オークニー蒸溜所とディアネス蒸溜所が、新しいシングルモルトの扉を開く。新旧のメーカーが協力しあい、ウイスキー産地としてのオークニーを輝かせている。

文:ガヴィン・スミス

 

カークウォールの東にあるディアネス蒸溜所では、オーナーのスチュワート・ブラウンとアデル・ブラウンの夫妻が2016年にジンとウォッカの商業生産を開始した。その後、満を持してウイスキー製造にも乗り出したところだ。スチュワートが蒸溜所設立の経緯を説明してくれた。

「私は公認技術者の資格があるエンジニアで、鉱業、石油、ガス、再生可能エネルギー、地熱、原子力などの分野で経験があります。妻のアデルは薬剤師です。私たちは過去30年にわたって、趣味を兼ねたスピリッツ製造に携わってきました」

そんなブラウン夫妻がウイスキーの試作を開始したのは、2024年のことだったとスチュワートは語る。

ルーン文字をアレンジしたブランディングで、バイキングのルーツを表現するオークニー蒸溜所。老舗のハイランドパークも採用するアプローチだ(メイン写真もオークニー蒸溜所のトニー・リーマン=クラークとスティーブン・ケンプ)。

「2023年から2024年にかけて、蒸溜所の設備を増強しました。マッシュタン、発酵槽、蒸溜室、貯蔵庫を新しく用意して、試験的にウイスキーをつくり始めたんです。カフェとバーも併設して、2024年9月に一般公開しました。商業用のウイスキー製造は、2025年4月に始まっています」

ブラウン夫妻は、マッシュタン1槽(容量3,800リットル)と複数の発酵槽(総容量10,000リットル)を使用し、ウォッシュスチルとスピリッツスチルの容量は、それぞれ2,400リットルと1,200リットルだ。この設備によって、週に1,200~1,400リットルのニューメイクスピリッツが蒸溜できる。

原料の大麦モルトは、クリスプ社から供給されている。だがスチュワートは、今後さらに多様な穀物原料の採用も検討しているのだという。

「これから数年のうちに、バッチあたり2トンの製麦設備を敷地内に導入しようと考えています。実現すれば、ベア大麦、オーツ麦、ライ麦など、オークニー産の特別な穀物も製麦できるようになるでしょう。特にベア大麦は、現代の大麦品種とは風味が異なります。口当たりが良く、私たちの試験でも素晴らしい結果が出ています」

さらにスチュワートは、オークニーが地域全体で事業を応援してくれる環境にも喜んでいるようだ。

「オークニーは地域の結束が非常に強く、みんなでオークニーブランドを宣伝していこうという意欲があります。同業者同士で助け合う精神が、とても助かっています」

オークニー蒸溜所のトニー・リーマン=クラークも、ディアネス蒸溜所との協力関係には積極的だ。

「ディアネス蒸溜所と協力することで、多くのことを達成できると思います。両社とも生産体制の拡大を進めており、一部のコストを分担することは理にかなっているでしょう。たとえば離島に拠点を置いている私たちは、輸送コストが共通の課題です。ディアネスのスチュワートは素晴らしい人物で、私たちがどちらもクリスプ・モルト社のモルトを仕入れているので、オークニーに運ぶトラック輸送のコストを分担してくれました。樽、酵母、その他の資材についても、輸送で互いに協力しあっています」

スコッチウイスキー協会が認めるところによると、生産地に物理的な境界がある場合(たとえば島などがそれに当たる)は地名を商品に使用できる。これもまたトニーが十分に活用したい利点のひとつだ。

「私たちのウイスキーを『オークニーシングルモルト』と呼んで、ラベルにも記載できるのは素晴らしいこと。『ハイランドシングルモルト』と自称するよりも理にかなった呼称なので、島内のウイスキー生産者たちが結束を深められる一助となるかもしれません」
 

老舗と新興の協働で地域ブランドを推進

 
古くからオークニーにある2軒のウイスキー蒸溜所についても近況を報告しておこう。スキャパ蒸溜所は、2023年からテイスティングルーム「スキャパ・ヌースト」にビジターを迎え、崖の上から眺める絶景が評判を呼んでいる。ビジター体験のおすすめは100ポンドの2時間コース「オーカディアン」だ。すべてのビジターが、昨年に発売された10年、16年、21年のコアラインナップを試飲できる。

またハイランドパーク蒸溜所では、生産工程を自動化する改修期間を経て操業を再開したばかりだ。ポートフォリオのブランディングを刷新し、ビジター向けには新しくツアーのメニューも増やしている。最長3.5時間の「レア&エクスクルーシブ体験」(1,600ポンド)が、熱心なウイスキーファンに話題だ。

オークニー産のピートを重要な香味要素にしてきたハイランドパーク。新たに創業した蒸溜所とも協力を惜しまず、産地ブランドとしてのオークニーの隆盛に貢献している。

ハイランドパーク蒸溜所のグローバルマーケティングマネージャーを務めるジェーン・キャノンは、オークランド諸島における同業者たちの協力関係について次のように述べている。

「オークニーの蒸溜業界は『オークニー・フード・アンド・ドリンク』への加盟を通じて深く結びついています。このグループの一員として、私たちは島内の他の生産者と定期的に会合を持ち、オークニーで開催される年次展示会(夏の農業展示会やクリスマスフェア)および全国規模の展示会(ロイヤル・ハイランド・ショーやBBCグッドフードショー)に『オークニー・フード・アンド・ドリンク』の旗印のもとで参加しているんです。今年後半は、オークニーで初めて開催されるフード&ドリンクフェスティバルへの参加も楽しみにしています」

さらには「オークニー・スピリッツ・フェスティバル」という別のイベントも開催が検討されている。ビジターは「テイスト・オブ・オークニー・フード・アンド・ドリンク・トレイル」(www.orkney.com/things/food-and-drink/trail)を辿って生産地を訪ねることができる。このトレイルには、島内の4つのウイスキー蒸溜所、ラム・ホルム島のJ・ゴウ・ラム蒸溜所(www.jgowrum.com)、さらにはオークニーとスワニーにあるビール醸造所も含まれている。

ハイランドパーク蒸溜所のジェーン・キャノンは、今後の展開について次のように述べた。

「オークニーに新しいウイスキー観光の資源が加わったことで、たくさんの人々が島を訪れて多様な体験を享受できるようになりました。オークニー諸島の質の高さを伝える上で、間違いなく前向きな要素です。ここがウイスキー産地としてさらに認知を広げられる道筋となれば、みんなにとって素晴らしいニュースだと思います」