ニッカの90年を凝縮したウイスキー
文:WMJ
今年で創業90周年を迎えるニッカウヰスキーが、数量限定で特別な記念商品を発売する。その内容は、1940年代から2020年代までにつくり続けてきた多彩な原酒によるブレンデッドウイスキーだ。竹鶴政孝の初心と理想を受け継ぎ、現在に至るさまざまな努力を総決算するような思いも込められている。
近年のニッカウヰスキーは、2021年から3年間連続で数量限定の「NIKKA DISCOVERYシリーズ」を発表してきた。いずれもファンの意表を突いたコンセプチュアルなアプローチで、ニッカ独自の開拓者精神や多彩な香味への希求を表現したユニークな商品だった。
シリーズの第1弾(2021年)では、「シングルモルト余市 ノンピーテッド」と「シングルモルト宮城峡 ピーテッド」で先入観を覆すような大麦モルト原料の面白さを表現。第2弾(2022年)は実験的な発酵工程から生まれた特殊な原酒を用い、定番のシングルモルト2種類に「アロマティック」な魅力を加えてみせた。そして第3弾(2023年)として発売した「ニッカ ザ・グレーン」では、ニッカが日本各地で製造した新旧7種類のグレーン原酒をブレンドして、まったく新しいグレーンウイスキーの境地を切り開いている。
このたびアニバーサリーに合わせて発表された「ザ・ニッカ ナインディケイズ」は、ニッカを代表するブレンデッドウイスキー「ザ・ニッカ」の特別バージョンという位置付けだ。ここには3年間の「NIKKA DISCOVERYシリーズ」で提示されたウイスキーづくりへのこだわりもすべて盛り込まれている。ニッカが本格的に原酒をつくり始めた1940年代から2020年代までを9つの十年期に分け、すべての時代につくられた多彩な原酒をブレンドしたウイスキーだ。
特別商品に使用された原酒には、余市蒸溜所や宮城峡蒸溜所に現存する最古のモルト原酒も含まれている。カフェ式連続式蒸溜機が最初に導入された西宮工場の古いグレーン原酒や、近年の新しいチャレンジを象徴する門司工場とさつま司蒸溜蔵の若いグレーン原酒も活用し、単なる長期熟成を謳ったウイスキーとは一線を画する。
ニッカがスコットランド(ハイランド地方)に所有するベン・ネヴィス蒸溜所のモルト原酒も使用しているので、種別はジャパニーズウイスキーではなくワールドブレンデッドウイスキーである。ピートの強度、工場ごとの生産環境、酵母や樽の種類など、ニッカがさまざまにつくり分けてきた150種類以上の原酒を使用しており、まさに創業以来の歴史を凝縮した「ニッカ・オブ・ニッカ」と呼べるウイスキーだ。
長い歴史と英知が織りなすあたたかな一体感
発売間近の貴重なウイスキーをテイスティングしながら、チーフブレンダーの尾崎裕美氏があまりにも複雑な処方の背景について解説してくれた。
「一般のブレンデッドウイスキーとは異なり、グレーン原酒よりもモルト原酒の比率が高いモルトベースのブレンデッドウイスキーです。ブレンドした原酒150種類以上をあらためて樽内でマリッジして香味をまとめ、ノンチルフィルトレーションで細かな香味成分まで保持できるようにしました」
グラスから立ち上がる香りには、アップルパイやレーズンのように濃密な甘さがある。尾崎氏によると、このフルーツ香は主にシェリー樽熟成のモルト原酒(余市、宮城峡、ベン・ネヴィス)に由来するものだ。そこにピート由来の穏やかなスモーク香や、トーストのような香ばしさが寄り添っている。
「シェリー樽だけでなく、新樽で熟成した原酒もたくさん使いました。アメリカンホワイトウォークはもちろん、日本のミズナラ樽やヨーロピアンオークの新樽などがウッディーな熟成香を高めています。そしてやはり1940年代にまで遡る超長期熟成の原酒もかなり使ったので、アンティークな家具のように懐かしい木の印象を感じていただけるのではないでしょうか」
多彩なモルト原酒について、それぞれの特徴を保持しながら構成するのも処方の狙いだった。個性豊かな香味を繋ぎ合わせるのは、なめらかで柔らかいカフェグレーンやカフェモルトなどのグレーン原酒だ。さらに門司や鹿児島で生産されたグレーン原酒の個性も加えることで、モルト原酒の輪郭がよりくっきりと知覚できるようにしたのだと尾崎氏は語る。
「このウイスキーの香りを嗅いでいると、貯蔵庫の中を歩いているような気分になってきます。古い原酒を貯蔵した樽が、ずらりと並んでいる光景が目に浮かびます」
飲み口はどこまでもまろやかで、シナモンを思わせるようなスパイシーな感触がある。このスパイスには、樽由来だけでなくさつま司醸造蔵でつくっているライ麦原料のグレーン原酒なども関与していると尾崎氏は分析する。
ローストナッツやダークチョコレートのようなコクと、ビタースイートなピートの風味。アプリコットジャムやメープルシロップのような甘さは、おそらく発酵条件を工夫してつくった熟した果実を思わせるモルト原酒の影響だ。余韻には穏やかなピート香が残り、深いコクと甘酸っぱさを伴った重厚なビター感が心地よく続いていく。
「このウイスキーを味わう一連の体験が、暖炉の前にいるような温もりを感じさせてくれます。度数は48度と高めなので、少し加水してさまざまな香りが花開いてくるのをじっくり楽しんでください」
限定商品「ザ・ニッカ ナインディケイズ」は、7月2日から2,000本(日本国内1,000本)で発売する。さらに10月にも2,000本(日本国内1,000本)を発売するので、計4,000本の数量限定商品ということになる。オーセンティックバーやホテルバーなどを中心に販売し、ニッカウヰスキーの各蒸溜所やコンセプトBARでも数量限定で有料試飲を提供する予定だ。
創業90周年の節目を特別なウイスキーで祝い、100周年へのカウントダウンを始めるニッカウヰイスキー。この夏以降も、関連するさまざまなイベントや特別な商品に注目だ。
生きるを愉しむウイスキー。創業90周年を迎えたニッカウヰスキーの公式ウェブサイトはこちらから。