ローランドの風土を表現したスピリッツの魅力が解き放たれる。ファイフの東ヌーク地域にあるキングスバーンズで、蒸溜所長を務めるピーター・ホルロイドと語らう2回シリーズ。

文:クリストファー・コーツ

 

近年になって、ファイフ周辺はスコッチウイスキー生産地として注目を集めるようになってきた。歴史あるキャメロンブリッジ蒸溜所(1824年創設)はもとより、新世紀に入ってダフトミル(2005年創設)、リーブン(2008年創設)、エデンミル(2012年創設で2014年)、キングスバーンズ(2014年創設)、インチデアニー(2016年創設)、リンドーズアビー(2017年創設)が次々に誕生。昨年は、バカルディのモルトウイスキー部門でブランドディレクターを務めたスティーブン・マーシャルが、バウハウスで小さな蒸溜所を開業させたばかりだ。

それぞれの真新しいスチルからは、どんな香りや味わいのスピリッツが流れ出しているのだろう。ウイスキーファンたちは、テイスティングの機会をいつも心待ちにしており、現在はそんなチャンスがほぼ同時に押し寄せている。ちょうどバス停で辛抱強く次のバスを待っていた人々が、同時にたくさん来たバスを見て戸惑うような状況だ。

2018年5月にはダフトミルとエデンミルが最初のシングルモルト商品を発売し、リンドーズアビーはニューメイクスピリッツをリリース。リンドーズアビーのニューメイクスピリッツは、まず蒸溜所保存会の会員限定で発売され、2018年末に一般販売をスタートした。

キングスバーンズも2018年8月に初めてのシングルモルト商品を発売したが、これはファウンダーズクラブの会員限定だった。ファーストフィルのバーボンバレルのみで熟成し、チルフィルターなしで瓶詰めしたカスクストレングスのウイスキーである。これは毎年ファウンダーズクラブ向けに5種類が発売される特別ボトリングの口火を切るもの。各ボトルは、それぞれ異なった樽で熟成された原酒で構成される計画だ。

 

現時点での成熟度を公開した限定商品

 

だが2019年2月になって、キングスバーンズ蒸溜所は最初のシングルモルトウイスキーを一般向けにも発売した。これが「キングスバーンズ ドリーム・トゥ・ドラム」である。

ウイスキーの熟成期間はわずか40ヶ月ほどであるため、やはり香りを嗅いでも、舌で味わってみても、蒸溜所のニューメイクスピリッツの特性がはっきりと感じ取れる商品になっている。これは当たり前のことで、むしろ樽の影響を誇大に表現してやろうという意図を感じさせないことが新鮮だった。他の新進蒸溜所がこのようなボトルを発売するときは、何とかして熟成感を高めたいがために樽材の影響を強調しようと苦心するものだ。キングスバーンズのチームは、そういった誘惑に負けなかったのである。

その代わりに、「ドリーム・トゥ・ドラム」はあくまでスピリッツの特性と樽の影響をバランスよく調整することに最新の注意を払っている。使用された原酒の内訳は、ヘブンヒルから調達したファーストフィルのバーボンバレルが90%。そしてポルトガル産の赤ワイン樽が残りの10%だ。この赤ワイン樽は、シェーブ、トースト、リチャーの頭文字をとって、ジム・スワン博士が「STRカスク」と名付けた再利用樽である。

樽材の影響が比較的軽い原酒を選んだのは、キングスバーンズとウィームスモルツの共同創業者兼生産責任者であるイザベラ・ウィームスの判断だ。もちろん当てずっぽうではない。新しい蒸溜所の生産計画には、初期の段階から偉大なウイスキーコンサルタントである故ジム・スワン博士とエンジニアリングの助言をおこなったイアン・パーマー(インチデアニー蒸溜所)が関わっていた。

ウィームス家のオーナーたちも、理想とするウイスキー熟成を実現するには、バランスがよく、フルーティーでフローラルなローランド流のスタイルでスピリッツをつくるのがいいだろうと考えていた。だがこの方針を実現するのは容易くない。責任は蒸溜所長のピーター・ホルロイドに委ねられた。

エディンバラの名門、ヘリオットワット大学醸造蒸溜学部を卒業したピーター・ホルロイドは、ストラスヘイブン・エールズでビール醸造の責任者を4年間にわたって務めた後、2014年4月に新設されたキングスバーンズ蒸溜所で働き始めた。工場設備の計画から関わり、2015年3月に最初のスピリッツがスチルから流れ出した。

「目標とするウイスキーは明確に思い描いていました。設備、工程、原料、蒸溜方法などのあらゆる側面は、私たちが理想とするスピリッツのスタイルを実現するために決定されています」
(つづく)