スペイサイドの1年を振り返る【第3回/全3回】

文:マーク・ジェニングス
グレングラント
グレングラントにとって、ここ1年は目まぐるしい変化と投資が続いた時期となった。新しいマスターディスティラーを迎え、ビジター体験が一新され、長期熟成ウイスキーのリリースに引き続き重点が置かれている。
まずは2024年6月に、長年グレングラントの象徴であったマスターディスティラーのデニス・マルコムが63年の輝かしいキャリアを終えた。後任として業務を引き継いだのは、マルコムと20年近く共に働いてきたグレッグ・ステイブルズだ。同時にグレングラントはブランド再構築の取り組みを開始し、蒸溜所の歴史と名高い庭園を象徴するメコノプシス(ヒマラヤの青いケシ)の花をあしらった新しいラベルとボトルデザインを発表した。
グレングラントは、プレステージクラスの商品も拡充させた。同年6月に発売された「グラスハウスコレクション」では、アメリカンオークのバーボンバレルとオロロソシェリー樽で熟成させたシングルモルト3種類を発売。熟成年数はそれぞれ21年、25年、30年である。
また新シリーズ「スプレンダーズコレクション」の第1弾として、これまでにない熟成年数のウイスキーも登場した。その「グレングラント 65年」が蒸溜されたのは1958年のこと。フランチオーク樽で熟成され、ガラス職人が製作したデカンタ入りで151本が限定発売された。価格は1本3万9000ポンド(約750万円)である。
グレングラントにとって、サステナビリティは引き続き重要な焦点となる。昨年はTVR技術の導入によりガス消費量を20%削減し、スペイ川からの取水量も70%削減した。前記のような長期熟成ウイスキーの販売収益を在来種の植林活動の支援に充てるなど、森林保護の取り組みも継続している。
グレングラント蒸溜所では、ビジターセンターと庭園の大規模な改修工事が現在進行中だ。完成すれば、ウイスキー観光の促進がいっそう活発化するだろう。
シングルモルトウイスキーのカテゴリーで、長期熟成のウイスキーに対する需要が再び高まっている。グレングラントは、超高級ウイスキーの人気が継続している韓国や日本などのアジア地域で強力なポジショニングを確立している。
マッカラン
蒸溜所の創設200周年を祝い、マッカランは過去の歴史を振り返りつつも未来を見据えた革新的なブレンディング技術を披露した。アニバーサリーの目玉となったのは、ベントレーとのコラボレーションによる「ザ・マッカラン ホライズン」。高級車をイメージした横長の容器に入れられ、斬新なウイスキーのプレゼンテーションを提案した。

また新しく建設された蒸溜所のウイスキーとともに、過去と未来のつながりを象徴するザ・マッカラン 「TIME : SPACE Mastery」も発売。マッカランとして最高酒齢となる84年熟成のウイスキーが話題を呼んだ。
また「ハーモニーコレクション」では、シルク・ド・ソレイユからインスピレーションを得た2種類のウイスキーを発売。ザ・マッカランの敷地内では特別企画の劇場体験も話題を呼んだ。さらにはスペイン南部の祝祭の伝統を捉えた「ナイト・オン・アース」シリーズの3作目となる「ナイト・オン・アース・イン・ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ」でアニバーサリーイヤーを締めくくった。
マッカランはウイスキーの枠を超え、エステート内でのビジター体験をさらに拡大している。ミシュラン3つ星レストラン「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」とのコラボレーションによる常設ダイニング「タイムスピリット」を立ち上げたのも画期的な一歩だ。これはグルメ界を象徴するロカ兄弟との12年にわたるパートナーシップから生まれたプロジェクトであり、ウイスキーの職人技と美食の融合を体現するものだ。
モートラック
モートラックは現代フランスを代表するデザイナーのフィリップ・スタルクをクリエイティブディレクターに迎え、美しいコラボレーションによる3部構成のシリーズ「L’Evolution Collection(エボリューション・コレクション)」を発表した。
「BEGIN」「BECOME」「BEYOND」の3種類からなるこのコレクションは、モートラック独自の「2.81回蒸溜」と樽熟成について深く探求している。モートラックのニューメイクスピリッツを垣間見る「BEGIN」と50年以上熟成された「BEYOND」との組み合わせは鮮やか。また「BECOME」は、オーク新樽、赤ワイン樽、リフィル樽のミックスで熟成されたモートラックの大胆な表現力を披露している。
またモートラック蒸溜所は、これまでに製造された中で最も熟成年数の長い「モートラック 50年」も発売した。これはアメリカンオークのホグスヘッド1本で蒸溜されたシングルカスクウイスキーである。半世紀にわたって熟成された香味には、甘味、スパイス、そして予想をはるかに超えるフルーツ香がバランスよく共存している。
さらに「スペシャルリリース2024」コレクションの一部として「モートラック ミッドナイトダスク」も発売された。これはラマンドロの白ワイン樽とサンジョヴェーゼの赤ワイン樽で仕上げられたウイスキーで、旨味とフルーツ香の意外な組み合わせを特徴としている。ラインナップの中では、食前酒に最適なウイスキーとして位置づけられている。
ローズアイル
ディアジオ傘下のモルト蒸溜所のなかでも、最大級かつ最新鋭の施設を擁するローズアイル蒸溜所。昨年は「スペシャルリリース2024コレクション」の一環として、「ローズアイル 12年 スペシャルリリース2024 オリガミカイト2」を発売した。シリーズ第2弾のリリースにあたるこの公式ボトリングは、ファーストフィルのバーボン樽とリフィル樽で熟成された原酒で構成されたもの。なめらかでクリーミーな舌触りが特徴で、ローズアイルの職人技を際立たせている。