ニッカ フロンティアって、実際どんな感じ?
文:WMJ
今月1日に日本全国で発売された「ニッカ フロンティア」は、さまざまな特徴でウイスキーファンの心をくすぐっている。モルト比率が51%以上のブレンデッドウイスキーで、キーモルトは余市ヘビーピートモルト原酒。さっそく開封して味わった論客たちが、SNSで思い思いの感想と分析を披露している。
実際のところ、「ニッカ フロンティア」はどんなウイスキーなのか。フロートハイボールをおすすめしているが、いつものハイボールやロックではいけないのか。すでに多数の銘柄を抱えるニッカが、今なぜ新ブランドを発売したのか。次々と湧き上がる疑問を誰かにぶつけたい。最適な相手の一人が、プロダクトブランドリーダーの坂本英一氏(グローバル事業戦略部)だ。
「今年はちょうどニッカウヰスキー創業90周年ですが、実を言うとニッカ フロンティアの開発には2022年から着手していました。アニバーサリーとはまったく違う動機で企画されたプロジェクトなんです」
その動機というのは、ニッカウヰスキーのブランドイメージを刷新することなのだと坂本氏は明かす。国内市場におけるニッカは、伝統ある本格派ウイスキーメーカーの象徴だ。しかしドリンクスインターナショナルの調査によると、海外ではむしろ革新的な独創性が受けている。スコッチとアメリカンとアイリッシュ以外のウイスキーメーカーとして、日本や台湾などの他メーカーを抑えたトップ・トレンディング・ブランド部門で第1位にも選ばれたほどだ。
「たとえばフロム・ザ・バレル、カフェグレーン、カフェモルトのような商品が、海外におけるニッカのイメージを牽引しています。斬新なコンセプトや、シンプルでミニマルなデザインが国際市場でも異彩を放ってきました。カクテルで割り負けない個性もあり、各国のバーテンダーに支持されているのです」
このようなブランドイメージを祖国でも高め、新しいファン層を開拓したい。既存の価値観を塗り替えるようなナラティブを構想し、竹鶴政孝の開拓者精神に立ち返ろう。主なターゲットは、ハイボールをきっかけにしてウイスキーの世界に興味を抱き始めたウイスキー中級者だ。さまざまな戦略が、中味のウイスキーやパッケージデザインにも反映されている。
フロム・ザ・バレルに似ている?
「ニッカ フロンティア」の価格帯は、プレミアムカテゴリー(700mlで2000円以上)に属する。「ブラックニッカ」(エコノミー~スタンダードカテゴリー)の常飲者にとってはワンランク上で、シングルモルトの愛好家にとっては普段飲みのオプションとなりえる。ニッカウヰスキーは、このプレミアムカテゴリーで将来的に世界のトップテン入りを目指している。
ニッカのプレミアムカテゴリーには、すでに「フロム・ザ・バレル」「スーパーニッカ」「セッション」がある。特に度数が高めのブレンデッドウイスキーで、透明な500mlボトルに入った「フロム・ザ・バレル」との類似性を予想した既存ファンは少なくなかった。
そこで2つのウイスキーを飲み比べながら、坂本氏に「フロム・ザ・バレル」と「フロンティア」の違いについて訊ねてみる。
「そもそも構成原酒が、かなり異なります。ポートフォリオ内で自社商品と被るのは避けたいので、官能評価でも他の既存商品とは明確な距離を取るように心がけてきました。じっくり飲み比べれば、明確な違いがおわかりいただけると思います」
「フロム・ザ・バレル」は、ウイスキーに慣れ親しんだコアなファン層がターゲットだった。逆に「フロンティア」は、脱スタンダードを意識し始めたウイスキー中級者を想定している。そんな違いは、香味にも現れているのだと坂本氏は説明する。
「フロンティアは、穏やかなスモーキーフレーバー。でもフロム・ザ・バレルは、スモーキーフレーバーより樽由来の熟成感やバニラのような甘みが主体です。またフロンティアのモルト比率が51%以上なのに対し、フロム・ザ・バレルのモルト比率は通常のブレンデントウィスキーと同程度。フロム・ザ・バレルは、カフェグレーンの伸びやかな甘みも大きな特徴なんです」
「ニッカ フロンティア」が500mlなのは、700mlに比べて気軽に試せる量と価格だから。一方「フロム・ザ・バレル」の500mlは、ボトルデザインで凝縮感を表現したかったから。たまたま同じ量ではあるが、意図するところが違うのだと坂本氏は言う。
「だからフロンティアは、新しいファン層の開拓を志した香味になっています。決してフロム・ザ・バレルやシングルモルト余市のジェネリック品を目指したものではありません(笑)」
そんなにスモーキーじゃない?
