ウイスキーのフィニッシュ(後熟)は、過去約40年にわたって実践されてきた熟成技術。だがブレンデッドウイスキーに使用されるのは新しい傾向だ。各ブランドの狙いを紹介する2回シリーズ。

文:グレッグ・ディロン

 

ウイスキーづくりにおけるフィニッシュ(後熟)は、1980年代から実践されてきた熟成のアプローチだ。この手法を創始したのは、バルヴェニーのデービッド・スチュワート(メイン写真)であるといわれている。 もともとは「バルヴェニー クラシック」(現在の「バルヴェニー ダブルウッド」)専用の熟成工程だったようだ。

いわゆるフィニッシュとは、通常の熟成樽に加えて2種類目の樽による熟成期間を設けること。特定の樽やバッチ単位でフィニッシュを施して、ウイスキーのフレーバーを変化させたり、強化したりするためにおこなわれる。

ウイスキーをひとつのオーク樽から別のオーク樽に移し替えることで、熟成工程を完了させるという意味が「フィニッシュ」という言葉に込められている。

たいていの場合、この2種類目の樽には、最初の熟成樽よりも希少で興味深い種類の樽を使用する。例えば赤ワイン樽、シャンパーニュ樽、ビア樽、そしてシェリー樽各種(オロロソ、ペドロヒメネス、パロコルタド)など。つまりこの2回めの熟成期間は、すでに熟成が済んでいるモルトウイスキーやグレーンウイスキーに、新しい樽でユニークなフレーバーを付け加えるための工程なのだ。


ブレンダーたちにとって重要なのは、この技法がフレーバーにポジティブな影響を及ぼすこと。つまりコニャック樽でウイスキーを熟成すること自体には何の問題もないが、後熟する前よりも風味が良くなっていなければ、わざわざやる意味も消滅してしまう。ウイスキーづくりにおける他のさまざまな工程と同じように、オーク材でできた樽とスピリッツの複雑な相互作用がすべてということになる。
 

商品の差別化を目的とした熟成技術

 
このフィニッシュのプロセスを創始したのは、シングルモルトのメーカーだった。それが徐々に、ブレンデッドウイスキーのカテゴリーでも使用されるようになってきた。目的は、商品の差別化である。大量生産商品の一部をフィニッシュに回してフレーバーのプロフィールを変えれば、限定商品として最低でも約20%以上の割増価格で販売できるようになるからだ。


休みなく成長を続けるウイスキーカテゴリーの中でも、フィニッシュは重要な一分野である。各社のブランドが、革新的な商品を打ち出なければならないのは明白だ。商品のレンジを広げ、さまざまなニーズを持つ広範な消費者層にもアピールしなければならない。たった1人の消費者でさえ、時としてさまざまに異なったニーズを持ち得るのだから当然のことである。


私自身にも、さまざまなニーズがある。もちろんウイスキー業界で働いている訳だが、素晴らしいウイスキーだけでなく凡庸なウイスキーも味わう機会が巡ってくる。この両者に出会える特権は、実に幸運なことだと感謝している。

自分で買いたいと思うウイスキーも、その時の気分によって変化していく。例えば自宅では40〜70年代のブレンデッドウイスキーをコレクションしてきた。どれもそんなに高額なものではないし、本当に最底辺クラスの価格のウイスキーが欲しくなることもある。「このウイスキーの美味しさを理解して、消費者の心情も理解したい」と願う純粋な好奇心からだ。

そしてこのような体験は、ウイスキーライターに必要なものだと考えている。アードベッグ・コミッティーのリリース商品をすべて買い求めてしまう習性も同様。あちこちの蒸溜所を訪ね歩き、蒸溜所限定ボトルを買うこともある。すべてのウイスキーには固有の魅力があり、それぞれが異なったポジショニング、価格、デザイン、ターゲット層を持った存在だから価値があるのだ。
 

分野の先駆者はグランツ

 
ブレンデッドスコッチウイスキーのブランドで、最初にフィニッシュの工程を採用したのはグランツだった。ウィリアム・グラント&サンズはバルヴェニー蒸溜所の親会社なので、さほど驚くべきことではないのかもしれない。グランツの「ファミリーリザーブ」の一部をフィニッシュ工程に回すことで「グランツ エールカスク」と「グランツ シェリーカスク」をリリースし、最近のブランド再編で「グランツ ラムカスクフィニッシュ」もラインナップに加えられた。


グランツは、ブレンデッドスコッチウイスキーとしては初めて、エールを貯蔵した樽による後熟商品を発売した。エールカスクのフィニッシュについて「スコットランドのビール醸造所に頼んで、バーボン樽をエールでシーズニングしてもらった」と公表している。ウイスキー自体は、スムーズで、リッチで、クリーミーな味わいの仕上がりである。

ウィリアム・グラント&サンズは、傘下のバルヴェニー、グレンフィディック21年、タラモアデューなどのシングルモルト商品でもラムカスクを重用してきた。そのためグランツのバリエーションとしてラムカスクフィニッシュを導入したのも、ある意味で自然な流れであるといえる。

そしてこれは、ウイスキー業界における古典的な戦略だ。まずはラムカスクフィニッシュに魅力を感じるようなシングルモルトをマスマーケットに投入し、ウイスキーファンの関心を惹きつけておく。ウィリアム・グラント&サンズによるラムカスクフィニッシュが定評を得たら、他の商品でもラムカスクフィニッシュを採用して、同じ消費者層にアピールできるようになるのだ。
(つづく)