マッカランのクリエイティブ・ディレクターを退任し、新しい道を歩もうとしているケン・グリアー。わずか20年で世界的なラグジュアリーブランドを築いた躍進の条件について振り返る。


文:WMJ

 

世界のウイスキーメーカーの大半が高品質を謳っている。しかし現実にラグジュアリーなイメージを市場に浸透させているブランドはほんの一握りだ。マッカランのクリエイティブ・ディレクター、ケン・グリアー氏もその難易度を十分に理解している。

「いくらラグジュアリーを自称しても、周囲がラグジュアリーだと認めてくれなければ目標は達成できません。聴衆が笑ってくれない限りコメディアンとはいえないのと同じです。私が意識してきたのは、マッカランがシングルモルトウイスキーの会社だという前提を忘れること。ラグジュアリーブランドの会社が、たまたまシングルモルトを扱っているのだと考えることにしました」

持てる資産を十分に活かし、物語性たっぷりに伝えることがブランディングの常道である。マッカランのシェリー樽原酒が高品質であるなら、それに見合った値付けも重要だ。誰もが価格に納得できるような物語によってブランドの価値が上昇するのである。

「商品の提供場所は一流店舗のみに限定しました。キャラクター重視のノンエイジステートメント商品も、当時の高級ウイスキーブランドには珍しいアプローチでした。あえてコレクターアイテムとなるように仕掛けた超高級品も目的は同じです。他業種とのコラボレーションは、超一流のブランドや人物だけに限定しました」

マッカランのコラボレーションはいつも印象的だった。スペインのミシュラン3ツ星レストランを運営するロカ3兄弟。ジェームズ・ボンド「007シリーズ」への登場。世界的なクリスタルガラスメーカー「ラリック」のデキャンタ。著名写真家をはじめとする超一流のクリエイターとのコラボレーション。個性豊かなパートナーたちが、若い世代にマッカランのブランドイメージを力強く浸透させた。

「ブランディングに魔法はありません。大切なのは、目的を明確にして最大の努力を注ぐこと。ゲーリー・プレーヤー(南アフリカのゴルフ選手)の『練習をすればするほどラッキーになる』という言葉が大好きです。ラグジュアリーブランドになるカンフル剤があるのではなく、あくまで長年にわたる努力の積み重ねの結果ですから」

 

マッカランのクリエイティビティを体現した新しい蒸溜所

 

ブランディングに魔法はないと断言するケン・グリアー氏。人気ボトルの「ダブルカスク」を可能にした樽材への大規模投資も、比類のないラグジュアリーなイメージを後押しした。

そしてケン・グリアー氏のクリエイティビティを象徴する究極の存在が、完成したばかりの新しい蒸溜所である。総工費1億4千万ポンド(約200億円)を費やし、蒸溜所建築の概念を根底から変える現代建築。グリアー氏にとってもキャリアの集大成に位置づけられる大事業である。

「6年ほど前に市場を分析して、マッカランにはまだまだ潜在的な需要があるとわかりました。これからも増え続ける需要に応えるには、新しい設備が必要です。生産量を3割アップの年間1,500万リッターにまで増加させ、なおかつラグジュアリーなブランドイメージを体現できる蒸溜所を模索していました」

今でもグリアー氏の書棚に置いてある『世界の傑作ワイナリー』という本をめくっていると、スペインのラグアルディ町にあるボデガ・イシオス(サンティアゴ・ カラトラバ設計)の写真に目が止まった。独創的でありながらエレガントで、未来を先取りしたような建築である。スペインのマルケス・デ・リスカル(フランク・ゲーリー設計)やナパバレーの「ドミナス・エステート」(ヘルツォーク&ド・ムーロン設計)にも感銘を受けた。

「こんな建築を採用しているウイスキー蒸溜所は、まだ世界にひとつもない。だったら自分たちがやってやろうと考えたんです」

新蒸留所のデザインを決める指名コンペが始まった。参加者はノーマン・フォスター、ロジャーズ・スターク、ヘルツォーク&ド・ムーロン、ディビッド・ アジャイという錚々たる面々である。そして最終的に採用されたのは、ロジャーズ・スターク・ハーバー+パートナーズの設計案。まだ完成したばかりだが、スコッチウイスキーの歴史上もっとも成功した蒸溜所建築であることは疑いようもない(蒸溜所建設の経緯はこちらから)。

「細部へのこだわり、クオリティのあくなき追求、卓越したクラフトマンシップ。この蒸溜所は、世界でもっともラグジュアリーなウイスキーブランドを見事に象徴しています」

新蒸溜所の完成を見届けたケン・グリアー氏は、次世代にバトンを渡すことにした。2018年10月からは独立してコンサルタント業務を始めるという。分野はワイン、スピリッツ、写真、高級品などのブランディング。さらに2019年1月から3年間は、スコッチウイスキーの権威である「ザ・キーパーズ・オブ・ザ・クエイヒ」の代表も務めることになっている。

グリアー氏に、20年のキャリアでもっとも記憶に残っている出来事を挙げてもらった。ラリックのデキャンタに入ったマッカランが世界最高額(46万ドル)で落札されたこと。マッカランがジェームズ・ボンドお気に入りウイスキーとして『007 スカイフォール』に登場したこと。世界的な写真家アニー・リーボヴィッツとの共同プロジェクト。香港で437名のゲストと「Mデキャンタ」の発売を祝ったこと。そして新しい蒸溜所が落成した日。

「でも誰かがマッカランをバーで注文するのを見たり、ファンやパートナーたちと語り合ったすべての瞬間が宝物です。このように絶えず進化し続けてきたことが、マッカランを世界でいちばん価値のあるシングルモルトブランドに押し上げた理由ですから」

 


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容量:700ml

希望小売価格:15,000円(税別)

アルコール度数:48%

発売日:2018年10月23日(火)

数量限定

 

※価格は販売店の自主的な価格設定を拘束するものではありません。

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