スペイサイドの恒例フェスティバル

文:ルーシー・スコフィールド
スピリット・オブ・スペイサイド・ウイスキー・フェスティバルは、多くのウイスキー愛好家が楽しみにしている恒例イベントだ。スペイサイド地方の豊かな伝統にどっぷりと浸るチャンスであり、各蒸溜所にとっても伝統をアピールしながら新しいチャレンジの現場になる。
フェスティバルには、印象的なアクティビティが山ほどある。たとえば、カードゥとアイスクリームのペアリングセッションといった試みもそのひとつ。多彩なラインナップの中にあって、注目すべき存在が「スピリット・オブ・スペイサイド・ウイスキー・スクール」だ。スコッチに興味のある人を対象とした3日半の教育プログラムで、スコッチウイスキーの製造、歴史、文化について、学びを深められる内容に定評がある。
今から15年以上前に始まったスペイサイド・ウイスキー・スクールは、フェスティバルに大きな付加価値をもたらしてきた。スクール委員会の議長を務めるアン・ミラーが、まずはスクール運営の目的について次のように説明してくれた。
「ウイスキーブランドや蒸溜所のマネージャークラス、ウイスキー愛好家、そしてウイスキーの普及(蒸溜技術やウイスキーづくりの教育)に携わる業界関係者。つまり、ここスペイサイド地方のウイスキー業界で働くさまざまな人々のために、このスクールは創始されました」
ドラム・クイーン(ウイスキーの女王)の異名を取るアン・ミラーは、マスター・オブ・ザ・クエイヒも務めたウイスキー教育の推進者だ。長いキャリアのなかで、30年近くシーバス・ブラザーズのブランドアンバサダーを務めた経験もある。
「ウイスキー製造についてもっと深く、いろいろな専門家たちと直接対面しながら学んでいきます。参加されるみなさんが、たくさんの学びを得られるような機会を少しでも増やすこと。それがスクール創設以来の目的でもあります」
そのような専門家のなかに、新校長のリチャード・ビーティーも含まれる。グレンリベット蒸溜所でマスターディスティラーを務めたアラン・ウィンチェスターの後任として、今年からスクールの校長に就任したばかりだ。ビーティーには、参加者に伝えるべきスコッチウイスキー製造の経験が豊富にある。以前はグレンアラヒー蒸溜所の製造部長やモスバーン・ディスティラーズの蒸溜責任者も務めていた。近頃は北海道の蒸溜所建設に携わっており、スペイサイドと日本を忙しく行き来している。
スクールで教える立場となる専門家には、エドリントンのダイアン・スチュワート(五感の専門家としてマッカランのテイスティング方法を解説)、ウィリアム・グラント&サンズ蒸溜所責任者のスチュアート・ワッツ博士(蒸溜工程について詳しく解説)、そして今年初めてスクールに参加するリアン・ファーガソン(ジョン・デュワー&サンズのブレンダー)らがいる。そして委員長のアン・ミラー自身は、スペイサイドがスコッチウイスキーに貢献してきた歴史的な背景について講義する。
今年から新たに追加されたのは、スコッチウイスキー協会(SWA)の役割に関する講義だ。このプログラムはミラー自身も楽しみにしており、グレーム・リトルジョン(SWA戦略コミュニケーション担当ディレクター)が講師を務める。スコッチウイスキー業界の背景について、大きく理解が進む内容となるだろう。
このスクールには、米国、オーストラリア、スロバキア、スペインなど世界各国から参加者が集まる。そのためスコッチウイスキーのルールや、スコットランドの蒸溜業者が従う規制について、なるべく事前に周知しておくことが有益だとミラーは語る。
業界が結集してスコッチの知識を底上げ
またアン・ミラーによると、今年から新たにポットスチルや蒸溜機器に関する講義も予定されている。
「エネルギー使用量を削減しながら、常に高品質のウイスキーを製造する技術が大きな課題となっています。スコッチ業界が、サステナビリティに取り組んでいる実例について解説します。とても興味深い内容になるでしょう」
そしてさらなる新企画は、ピートの使用に焦点を当てた講義だ。スペイサイドのウイスキーではさほど一般的ではないものの、ピート香はスコッチウイスキーのパズルを解く上で重要なピースである。
学んだことを実践的な文脈で理解するため、スクールでは蒸溜所への訪問も実施している。今年の訪問先は、グレングラント蒸溜所とオルトモア蒸溜所。オルトモアは新しい熱回収システムを導入し、気候変動の課題に対する独自のアプローチを紹介してくれるはずだ。
またスクールでは、ウイスキー製造に欠かせない蒸溜所以外のプレーヤーも重視する。主な訪問先は、ポートゴードン・モルティングズ(製麦)、スペイサイド・クーパレッジ(製樽)、フォーサイス(蒸溜器などの銅製設備)だとミラーは明かす。
「業界で活躍中のみなさんや、退職されたばかりのベテランたちとの人的なつながりを活かして、興味深い場所をたくさん訪問できます。ここスペイサイドには、行きたい場所がありすぎて困ってしまうくらい。蒸溜所も50軒以上あるので、訪問先を選ぶのかを決めるのは一苦労なんです。なるべく個性の際立った蒸溜所を紹介しようと考えています」
ウイスキー業界内で、参加者が人脈を広げてもらうこともスクールの重要な目的だとミラーは言う。
「参加者にとって、素晴らしい人脈作りの機会となるように運営しています。参加者同士のネットワークづくりはとても活発で、私たちコミュニティ運営者や講演者ともつながれるので多くの利点があります。だからプログラムには、必ず参加者同士やウイスキーの専門家たちと交流するための時間が設けられているんです」
スコットランドでウイスキーの製造について学びながら、ウイスキー業界の人々と知り合えるのは大きなメリットだ。参加者の約4分の1はウイスキー愛好家であり、4分の1はウイスキー製造に携わりたいと考えている人々。残りの参加者は、ウイスキーのマーケティング、ホスピタリティ、ブランドアンバサダーなど、すでにウイスキー関連のコミュニケーションに携わっている人やこれから業界で働きたいと考えている人々だ。
ブランドアンバサダーとしての経験も長いアン・ミラーは、ウイスキーの正しい学びがいかに重要であるかを理解している。
「ウイスキーの学びに終わりはありません。ウイスキー・スクールでは、私自身も本当に多くのことを教わりました。ウイスキー業界で長いキャリアを積んだ後でも、毎日何か新しい学びはあるんです」
今年のスピリット・オブ・スペイサイド・ウイスキー・フェスティバルは、4月30日(水)〜5月5日(月)に開催される。ウイスキー・スクールは、4月27日(日)から開講されるプログラムもある。