山崎と白州の次なる進化 【前半/全2回】

July 29, 2013

デイヴ・ブルームがジャパニーズウイスキーメーカー、サントリーの新たな一歩を考察。

日本の「ハイボール革命」は過去5年にわたりウイスキーマガジン英語版本誌でも取り上げられてきたが、コメンテーターの脳裏には常にひとつの疑問がつきまとっていた ――「 次はどうなるのか?」 それは新しさを求める日本人の飽くなき欲求と、日本人特有とも言える流行の移り変わりの激しさにのみに根差したものではない。「ハイボールを通じてのウイスキー愛飲家の開拓はまだ始まりに過ぎないはず」という予感があったからだ。次に必要なものは、この飲みやすいハイボールという入口とウイスキーの奥深い世界をつなぐ架け橋だった。橋を架けなければメーカーは気まぐれな流行の波にさらされ、他のスピリッツや飲み物が登場して、せっかくのウイスキー愛飲家予備軍を誘惑し、連れ去ってしまう事態になりかねない。

「日本ではハイボールのブームがウイスキーの売り上げに貢献し、今やハイボールはウイスキーを飲む出発点として確立されています」とサントリーのチーフブレンダー、福與 伸二氏は言う。「しかし、まだ多くのお客様はハイボールという愉しみ方にしか触れていただけていません。私たちの次の仕事は、このような人々に奥深いウイスキーの世界に入ってもらうことです」。つまり、飲食店で食事とともにハイボールを愉しむことが定着し、山崎や白州がハイボールで提供されるようになっても、まだ十分ではないようだ。「それでも角瓶から比較すれば大きな飛躍です」と福與氏は説明する。「より多くのお客様にプレミアムウイスキーに親しんでいただくため、私たちにはスタンダードウイスキーとの架け橋となる新しい商品が必要でした」

その解決策が、昨年5月に日本で売り出された山崎と白州のノン・エイジ・ステートメント(NAS)エクスプレッション2種だ。年数表記がないために様々なモルト原酒を使用できる。そのため、使用するモルト原酒の組み合わせによって低価格を達成することができる上、若く個性の強いモルト原酒もブレンドの選択肢の一つとなる。
一方で、NASはブレンダーの手腕を発揮する機会をもたらすものの、従来の山崎や白州の基本的な骨格を維持したまま、バランスと複雑さを備えたウイスキーの創造を余儀なくさせる。それは若いウイスキーをボトルに詰め込んで何年モノかは無視するだけで済むほど簡単なことではない。
ブレンドでは“1+1 = 1+1”にならないということは、なかなか理解してもらえません」と福與氏は幾分か不可解な表現をする。「例えば山崎の場合、出発点は飲みやすい味わいを実現することでした。そうして試行錯誤する中で出てきたアイデアが、ボルドーの赤ワイン樽に数ヶ月入れること。ワイン樽の影響を直ぐに受けるモルト原酒を使いました」
そして生まれたウイスキーはタマネギの皮の色と、ストロベリーとルバーブのミックスを甘く煮た香りを持ち、味には若干の若さがあったが、クリーミーな口当たりと山崎が持つピーチっぽさが感じられた。まろやかで少し甘く、親しみややすいのであれば、「ハイボールの次につながる1杯」にぴったりか?

「私はこれをマスターブレンダー(鳥井信吾氏)のところに持って行きました。彼の反応は、もっと魅力的にする必要があるというものでした。ハイボールを飲み始めた消費者層にウイスキーの奥深い世界に入ってもらうだけでなく、現在の山崎のファンを失わないことも大切なのです」。それは設計段階まで戻された。「あのワインカスク熟成原酒のアイデアは、最終製品に使用することになりましたが、マスターブレンダーが言うように、それだけでは不十分でした。私たちは、もっとシングルモルトの本格感を追求するべきでした」
そこで福與氏は、対極の25年以上熟成させたシェリーカスク原酒のような超長期熟成ストックに向かった。それはコーヒー色で、レーズンとクルミの風味が混じったエキスをたっぷり含んでいる。「渋い」という言葉がぴったりだが、それでもこの思わず口がすぼまるような性質こそ、新製品に深みと重厚さを与えるために福與氏が必要としているものだった。「示唆に富むモルト原酒で、あまり多くは使われませんが、ブレンダーにとってとても重要なモルト原酒です」

【後半に続く】

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