ザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ 記念イベントレポート
11月22日に開催されたザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ(以下ザ・ソサエティ)の余市・宮城峡発売記念イベントの様子をレポートする。
先日ご案内したザ・ソサエティからの2年半ぶりのジャパニーズウイスキーが11月12日予約開始となり、3種類のボトルがほぼ即日完売となったという。ニッカファンの多さももちろんのこと、ザ・ソサエティからのシングルカスクというプレミア感も伴って、ウイスキーファンが熱望したことは想像に難くない。
イベントではこの3種類がニッカウヰスキー・佐久間 正チーフブレンダーのテイスティングセミナーと共に楽しめるとあって、大変盛況であった。会場は通常は入ることのできない、アサヒビール株式会社本社ビルの22階ラウンジ。夜景が一望できる広々とした空間だ。
まずザ・ソサエティ日本支部代表、デービッド・クロール氏の挨拶。
同氏がこのイベントを「The return of Japanese Whisky」とした3つの理由―「ザ・ソサエティに2年半ぶりにジャパニーズウイスキーが戻ってきたこと」、「ウイスキーが一旦スコットランドに送られてボトリングされてから、再び日本へ戻ってきたこと」「ニッカ創業者竹鶴氏がスコットランドでウイスキーづくりを学び、その技術が日本で活き続け、再び国産ウイスキー隆盛の期を迎えたこと」を挙げ、ザ・ソサエティとジャパニーズウイスキーの関係性、またいかにニッカ製品が世界で愛されているかを説明した。
続いてニッカウヰスキー株式会社代表取締役社長、中川 圭一氏が挨拶。
竹鶴氏の「いかにお客様に喜んでいただけるウイスキーをつくるか」という飽くなき向上心を現在も受け継ぎ、WWAでの連続受賞など世界でも高い評価を受けている喜びを語った。輸出量は増大の一途をたどり、現在ではヨーロッパ限定商品も登場するなど今後への期待に胸の膨らむニュースも披露した。
そしてニッカウヰスキー株式会社、佐久間氏によるテイスティングと同時に会場内の全員に今回のリリース品が配られる。佐久間氏の丁寧な、ウイスキーを慈しむようなコメントに、来場者は頷きながらグラスを傾けた。
その後横浜燻製工房の栗生 聡氏からこだわりの燻製品の説明があり、フードコーナーがオープン。場内は和やかな談笑とウイスキーの香りに包まれた。ウイスキーに合うよう厳選されたトシ・ヨロイヅカのチョコレートや栗生氏自ら切り分ける燻製品の数々、そしてザ・ソサエティのニューリリースを含む幅広いウイスキーのラインナップ。来場者は美しい夜景を眺めながら、贅沢な時間を楽しんでいた。
ウイスキーマガジン・ジャパンは佐久間氏へお話を伺った。
ウイスキーマガジン・ジャパン(以下WMJ) 本日はお忙しい中お時間頂戴しありがとうございます。まず、このたびザ・ソサエティから2年半ぶりにウイスキーをリリースするに至った経緯をお聞かせ下さい。
佐久間正氏(以下TS) 実は私がチーフブレンダーになったのは今年の4月からでして、このお話はそれよりずっと前に始まったことです。ザ・ソサエティから打診を受け主席ブレンダーの山下が樽を選びサンプルを送って…途中震災もあって日本からの輸出規制などもありましたから、予想以上に時間がかかりました。山下も私もそうですが、膨大な資料…貯蔵庫にある樽の味や香りを自分の感じたとおりにまとめたファイルがありまして、その中からまずはバッチ、それから樽を選びます。そのひとつひとつの作業にも時間がかかりますから、今回のこの3つのボトリングは感慨深いですね。
WMJ そういった意味では2年半というのはむしろ短かったかもしれませんね。それぞれの味わいは、先ほどテイスティングでおっしゃったように、蒸溜所の特徴が生かされているかと思います。その特徴を表現するため、ザ・ソサエティのボトルには印象的なタイトルがつけられていますが、佐久間さんからそれぞれのウイスキーをあらわすような、思い浮かぶお言葉はありますか?
TS なかなかこういう詩的な文章というのは思いつきませんが…香りというのは記憶に結びつきやすいものだと思います。ある香りを嗅いだときに「ああ、これはあのときのあれに似ているな」と思い出す。そういう人間の感覚というのは非常に確かだと思うんです。言葉で言い表すというのは難しいですが、ブレンダー室の中でいくつもの香りを嗅ぎ分けているときは、まさに記憶にある思い出の場面の連続ですね。
WMJ 時にはそれは女性の思い出だったりもするのでしょうか?
TS まあそうですね、そういう時もあります(笑)
WMJ もともと香りには敏感でいらっしゃったのでしょうね。
TS 香りで色々と思い出すというのは普通の方でもあると思いますが、そうですね、それもあってこういう職業を志したところはあります。
WMJ 先ほど中川社長のお話にもありましたが日本のウイスキーが伸びている現在、佐久間さんが今後新たにチャレンジしていきたいことはありますか?
TS どうでしょう…今私がブレンディングしている原酒の古いものは、私が入社した当時に蒸溜されたものです。今、私たちがつくっている原酒は私が退職した後、次の世代が製品にします。今ブレンディングするときには「当時のブレンダーが考えていたのはこういうことか」と思いますし、今つくるものは20年後30年後に美味しいと言ってもらえるものでなければならないのですから…昨日のウイスキーより今日のウイスキーの方が美味しいと言っていただけて、さらに今日より明日のほうがもっと美味しいというように、そういう意味では毎日新しさがなければいけない、そう考えてつくっています。
WMJ なるほど、そのような思いがニッカウヰスキーの高評価につながっているのですね。ではまた今後、ザ・ソサエティから余市や宮城峡が登場すると期待してもよろしいでしょうか?
TS そうですね、ぜひそういう機会をいただければと思います。
WMJ 今回手に入れられなかった方々にも喜ばれると思います。本日はどうもありがとうございました。
佐久間氏の柔和な口調のなかにある真摯なウイスキーづくりへの姿勢には、強く心を打つものがあった。「ひとりでも多くの方に、美味しいウイスキーを楽しんでもらいたい」―竹鶴氏の思いは脈々とブレンダーに受け継がれ、その情熱が伝わるからこそ人々はニッカウヰスキーを愉しむ。その間を流れる時間の河は決して濁ることはないだろう。
次はいつグリーンのボトルをまとった余市と宮城峡に出会えるだろうか? 来年、英国本部発足30周年、日本支部設立20周年のアニバーサリーイヤーを迎えるザ・ソサエティ、次はどんなサプライズを用意しているのだろうか? 今後もザ・ソサエティからは目が離せない。
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