キーモルトが余市ヘビーピートモルト原酒ということで、パンチのあるスモーク香を期待したファンも一部にいたようだ。だが実際には、それほどスモーキーな印象がないという声も聞こえてくる。
「余市ヘビーピートモルト原酒をキーモルトに据えたのは、竹鶴政孝のフロンティア精神に立ち返りたかったから。でもアイラモルトのように強烈なピート香は求めていませんでした。そもそも余市ヘビーピートモルトは、1滴垂らしただけで全体の表情が変わるほどに個性的。使いすぎると、ターゲットが好む味から遠ざかってしまうため、ブレンド比率は慎重に決めていきました」
マニアックなスモーク党に訴えるより、多くの人に受容される基幹ブランドを志向したい。だからピート香は余韻で心地よく香る程度に抑え、あくまでバランスよく香味の奥行きや幅を広げているのだと坂本氏は説明する。
「メッセージがブレるのであえて強調していませんが、トップノートの甘い香りには宮城峡のシェリー樽原酒や新樽原酒が生かされています。それに加えて、ベン・ネヴィスの華やかな果実感も感じられるはずです」
安定した生産量を維持するため、使用している原酒の種類は多い。「ニッカ フロンティア」がジャパニースウイスキーではなく、ワールドブレンデッドウイスキーであるという事実もあらためて押さえておきたい。
「余市と宮城峡はもちろん、ニッカ傘下のベン・ネヴィスのモルト原酒をはじめ、複数の輸入原酒も使用しています。それでもフロンティアの個性を形作る香味は、すべてニッカウヰスキーの原酒で表現しました」
幅広い人が楽しめるように、より多くの美味しいウイスキーをつくるのが竹鶴政孝の理想であった。「ニッカ フロンティア」のブレンドには、創業以来90年間で培ったニッカウヰスキーの総合力が結集されているのだ。
なぜフロートハイボール?
この「ニッカ フロンティア」にぴったりの飲み方として、坂本氏は「フロートハイボール」をシグネチャードリンクと位置付けた。でも、みんな大好きなハイボールではいけないのか。あるいは本格的なストレートやロックはどうなのか。
「定番銘柄のハイボールを徐々に卒業して、ロックやストレートなども試してみたいと思っている皆さんへのメッセージでもあります。ハイボールの先にある飲み方で、ウイスキー本来の香りや味がもっと感じられる方法を模索しました。飲料店のオペレーションも簡単で、自宅でも手軽に楽しめる飲用スタイルがフロートハイボールでした」
フロートハイボールの利点は、モルト比率の高さを強みとして引き出せることだ。すでに多くの人が指摘している通り、「ニッカ フロンティア」はロックやストレートのパフォーマンスが高い。それはモルト香のボリュームをダイレクトに感じやすいからなのだと坂本氏は指摘する。
「フロートハイボールは、必然的にウイスキーそのものの個性に向き合う飲み方。モルト原酒の香りやスモーキーな余韻が、最初の一口からしっかり感じられます。度数がきついと感じる人は、飲まずに香りだけ楽しんでから混ぜてもOK。それだけでも、ちょっとした贅沢感が楽しめるはずです」
坂本氏いわく、水やソーダで割るとグレーン原酒の特徴が大きく引き出される。だから「フロム・ザ・バレル」や「スーパーニッカ」は、ハイボールや水割りでもポテンシャルを発揮できるようにブレンドを処方されているのだという。
一方の「ニッカ フロンティア」は、ブレンデッドながらモルト原酒の比率が51%以上。モルトベースのブレンデッドは、ニッカの他ブランドでも最上級ランクの「ザ・ニッカ」しかない。
割り負けしない度数48%も、細やかな香味を逃さないノンチルフィルタードも、この価格帯の通年品で採用されるのは異例だ。本格的なウイスキーの香味を気軽に味わってほしい。だからこそのフロートハイボールなのだと坂本氏は語る。
発売直後から、これほど議論を呼んでいるウイスキーの新商品も少ないだろう。そもそもウイスキーは自由なドリンクであり、楽しみ方は無限に広がっている。「ニッカ フロンティア」が、一体どんなウイスキーなのか。その正解は、味わった人の数だけあるはずだと坂本氏は考えている。
「香味の多様性を知って新たな魅力に気づき、自分なりの理由で好きなブランドに加えられる。そんなウイスキーのクリエイティブさがもっと広がったらいいなと思っています。ニッカ フロンティアをぜひお試しいただき、ウイスキーの豊かな世界をさらに探求してください」
生きるを愉しむウイスキー。創業90周年を迎えたニッカウヰスキーの公式ウェブサイトはこちらから。