スペイサイドの1年を振り返る第2弾。クライゲラヒ、グレンアラヒー、グレンリベット、グレンフィディックは、酒齢の高い限定ボトルが話題になった。

文:マーク・ジェニングス


 

クライゲラヒ

 
クライゲラヒ蒸溜所にとって、2024年は素晴らしい年となった。数々の主要な賞を獲得し、スピリット・オブ・スペイサイド・ウイスキー・フェスティバルでの存在感も高めている。

フェスティバルで話題になったのは、普段なら一般公開されていないクライゲラヒ蒸溜所が「舞台裏ツアー」としてフェスティバル参加者向けにに門戸を開いたこと。フェスティバル限定のボトルやグッズを販売するポップアップショップも初めて用意された。この臨時ツアーの成功を受けて、2025年のフェスティバルでも同様の舞台裏ツアーが催行される予定である。


 

グレンアラヒー

 
グレンアラヒーでは、これまでにない試みや画期的な出来事が相次いだ。酒齢が過去最高となるウイスキーの発売、革新的な樽熟成による実験、そしてサステナビリティに向けた本気の取り組みなどが注目されている。

最大のハイライトのひとつは、ペドロヒメネスシェリー樽、オロロソシェリー樽、オーク新樽の原酒を厳選したグレンアラヒー史上最高酒齢のウイスキー「グレンアラヒー 35年」の発売だ。この少量生産のウイスキーには、マスターディスティラーのビリー・ウォーカーによる見事な樽原酒の管理が集約されている。アルコール度数48%で瓶詰めされ、スコッチファンの注目が集まった。

中国市場を重視した春節記念ボトルには、干支の巳が美しくあしらわれている。メイン写真もグレンアラヒーのビジターツアーより。

グレンアラヒー蒸溜所では、マスターディスティラーのビリー・ウォーカーが熟成管理の専門技術をいかんなく披露している。「マスターオブウッド」シリーズの一環として、ミズナラ樽とオロロソシェリー樽で17年間熟成させた初めての「グレンアラヒー 17年 ミズナラ&オロロソカスクフィニッシュ」も発売。日本のミズナラ樽を使用したウイスキーは、希少で複雑な香味を備えている。グレンアラヒーが拡大中の多彩な熟成樽ポートフォリオに、ユニークな一面を加えてくれた。

その一方で「シェリーカスクシリーズ」の第1弾として、フィノ、アモンティリャード、オロロソのカスクフィニッシュも探求された。シェリー樽の影響を色濃く受けたウイスキーの象徴として、グレンアラヒーの評価はさらに高まっている。

製造工程では、2024年から機械的蒸気再圧縮(MVR)技術の導入が始まった。スコットランド産業エネルギー改革基金の助成金によって資金援助されシステムで、蒸溜所のエネルギー需要の50%削減を目的としている。将来的には、バイオガスや水素などの再生可能エネルギーへの移行も後押しすることになるだろう。

その他にも、中国の春節にあわせた限定品として「グレンアラヒー 11年 ペドロヒメネス&オロロソ&バージンオークカスクフィニッシュ」が発売。さらにはボトルデザインを含めたブランド全体のビジュアルも一新されている。

 

グレンリベット


 
グレンリベット蒸溜所にとっての2024年は、ジョージ・スミスが蒸溜所を創設してちょうど200年目となる年だった。このアニバーサリーを祝して、注目すべき商品をいくつか発売している。

そのひとつが、アメリカンオーク新樽のみで熟成された「ザ・グレンリベット 12年 200周年記念 限定ボトル」だ。ラベルにはクラウドソーシングのキャンペーンで選ばれたデザインが採用され、新進気鋭のアーティストがグレンリベットの精神である「進歩と革新」を反映した。

有名ブランドとあって、蒸溜所ツアーも大人気。グレンリベットでは創業200年を記念した特別ツアーも開催された。

またグレンリベット蒸溜所がこれまでにリリースした中で最も酒齢が高い「ザ・グレンリベット エターナルコレクション 55年 」も注目を集めた。これは長期熟成に特化した新しいシリーズの一環として、毎年リリースされるウイスキーの第1弾となる。リベット川からインスピレーションを得た特別デザインのデカンタに収められ、1本5万ユーロ(約800万円)で100本が限定販売された。また2025年1月に発売された「ザ・グレンリベット 40年」は、シェリー樽でフィニッシュした最高酒齢の通年商品となった。

樽熟成における革新をさらに推し進めたグレンリベットは、ファーストフィルのラム樽とアメリカンバーボン樽を組み合わせた新しい熟成スタイル「フュージョンカスクセレクション」を発表。最初のリリースである「ザ・グレンリベット ラム&バーボンフュージョンカスク」は、今後継続的にリリースされるシリーズの口火を切る。さらに「グラウンドブレーカーコレクション」として、赤ワイン樽のフィニッシュも導入した第1弾のボトルが免税店限定で発売されている。

グレンリベット蒸溜所では、創設200周年記念の特別ツアーが開催された。通常は公開されていない2箇所の蒸溜棟にも入れる貴重な体験をビジターに提供している。またストラスアイラ蒸溜所では、新しい贅沢なウイスキー体験を提供する「ザ・ヴォルト」も解説。訪問者はグレンリベットが保有する最高級の樽原酒を試飲して購入もできるようになった。

米国や中国といった主要市場では、経済的な課題が頭をもたげている。それでもグレンリベットは、米国におけるシングルモルトスコッチウイスキー販売量第1位を維持し、主力商品の「グレンリベット 12年」は昨年も市場シェア11%を記録した。

革新的なウイスキー製造、超長期熟成ウイスキーの発売、世界的な販売戦略などが印象的だった200周年の節目に、グレンリベットはシングルモルトスコッチウイスキー業界を代表するブランドとしての地位をさらに強固なものとした。

 

グレンフィディック


 
グレンフィディックは、初めてボルドー産赤ワイン樽でフィニッシュしたシングルモルト「グレンフィディック 31年 グランシャトー」を発表した。アメリカンオーク樽による初期熟成の後、ボルドー産のワイン樽で9年間熟成され、カラメル風味のチェリー、リンゴ、温かみのあるスパイス、そしてトーストしたオーク香が重層的に融合した境地を実現している。この特別なボトルの発売に際し、フランス人アーティストのアンドレ・サライヴァとのコラボレーションも実施。個性的なグラフィティ作品が、250本限定のパッケージに採用された。

この「グランシャトー」が赤ワイン樽フィニッシュの試みを拡大したことにより、2024年はグレンフィディックによる本格的な「グラン」シリーズ幕開けの年となった。
(つづく)