秋葉原で恒例のビッグイベントが閉幕
年に一度、アキバ・スクエアがウイスキーの香りに包まれる日。第11回目となる「モダンモルトウイスキーマーケット2016」が開催され、国内外のウイスキー関係者たちで賑わった。
文:WMJ
「モダンモルトウイスキーマーケット2016」は、三陽物産株式会社が飲食店や酒販店などのプロ向けに開催する大規模なウイスキーイベント。ウイスキーブームが起こる以前の2006年にスタートし、今年で第11回を数える。第10回の節目となった昨年は、初めて一般客を対象にした有料日も設けて好評を博したが、今年から再び従来のプロ向けイベントに回帰している。開会に先立って、三陽物産の成地勉社長がこの経緯を説明した。
「モダンモルトウイスキーマーケットを開催する目的は、健全なウイスキー市場の拡大です。ウイスキーが急激にもてはやされ、消費者のニーズから乖離した値がつき始めている今だからこそ、丁寧に商品を説明して適正価格で消費者に提供するのが業界の使命だと考えています。そのためには初心に帰って、プロのみなさまにしっかりと説明する機会に集中するのが得策だと判断しました」
今年も会場には、世界のシングルモルトを中心に、出展13社の約250品目が一堂に会した。ウイスキーの展示会としては間違いなく国内最大規模のイベントであり、関係者にとっては国内外の動向をダイレクトに感じられる重要な情報収集の場でもある。
ウイスキー市場は相変わらず活況を呈しており、ウイスキーのウエイトが高い三陽物産も取り扱いブランドが前年比110~120%で推移しているという。だが成地社長はこの状況を冷静に受け止めている。「未来はまったく予測不能ですが、現在酒類市場の5%を占めるウイスキーカテゴリーを10%程度まで引き上げられる余地はあるのではないかと個人的には思っています。でも現在のような急激な伸びはいつまでも続きません。現状を放置せず、この大事な時期に消費者のニーズに合った商品をきちんと提供して、安定的な成長を目指さすことが大切です」
生産者の最新情報を詳しく知るチャンス
「モダンモルトウイスキーマーケット」での楽しみのひとつは、あらゆるレベルの関係者が有益な情報を得られるステージプログラムだ。生産者やプロフェッショナルのトークを聞くだけでウイスキーの世界がぐっと身近になり、登壇後の登壇者をつかまえて質問してもみな丁寧に答えてくれる。
今年もメインステージには、本場英国からの出品者が次々に登壇した。英国最古のワイン・スピリッツ商であるベリー・ブラザーズ&ラッドのルイージ・バルツィーニ氏は、アイルランドのピーティーなモルトウイスキーを紹介しながらアイリッシュウイスキーの歴史を解説。318年間ほとんど変わっていないという同社の応接スペースの写真も披露してくれた。またキルホーマン蒸溜所のピーター・ウィルス氏は、6度目の来日を喜びながら創設11年目を迎えた蒸溜所の歴史を振り返った。アラン蒸溜所のルイーザ・ヤング氏は、かつてアラン島でおこなわれていた密輸ウイスキーの歴史を明かしつつ新商品を紹介。ベンリアック蒸溜所のダグラス・クック氏は、21年熟成のグレンドロナックを来場者と共にテイスティングしながらハイランドの魅力を伝えてくれた。
観客の関心を集めたのは、英国からの客人だけではない。お隣の台湾からは、世界的ブランドのひとつとして定着したカバランのイアン・チャン氏が登壇。スチルを合計20基までに増設する驚きの拡張計画を明かしながら「ここまで急速に成長できたのは、日本を含めた世界のウイスキー市場のおかげ」と謝辞を述べた。カバランを味わいながら、台湾では不可能だと言われ続けてきたウイスキーづくりを成し遂げた挑戦を思い起こしてほしいという熱い言葉に拍手が鳴り響いた。
そんな夢のウイスキーづくりを、日本で実現しようとしているのがガイアフローの中村大航氏だ。小規模な設備でウイスキーを手づくりしているキルホーマン蒸溜所との出会いに触発され、インポーターとしても活躍しながら今年ついに自身の蒸溜所を故郷の静岡に建設。新しいジャパニーズウイスキーのブランドが生まれたいきさつに来場者が聞き入った。イベントの終盤では、限定商品の購入者を抽選で決定。特にジャパニーズウイスキーへの入札が多く、幸運な当選者たちは歓喜の笑顔に包まれた。主催者の三洋物産によると、この日の入場者は1,400人以上。2017年も同時期に同じアキバ・スクエアで開催する予定だ。出店者も来場者も、年に一度のビッグイベントを今から楽しみにしている。