「MHD グランド モルト テイスティング 2013」レポート
秋の足音が迫る9月の初旬。ウイスキーがますますおいしくなるこの季節に毎年恒例となったMHDグランドモルトテイスティングが開催された。今年の目玉『タリスカー ストーム』は果たしてどのようなボトルに仕上がったのか?
昨年の恵比寿から一駅移動して、今年は渋谷での開催となった。会場は渋谷といっても若者の喧騒が渦巻く中心地ではなく、そこからすこし離れた閑静な高級住宅街として名高い松涛エリアだ。タリスカーやラガヴーリンなど、落ち着いた雰囲気で楽しみたいモルトにはぴったりのロケーションではないだろうか。松涛の雰囲気とMHD モエ ヘネシー ディアジオ社(以下MHD)のクラシックモルトのマッチングは、飲み手の気持ちを優雅なものにする不思議な作用がある。
今回のグランドモルトテイスティング(以下GMT)のテーマは『旅』。MHD社が所有する各ブランドを、まるで世界中(または宇宙も含めて)を旅するかのように巡ってもらおうという趣旨だ。
旅はサバンナから始まる。
会場1階にはオレンジのイメージカラーが映えるグレンモーレンジィのブースだ。オレンジのテントに植物の緑、その横には背の高いキリンのオブジェ。オレンジの照明に照らされたその一角はまるで夕暮れのサバンナだ。しかしなぜグレンモーレンジィがサバンナなのか?
グレンモーレンジィのポットスチルは非常に首の長い独特の形状をしているのをご存知だろうか?
勘の良い方ならお気付きかもしれないが、そのポットスチルを今回はキリンに擬えてグレンモーレンジィのイメージカラーであるオレンジと合わせてサバンナの雰囲気を演出しているのだ。なんとも洒落の効いた演出だが、こういう遊び心こそウイスキーの硬く重い男性的という一種の固定観念を払拭し、新しい消費者、若い年齢層にウイスキーを浸透させる効果的な展示ではないだろうか。一晩限りにしておくには勿体無さ過ぎる。
2階に上がるとアードベッグとラガヴーリンのブースがそれぞれ別々の部屋に用意されている。
アードベッグは現在進行中の宇宙ステーションでの実験が来年帰還することを祝うための、宇宙ステーションを模した展示。
一年ぶりの来日となった蒸溜製造最高責任者のビル・ラムズデン博士の口から、来年は実験の結果が発表されるほか世界各地でイベントが予定されていること、過去に人気の高かったリミテッド・リリースの再発売が検討されていることが発表された。
一方のラガヴーリンブースは一転、『Jazz Night』と銘打たれクラシックなヨーロッパの駅舎をモチーフにジャズが流れる落ち着いた雰囲気だ。先程の宇宙から一転、しっとりとしたあたたかい空気。ラガヴーリンから香るほのかなスモークの香りがどこか懐かしさを感じさせ、古い白黒映画の中に放り込まれたような気分になる。時間をかけてゆっくりと開いていくラガヴーリンのイメージにぴったりだ。出来れば椅子に腰掛けてゆっくりと過ごしたいと思ったのは記者だけではないはずだ。
そして最上階となる3階に進むと、そこは大きな船を模した造作とその前面にある巨大スクリーンには荒れ狂う海原が映し出されていた。そう、このフロアはすべてタリスカーのためのものだ。そしてこの荒々しい波しぶきはこのイベントで本邦初登場となる『タリスカー ストーム』のイメージそのものに他ならない。
配られたタリスカー ストームを手にMHD社グローバル・シングルモルト・アンバサダー、ドナルド・コルヴィル氏はこう語る。
「スカイ島の海のような強い塩気のある香りがします。まるで海岸に立っているような香りです。海岸で焚き火をしているそばを歩いているような。タリスカーらしいスモーキーさ、潮っぽさ、そしてペッパーの味わいがお楽しみいただけると思います。」
確かにスタンダードのタリスカーに比べ潮の香りが強い。同時に香るスモーク香も手伝って島酒らしい骨太な力強さを感じる。熟成して得られる滑らかな味わいを楽しむというよりも、まさにストーム(=嵐、スコットランドでは『力』という意味もある。)を連想させるような力強く良い意味で荒々しい味わいが楽しめる。これぞ島酒、アイランズシングルモルトの真骨頂といっても良いだろう。日本でもまもなく店頭に並ぶとのことなので、このイベントに来ることが出来なかった方はぜひ実物を手にとってお試しいただきたい。ストームのインパクトの強さにきっと驚かれることだろう。
その他にも商品ラインナップが豊富なMHD社らしく、クラシックモルトブースではディアジオ社が所有する各蒸溜所のスタンダードからプレミアムまで数々の貴重なボトルも全て無料でテイスティングすることが出来る。年に一度の限定品のお披露目だけでなく、これだけのボトルをテイスティングできるとなればウイスキーファンは満足しないはずは無い。他のイベントよりも落ち着いた雰囲気で楽しめるのも魅力だ。展示会形式のイベントとは違う、ゆったりとした大人なイベントに来年も期待したい。
[Photo Gallery]