スコットランド屈指の景観を誇るスペイサイドの蒸溜所。シーバスリーガルの故郷として愛されるストラスアイラの歴史と近況をグレッグ・ディロンがレポート。

文:グレッグ・ディロン

 

ウイスキー蒸溜所を描いた1枚の絵葉書を想像してみよう。そこにはおそらく立派なパゴダ風の屋根があり、窓から銅製のポットスチルも垣間見えるかもしれない。手入れの行き届いた庭と芝生に囲まれ、明るい緑の草木が生い茂る。背景には丘の稜線が美しくうねっているだろう。

そんな想像上の風景と寸分も違わない蒸溜所が、ウイスキー王国のスペイサイドに実在する。シーバスリーガルの故郷として広く知られるようになったストラスアイラ蒸溜所だ。間違いなく、スコットランド最高の景観を誇る蒸溜所のひとつである。

スコットランド屈指の美観を誇るストラスアイラ蒸溜所。周囲の自然も含め、まさしく絵葉書のように淡麗な姿だ。

この蒸溜所はストラスアイラと名付けられる前に、ミルトン蒸溜所と呼ばれていた時代もある。創設は1786年なので、スコットランドでもっとも古い蒸溜所のひとつに違いない。少なくとも現在稼働中の蒸溜所のなかでは最も古いという説がある。

蒸溜所を創設したのは、ジョージ・テイラーとアレグザンダー・ミルンだ。しかし創設から数十年のうちに、何度も所有者が変わることになる。蒸溜所のそばを流れる川の名前が「ストラスアイラ」なので、地元の人々は初期よりストラスアイラ蒸溜所と呼んでいたようだた。1830年にウィリアム・ロングモアがマクドナルド・イングラム&カンパニーから蒸溜所を購入した時は、すでにストラスアイラ蒸溜所という名称が定着していた。

だが残念なことに、蒸溜所は1870年代に入って2回も火事に見舞われた。最初の火事は1876年で、1879年にはモルトミルの爆発から再び出火。蒸溜所はほとんど崩壊しかけたが、何とか建て直して操業を続けることができた。再建のついでにボトリング工場まで新築したというから大したものだ。

シーバスリーガルの華やかなバランスを支えるストラスアイラのモルト原酒。シングルモルト商品もマニアの間では人気がある。

ロングモアは1880年に亡くなるまで蒸溜所を保有し、その後は娘婿であるジョン・ゲデス=ブラウン が継いだ。このゲデス=ブラウンの時代に、蒸溜所の名前は再びオリジナルのミルトンに変えられている。だがこの方針が災いしたのか、蒸溜所はまもなく50年間にわたる休止期間に突入してしまった。

この50年の休止期間中に、ウィリアム・ロングモア&カンパニー株の大半がジェイ・ポメロイなる人物の手に渡った。このポメロイが誠実な商売人であったとは言い難く、行きあたりばったりの采配を続けた挙げ句に会社も潰してしまった。

このチャンスを見逃さなかったのが、当時のシーグラムである。見事な景観を持つ蒸溜所を購入して瀕死状態から救い、1951年から再びストラスアイラ蒸溜所と名付けて稼働させたのだ。シーグラムはポメロイが会社を倒産させる前から蒸溜所の買収について打診を続けていたが、ポメロイの要求があまりにも高いので一度は諦めていた。だがポメロイが破産したところで再度交渉し、71,000英ポンドというリーズナブルな価格で手に入れることができたのである。

その後、シーバスはまもなくシーバスブラザーズとなった。それ以来、ストラスアイラ蒸溜所はシーバスリーガルの心の故郷して親しまれ、現在もシーバスリーガルのブランドストーリーを伝えるツアーが開催されている。蒸溜所を訪ねた人々は、その卓越したブレンディングの技術についても触れることができるようになった。

ストラスアイラ蒸溜所のビジター体験は、2018年に大きくアップデートされている。ウイスキー観光を目的とした世界中からの来客が、シーバスリーガルとストラスアイラのブランドをインタラクティブに理解できる構成だ。ウイスキーファンなら、人生に一度は訪れておくべき場所。そう断言できる蒸溜所はさほど多くない。

 

他の追随を許さないビジター体験

 

シーバスのブランド体験を管轄するユアン・ハドソンは次のように述べている。

「ビジター施設を改装したのは、来客者の心をつかんで没入感たっぷりの体験を創り上げるため。ブレンド技術の素晴らしさを伝え、ハイランド最古の現役蒸溜所であるストラスアイラの歴史と伝統を実感していただくのが狙いです。新しいブレンド室ではインタラクティブな仕組みを導入し、超プレミアムなブレンデッドウイスキーを創造するチャレンジをリアルに楽しく体験することができます」

ストラスアイラ蒸溜所は、ウイスキーづくりを基礎レベルから学びたい人にぴったりのチャンスを提供してくれる。さらにブランドや味わいの変遷についても正確に理解できるようになる。各種ツアーはこぢんまりとした個人訪問のようで、一般の大型蒸溜所に見られるパッケージツアーのような印象は少ない。ロイヤルサルートとシーバスリーガル用の貯蔵庫には秘密のエリアまであり、驚くほど希少なウイスキーを樽出しでテイスティングできるのだとハドソンは教えてくれた。

「ビジターの皆様のご意見に耳を傾けることで、何よりもビジター体験に重きをおいたサービスを生み出すことができました。ウイスキーマニア、コレクター、愛飲家、歴史研究家、ショッピングマニア、カクテルファン、熱心な勉強家など、どんな人の心にも残るように趣向を凝らしています」

シーバスリーガル用やロイヤルサルート用に分けられて熟成される原酒。ゲストが自分用のブレンドをつくって持ち帰るプログラムが大人気だ。

自分でブレンディングを学んで、理想のウイスキーを調合できる「ザ・ブレンド・エクスペリエンス」は特別室で開催される。ウイスキーのファンやコレクターはもちろん、最近になって興味が増した人たちも自分だけのウイスキーをブレンドできるのだ。フレーバーのバランスについて学びながら、ほんのりとしたスモーク香の魅力などについて実地で理解しながら試行錯誤できる。

このような体験は、どこでも簡単に得られるものではない。自分でブレンドした200mlのウイスキーを瓶詰めして持ち帰るのも大きな楽しみだ。運営に慣れたストラスアイラのチームと一緒に、参加者は自分のブレンドを組み立てながらさまざまな知識を学ぶことができる。ハドソンは最後にこう語ってくれた。

「これからもさらに革新的なアプローチを模索しながら、人生やスコッチウイスキーにおける”ブレンド”の面白さについて伝導していきたいと思っています。自分のブレンドをお持ち帰りいただける『シーバス・ブレンディング・キット』は、ビジターやウイスキーファンの皆様に大好評です。ガイド付きのテイスティングセッションとブレンド教室を組み合わせた『ザ・ブレンド・エクスペリエンス』は各都市のバーで開催されています。いかにも敷居が高そうなスコッチウイスキーのイメージは忘れて、誰にでも気軽に楽しめるような内容になっていますよ」