘打った新イベント「バーボン・アンド・ビロンギング」の開催（2024年10月2日〜6日）を発表した。
このイベントは、ソノマの「ゲイ・ワイン・ウイークエンド」やワシントンDCの「クィア・ビアー」などに触発されて創始された。ルイビルのほか、フランクフォート、レキシントン、パデューカなどの都市が協賛して開催される。エンジェルズエンヴィ、バレルハウス・ディスティリング、エヴァン・ウィリアムス、メーカーズマークなどのブランドがすでに参加を表明している。
今回の発表について、ルイビル観光局のクレオ・バトル代表兼CEOは次のように述べた。
「ケンタッキー州最大の都市として、ルイビルはケンタッキー州のインクルージョンへの献身を率先して訴えたいと思っています。バーボン・アンド・ビロンギングのようなイベントに参加することで、私たちが性的マイノリティーの皆さんを歓迎するインクルーシブな観光地であることを強くアピールできます」
ウイスキーフェスティバルを訪れるオーディエンスについて、その内訳や傾向を予測するのは必ずしも容易ではない。それでも主催者は、多様な観客に魅力的な体験を提供し続けるために将来を見据える必要がある。
ヘブリディアン・ウイスキートレイルを立ち上げたシンディ・キャンベルは、もちろんイベントに参加する人々の層が変化していることを目の当たりにしている。
「近年では、若い参加者が増えてきました。以前なら、ウイスキーフェスティバルといえば長年の愛好家向けというイメージもあったものです。ウイスキーが持つソーシャルな側面に惹かれた20〜30代の若者が特に増えています。だから私たちは、新旧の観客ニーズに応えているのです」
