熟成のピークを迎えた原酒を厳選しブレンド
世界的なウイスキーアワードで2冠に輝いた富士御殿場蒸溜所から、プレミアムなブレンデッドウイスキーが新発売されている。モルトウイスキーはもちろん、グレーンウイスキーにもこだわり抜いたユニークなアプローチを世界最優秀賞のキリンのマスターブレンダーが解説。
文:WMJ
世界中のウイスキーファンが、日本の富士御殿場蒸溜所に注目している。ウィスキーマガジンが主催する国際的アワード「アイコンズ・オブ・ウイスキー2017」で、本年度の「マスターディスティラー/マスターブレンダー・オブ・ザ・イヤー」に輝いたのはキリンビールの田中城太氏。その田中氏がマスターブレンダーとして手掛けた「富士御殿場蒸溜所 シングルグレーンウイスキー AGED 25 YEARS SMALL BATCH」も、ワールド・ウイスキー・アワード2017の「ワールド・ベスト・グレーンウイスキー」を2年連続で受賞した。
富士御殿場蒸溜所は、モルトウイスキーとグレーンウイスキーの両方を仕込みからボトリングまで1ヶ所でおこなう世界でも稀な蒸溜所である。モルトウイスキーはスコッチスタイル、グレーンウイスキーはアメリカやカナダのスタイルを採用しているが、これは富士御殿場蒸溜所が1973年の創業当初より、モルトはスコットランドのシーバスブラザーズ社、グレーンはアメリカおよびカナダのシーグラム社からバーボンをはじめとしたグレーンウイスキーの当時最新の蒸留技術や設備・ノウハウを導入し、そこにキリン独自の醸造技術や、きめ細かなつくり込みノウハウを融合させて磨き上げる独自の「ウイスキーづくり」をしてきた歴史があるからだ。
スコットランド、アメリカ、カナダ、そして日本のDNAを持つ富士御殿場蒸溜所は、モルトもグレーンもそれぞれ特長的で上質なウイスキー原酒を生産している。世界最優秀賞のマスターブレンダーである田中城太氏が、これらの原酒の中から熟成のピークを迎えた原酒を厳選しブレンドした商品が、4月27日に発売されたばかりの「富士山麓 シグニチャーブレンド」である。
グレーン原酒の深みをテイスティングで実感
田中城太氏の手引きで、この特別なブレンデッドウイスキーの魅力が体験できるセミナー(※募集は終了しております)に参加した。まずは構成原酒タイプのテイスティングから。田中氏によると、富士御殿場蒸溜所のウイスキーは「クリーン&エステリー」を品質ポリシーとしている。モルトウイスキーのポットスチルは、初留釜がランタン型で精留釜はバルジ型。華やかですっきりとした味わいを生み出すよう設計されている。
「私共のブレンドでモルト原酒と共に味わいの鍵を握るのが、グレーン原酒なのです。富士御殿場蒸溜所では、設立当初からケトルやダブラーといった日本では珍しい蒸留器も併用し、香味タイプ別に大きく分けて3タイプのグレーンウイスキーをつくってきました。1つめは一般的な連続蒸留マルチカラムでつくるライトタイプ。2つめは、バッチ式蒸留器ケトルでつくるミディアムタイプ。3つめは、ビアカラム&ダブラーのバーボンと同じ蒸留方法のヘビータイプです」
このなかから、田中氏はヘビータイプとミディアムタイプの蒸留液と熟成ウイスキーを用意してくれた。
まずヘビータイプをテイスティングしてみると、華やかで味わい深く、濃厚なココナッツ風味が印象的だ。原料はコーンが主体で、ライ麦を3割以上含んだバーボンスタイル。アメリカンオークの新樽で熟成しているので、ややスパイシーなバーボンを彷彿とさせる味わいとなっている。
一方のミディアムタイプは、非常に芳醇でリッチな味わいだ。著名なウイスキー評論家のデイヴ・ブルーム氏を「グレーン蒸留器でこんなに濃厚な風味が出るのか」と驚かせたコーン原料主体の蒸留液なのである。兄弟蒸溜所のフォアローゼズディスティラリーからバーボンバレルを調達し、じっくりと熟成させている。国際的アワードに輝いたシングルグレーンウイスキーはこのミドルタイプであり、同様のスタイルは世界的にも珍しい。芳醇さと甘い樽熟香が特長で、田中氏のブレンディングの鍵を握る原酒となる。
「富士御殿場蒸溜所のグレーンウイスキーには、原酒それぞれが豊かな個性とブレンドにおける役割を持っているのです。3タイプのグレーンを私共はブレンドにおける『うまみ三兄弟』と呼んでいるのですが、それぞれ仕込みから熟成のすべての工程にこだわって特長を引き出した原酒づくりをしています。商品ごとに、この『うまみ三兄弟』のブレンド比率を工夫することによって、商品の香りや味わいに特長を持たせるとともに、複雑さや深みを与えています。
熟成のピークに達した原酒を厳選しブレンド
富士御殿場蒸溜所の原酒は、熟成時の樽詰め度数にもこだわっている。モルト原酒は50%、グレーン原酒のヘビータイプは55%、それ以外は62%に蒸留液の度数を下げて樽詰めされる。生産効率よりも香味品質を優先するポリシーがうかがえる熟成方法だ。田中氏いわく、食べ物に旬があるように熟成にもピークがある。それぞれの原酒は、異なるカーブを描いて熟成のピークへと向かう。
「ラベルの熟成年数は、熟成期間を示す数字に過ぎません。熟成とは成熟の度合いのこと。ピークを過ぎると過熟状態になるため、それぞれのウイスキー原酒が本来持つ香味的特長や個性が最も良く表れた円熟期の原酒をタイミングよく樽から出してブレンドすることが何よりも大切なのです」
ついに新商品「富士山麓 シグニチャーブレンド」を試飲するときがきた。
グラスに鼻を近づけると、洋ナシやオレンジピールを思わせるフルーティで華やかな香り。黒糖やキャラメル、焼き菓子のような甘く芳ばしい香りが追いかけてくる。
口当たりはシルクのように滑らかだ。マロングラッセやメープルシロップのような香ばしい甘味のなかに、ほのかなピートの余韻も感じさせる円熟した味わい。そしてエレガントでバランスのよい熟成香が、絶妙に折り重なりながらフィニッシュへと至る。奥深く複雑な余韻が、いつまでも心地よく続く。
馥郁としたやわらかさは、富士御殿場蒸溜所だけの特別なグレーンウイスキーがもたらす恩恵だ。「富士山麓 シグニチャーブレンド」のコンセプトは、「マチュレーションピーク」であると明かしてくれた田中氏。熟成のピークを迎えた渾身の一滴といえる原酒を厳選しブレンドした、マスターブレンダーの自信作をじっくりと味わってみたい。
富士山麓 Signature Blend(シグニチャーブレンド)
容量:700ml 希望小売価格(税別):オープン価格 アルコール度数:50%
※富士御殿場蒸溜所およびDRINXのみでの販売となります。商品に関するご質問は、キリンビールお客様相談室までお問い合わせください。 |
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