ブレンデッドウイスキーの冒険【後半/全2回】
文:グレッグ・ディロン
ウイスキー界のイノベーターたる意気込みを示すべく、ハイエンドからエントリーレベルまでの商品群にフィニッシュを施したブレンデッドスコッチウイスキーのブランドがデュワーズだ。新しく発売されたフィニッシュ商品は、本国の英国よりも米国とアジアで人気が高い。具体的には、デュワーズの「カスクシリーズ」(8年熟成)と「ダブルダブルシリーズ」である。
デュワーズの「ダブルダブル」シリーズは、それぞれ異なったタイプのシェリー樽でフィニッシュされている。「デュワーズ21年」はオロロソシェリー樽でのフィニッシュ。「デュワーズ27年」はパロコルタードシェリー樽でのフィニッシュ。「デュワーズ32年」はペドロヒメネスシェリー樽でのフィニッシュだ。
この「ダブルダブル」というネーミングは、フィニッシュ工程自体を表現した言葉である。つまりユニークな4段階の熟成プロセスを経たブレンデッドウイスキー。シングルグレーンとシングルモルトを別々の樽で複数回にわたって熟成し、ブレンドしてからさらに熟成するという意味だ。
「デュワーズ ダブルダブル」シリーズは、シンガポールの免税店でまず発売され、米国市場での展開を経て、世界の他の主要市場でも販売されるようになった。そして世界中で売り切れが続出している。この成果からわかったのは、ウイスキー愛好者が新しもの好きであり、自分でユニークなウイスキーを味わってみたいと考える人も多く、さらにコレクションアイテムとしてキープしておきたいと考える人もいること。私の知人もシンガポールのチャンギ国際空港に行って、「ダブルダブル」のシリーズを試飲した。その場で全3商品を5セット購入し、帰国後に自宅へ届くよう手配したのだという。
デュワーズは8年熟成の「カスクシリーズ」をさらに拡大するため、今までスコッチウイスキーの熟成に使用されたことのなかった変わり種の樽も使用している。世界初のメスカル樽フィニッシュは「イリーガルスムーズ」(不法なまでに滑らか)と名付けられた。この名はフィニッシュに使用した樽が密造に関わったという歴史からとっている。同シリーズには「カリビアンスムーズ」という商品もあるが、名称からお察しの通りラム樽によるフィニッシュである。
デュワーズによる戦略のポイントは、まず8年熟成の「カスクシリーズ」によって比較的低価格のウイスキーから革新的な試みをおこない、さらにスーパープレミアムクラスのウイスキーでも同様の試みを展開していることだ。デュワーズと聞いて定番のホワイトラベルしか思い浮かばない消費者の多くは、そもそもデュワーズが購入対象に入っていない。だがそこに新しい角度からの提案が入ることで、ブランド全体への関心を高める効果があるのだ。
シーバスリーガルやジョニーウォーカーの狙い
つい最近になって、シーバスリーガルもフィニッシュを駆使したプロジェクトを完了した。「シーバスリーガル エクストラ 13年」のシリーズとして、それぞれ異なった樽の後熟を施した4種類のウイスキーが発売されている。名マスターブレンダー、サンディ・ヒスロップ(メイン写真)が手掛ける「オロロソシェリーカスク」「ラムカスク」「アメリカンライカスク」「テキーラカスク」というラインナップだ。
この商品群がどのように受け入れられるのか、結論を出すにはまだ時期尚早である。例えば「テキーラカスク」には「厳選したテキーラ樽でフィニッシュ」とあるので、この商品の風味にどれほど大きなテキーラからの影響が表現されているのかも気になるところだ。それでもブランドが目新しいフィニッシュ商品を発売することで、コアな既存商品への注目を拡大させようという戦略の一例としては極めて興味深い。パッケージデザインに、有名なストリートアーティストのグレッグ・ゴッセルを起用した判断も大胆だ。伝統的なウイスキーブランドにモダンな要素を対比させることで、視覚的にもフレーバーの新しさを力強く印象づけている。
このような試みは、すでにディアジオがジョニーウォーカーの限定商品「ブレンダーズバッチ」で実施してきたことでもある。同シリーズは世界中のさまざまな国際空港で、季節ごとに商品を入れ替えるという戦略を展開してきた。これはジョニーウォーカー全体に大きな成功をもたらし、ブランドの革新的なアプローチや考え方を消費者に対してアピールする機会になった。世界のどこを旅しているのかによって、出会えるボトルも異なってくる。そんなオプションの提示手法も画期的だったのである。
統計の出典によって誤差があるものの、ブレンデッドウイスキーはウイスキー部門における流通量の約90〜92%を占めている。総体的に見て、現在のブレンデッドウイスキーは非常に豊かな未来を見据えているといっていいだろう。今回ご紹介したユニークな後熟商品を各社が展開しているのは、スコッチウイスキー協会がスコッチウイスキーの定義における「伝統的な熟成樽」の要件を緩和したことも反映しているようだ。
ウイスキーファンにとっては選択の幅が広がり、新しいフレーバーの体験が可能になる。そしてウイスキーについて語り合える話題も増やしてくれた。それが新興メーカーではなく、伝統的なブレンデッドスコッチウイスキーのメーカーから広がっている状況が面白いのである。