本土最北のケイスネスから、ハイランドの旅を始めよう。老舗の有名ブランドに加え、ユニークな新顔にも注目だ。

文:ガヴィン・スミス

 

モルトウイスキー生産の中心地であるハイランド地方は、現在どんな状況なのだろうか。老舗にも新参にも、活発な動きがあるようだ。

ブリテン島本土のハイランド地方では、ケイスネス郡最北郡のウィックにあるプルトニー蒸溜所が存在感十分だ。かつてはこのプルトニーが本土で最北の蒸溜所として有名だったが、現在の最北はエイトドアーズ蒸溜所に譲っている。

ディアジオ傘下のクライヌリッシュ蒸溜所は、質の高いビジター体験でウイスキー旅行を盛り上げてくれる。メイン写真はプルトニーに代わってブリテン島本土最北の蒸溜所となったエイトドアーズ蒸溜所。

エイトドアーズがスピリッツの蒸溜を開始したのは2022年9月で、蒸溜所ツアーやボトルの売上でも盛況を呈している。風光明媚な観光地として世界的に名高いジョン・オ・グローツ村の中心にあり、ドライブに最適なノースコスト500号線沿いという絶好のロケーションも人気の一因だ。

そこから数マイル離れたケイスネス郡のキャッスルタウンでは、マーティン・マレーとクレア・マレーの夫妻がシングルモルトウイスキー「スタナーギル」の生産に乗り出している。マレー夫妻が経営するダネット・ベイ・ディスティラーズは、すでに数々の受賞歴で知られている。キャッスルタウンでは、長期間使われていなかった製粉工場の跡をウイスキー蒸溜所とビジターセンターに改築しているところだ。

ケイスネス郡から南へ向かうと、クライヌリッシュ蒸溜所とブローラ蒸溜所が隣り合うようにして出迎える。どちらもディアジオ傘下の蒸留所で、さまざまなビジター体験が魅力だ。クライヌリッシュ蒸溜所は、2021年に「ジョニーウォーカーのハイランドの故郷」という新しいキャッチフレーズと共に生まれ変わった。

一方のブローラ蒸溜所は、1819年創業の老舗である。クライヌリッシュと同じく2021年に現在の場所に移転されたが、ここはもともと最初のブローラ蒸溜所があった場所だ。現在は人数限定でテイスティング付きの蒸溜所ツアーを提供している。事前予約が必要で、参加費用は300ポンド(約55,000円)である。
 

老舗と新鋭の競演

 
グレンモーレンジィとダルモアは、ハイランド北部の2大人気シングルモルト銘柄である。売上でもしのぎを削る両者だが、ウイスキーの香味は対照的だ。

ダルモアは、バーボン樽熟成の後に長めのシェリーカスク熟成を加えた味わいが愛されている。近年はオークション市場でも記録的な高値をつけており、6月にはサザビーズで49年熟成のデキャンタ入りウイスキー「ダルモア ルミナリー No.2」が90,000ポンド(約1,700万円)以上の価格で落札された。

ハイランド旅行の拠点になるインヴァネスでも、ウーラベースト蒸溜所が約40年ぶりにウイスキーづくりの伝統を復活させた。

ダルモア蒸溜所は大規模な拡張計画が進行中で、これから年間生産量を約900万リットルに倍増させる予定だ。来年に一般公開が再開されれば、ブローラと同様の蒸溜所ツアーも受付を開始する。このような予約限定のビジター体験は、今後も増えていくだろう。

ハイランド地方の中心都市であるインヴァネスでは、1980年代からウイスキーづくりの伝統が途絶えていた。だが昨年にウーラベースト蒸溜所が創業し、伝統の復活を喜んでいる。

ウーラベースト蒸溜所の共同設立者の一人は、ホテル経営者でもあるジョン・エラスムスだ。自身のベンチャー事業を「スコットランド初のブルスティラリー(ブルワリーとディスティラリーを組み合わせた造語)」と位置付けている。真新しい蒸留所の建物は魅力的で、街の中心部を流れるネス川沿いにある。隣にはエラスムスが経営するグレンモーホテルとウォーターサイドレストランがあり、ここで日々ウイスキーとビールが製造されている。

ウーラベースト蒸溜所の設備は、すべてドイツのカスパー・シュルツ社製だ。ヘッドディスティラーのドリュー・シアラーは次のように語っている。

「軽やかな香味のシングルモルトをハウススタイルにしています。フルーツ香を最大限まで引き出すためにビール酵母を使用し、スチルのネックに付けたボイルボールとラインアームの傾きで軽やかな味わいに仕上げます。原料の大麦モルトは、インヴァネス市内に製麦工場があるベアード社から調達しています。良質な熟成樽に貯蔵しているので、3年後には素晴らしいウイスキーに仕上がるでしょう。熟成の様子を確認しながら、ボトリングの時期を決めていく予定です」

ウイスキーの熟成を待つウーラベースト蒸溜所は、すでに人気のスポットとして知られている。品揃え豊富なウイスキーバー、敷地内で醸造されているビール各種、数種類のツアーなどが客足を集めているようだ。
(つづく)