聖なる煙
タイトルから、クリスマス関係の記事かと思われたでしょうか?いえいえ、今回もきちんとウイスキーのお話です。
アイラ島に住むマルティーヌ・ヌエが、ウイスキーづくりにおけるキルンの役割を考察。
ポートエレンの製麦所から放出されるピートの不快な臭いは、少なくとも私のようなアイラ島西部の住人にとって、ときとして耐え難い。しかし、ピーテッドの度合い(ヘビー、ミディアム、ライト)を理解することは容易だが、同程度にピートを焚き込めた大麦麦芽から蒸溜したふたつのシングルモルトが、製造法の違いを考慮してもなお、香りの特徴の現れ方に多くの差があるのはどうしてなのだろう。
私を悩ませていたもうひとつの疑問は、蒸溜所でのモルティングと製麦工場でのモルティングがもたらすフレーバーの違いについてだった。この工程はウイスキーづくりにおいて香りの特徴を豊かにするという点で極めて重要なため、キルンの中で何が起きているのかに的を絞ってみたら面白いだろうと思った。そこで、この2つについて実際に調べてみた。
ポートエレンのモルトスター(製麦所)は定期補修のために生産休止していて、私が訪れたときにはちょうど浸漬工程を再開しつつあるところだった。しかし、キルンが1基まだ運転中であったため、そのキルンの前に立って、グループのマネージャー、ブレンダン・マカロンから分かりやすい説明を聞くことができた。オーバンで蒸溜所マネージャーを務めていたブレンダンは、15ヵ月前にこの職に就いた。
「ここには3基のキルンがあり、それぞれ45~50トンの大麦をモルティングします。私たちはピートと熱風の2種類の乾燥を同時に行います。実際のところ、ピートには乾燥効果はありません。フレーバーのために燻煙が欲しいだけです。燻煙は熱風に捉えられて、モルトを敷き詰めた床を通り抜けます」
加熱は60度から始まり、強力なファンに煽られた熱風が水分を捕捉して麦粒から追い出す。麦粒は初め、水分を45%含んでいる。麦粒を巡るうちに熱風の温度は30度まで下がる。しかし麦粒が乾燥するにつれて、温度は再び上昇する。60度で「限界」点に達すると、フェノールはグリーンモルトにしか「付着」しないのでピートの燻煙は不要になる。熱風は麦粒の乾燥を続けて75~77度まで温度が上がる。工程全体で少なくとも24時間かかる。ブレンダンは一般的に受け入れられている考えを一掃した。
「極端にピート香の強いモルトが欲しい場合は、より長くではなくより強く焚き込みます。ピートの強さには蒸溜の際のカットポイントの方が大きく関係します」
ラフロイグの蒸溜所マネージャー、ジョン・キャンベルは、蒸溜所内でグリーンモルトを乾燥させる方法が製麦工場と違う点をこう指摘する。「私たちはまずピートを焚き込み、その後に熱風でグリーンモルト7トンを乾燥させます。この方法をとっている蒸溜所はここだけです。乾燥という点では効率の低い方法ですが、風味は強くなります。私たちが欲しいのは青い煙です!」
ブレンダンはポートエレンのキルンの煙を「白い煙」と呼ぶが、ふたりとも同じ結果を目指していることは明らかだ。ピートの燻煙は浸漬麦粒に低温で浸透する。だからラフロイグ蒸溜所を訪れてキルンの傍らに立ち、ピートを覆う赤い炎に見とれたら、急いで写真を撮ることだ。大きな煙幕を発生させるために直ぐに水が散布されて、炎が「消されて」しまうだろうから。
ポートエレンの製麦所では長い「ソーセージ」状に機械でカットした成形ピートを使うが、レンガ状に手でカットしたピートと違わないとブレンダンは主張する。しかしラフロイグのジョン・キャンベルは「違う」と言う。
「レンガ状の方が水分をよく維持するため、熱より煙が出やすく、したがってフェノールが強くなります。私たちはグレンマックリー沼地で、海面より低い位置にある「堆積盆地」の海に近いピートを集めます。そのため特定の植物や地衣類、菌類だけでなく海藻も含み、これが私たちの蒸溜酒に素晴らしいフレーバーをもたらします。塩気の一部はここから来ていると確信します。土の香りもそうです」
海藻? ブレンダン・マカロンは頭を横に振る。彼にとって、アイラ島のピートに海藻が含まれているなどとはありえない説だ。
「ビジターから『ここのキルンでは海藻を燃やしているんでしょ』と言われたことさえあります。していないと彼を納得させることはできませんでしたよ!」
それでは、ポートエレンの製麦所とラフロイグ蒸溜所でつくられるモルトが違うかどうかは分からないのか? ラフロイグ蒸溜所は一貫して製造元の異なるモルトをブレンドしている。自家製15%、ポートエレン製50%、そしてポートエレンはすべての需要を満たすほどの量を生産できないので本土からのものを35%。しかし、ジョン・キャンベルは大きな笑顔を見せる。
「私は2003年にある実験をしました。私たちのモルトでつくったニューメイク2万リットルを蒸溜したんです」。それは1世紀前の製法でウイスキーをつくってみるというアイデアだった。小さなスチルだけをペアとして使った。「小型スチルでつくると、よりフルーティでスイート、あまりオイリーではなく、還流が多いスピリッツになります」とジョンは言う。
「蒸溜の速度も遅くしましたが、カットのポイントは変えませんでした。フェノール値の違いは非常に大きかった。最大で60~80ppmの強いフェノール値が得られ、より強いタールとクレゾールの香りとして現れました。ハイランドタイプのヘビーピートウイスキーができましたよ」
その証拠を味わって確かめられるのはいつのことだろう? それにはラフロイグ蒸溜所の創設200周年記念にこの特別なモルトがリリースされる2015年まで待たなければならない。
楽しみだ。