アイラ島を旅する【前半/全2回】
スコットランドの洋上に浮かぶインナー・ヘブリディーズ諸島。その最南部にあるアイラ島は、日本のウイスキーファンにとっても憧れの地だ。島内をめぐるモデルコースを、ローラ・フォスターがご案内する2回シリーズ。
文:ローラ・フォスター
美しい自然の宝庫といわれるスコットランドにあって、ヘブリディーズ諸島はまさに王冠に飾られた宝石。とりわけウイスキーファンにとって、アイラ島は最高の魅力を満載したヘブリディーズ諸島の女王である。
ワールドクラスのウイスキーを別にすれば、アイラ島の地形には他の島ほどの特徴もない。スカイ島の雄大なキュイリン山や、カリブ海を思わせるハリス島の白砂などのような名所は皆無だ。それでもこの島には、静かな美しさがある。約600平方キロの大地に広がるなだらかな丘や、風が吹き抜ける黄金色のビーチ。美しいインダール湾のなかからは、ポートシャーロットとブルイックラディの対岸に幻想的なボウモア蒸溜所の姿が望める。
ここには何時間でも座って眺めていられるような、広々とした雄弁な風景がある。大西洋の風で目まぐるしく変化する天気にも飽きることはないだろう。ゆったりとした時間を過ごすなら、晴れた日を選んで、ボウモアホテルのそばの海岸に出るのがいい。もちろん手にはボウモアが誇る700種類ものウイスキーから、とっておきのものを選んで。
だがひとたび嵐が来ると、まさにアイラモルトのような荒々しい体験が待っているのもアイラ島の真実だ。叩きつけるような雨や、うねる波もまたこの地の名物である。
天気を完全に予測することはできないが、あたたかな歓迎はいつでも保証されている。せわしない日常生活から抜け出し、ピートの効いた美味しいウイスキーをゆったり楽しむ時間なら、ここに来れば無尽蔵にある。
アイラ島はこじんまりとした島なので、しっかりと計画さえ立てれば数日間ですべての蒸溜所を回れる。ウイスキー以外にも、さまざまな素晴らしい体験が待っている。
さっそく蒸溜所めぐりへ
蒸溜所訪問が主目的である読者のみなさまには、蒸溜所ツアーを確実に事前予約しておくことをおすすめする。特に繁忙期は予約が取りにくくなる。また夏季と冬季では営業時間が異なるので要注意だ。
アイラ南岸の3巨頭であるアードベッグ、ラフロイグ、ラガヴーリンをカバーするには、最低2日間が必要だと考えておこう。ラフロイグに1日、アードベッグとラガヴーリンに1日という配分だ。
世界でもっとも素晴らしい蒸溜所体験のひとつが、ラフロイグの「ウォーター・トゥ・ウイスキー」ツアーである。自分でフロアモルティングを体験して、キルンを点検する。キルンのなかに足を踏み入れ、足下のゲートからピートの煙が立ち上がってくるのを眺めた経験は忘れられない。水源までのピクニックに出かけ、湿地帯でピートを掘り出そうとして失敗し(見かけほど容易ではない)、貯蔵庫のカスクからサンプルボトルにウイスキーを詰める。蒸溜所を出る頃にはほろ酔いで、知的感動に満ちた1日に大満足していることだろう。
2日目は、朝の9時半に始まるラガヴーリンの蒸溜所ツアーに参加して、10時半に貯蔵庫でおこなわれるデモンストレーションに間に合わせよう。ラガヴーリンの生ける伝説であるイアン・マッカーサー氏が、古い原酒のサンプルを次々とカスクから取り出して、熟成の効果について解説する講義が見られるかもしれない。ラガヴーリンからは、3つの蒸溜所を結ぶ景色のよい小道を通って、1マイルほど先のアードベッグまで歩いていく。
アードベッグはアイラ島でいちばんハンサムな蒸溜所だ。居心地のよい「オールド・キルン・カフェ」 は、ランチ休憩にぴったりのスポット。食事が済んだら、アードベッグでいちばん詳しく技術面について学べるツアー「ウイスキー解剖(Deconstructing the Dram)」に参加しよう。クライマックスは、第3貯蔵庫でおこなわれるテイスティングだ。
そしてもし可能なら、アードベッグ蒸溜所の敷地内にある「シービュー・コテージ」に宿泊していただきたい。ミッキー・ヘッズ蒸溜所長の自宅に隣接したスタイリッシュなコテージからは、素晴らしい海景が眺められる。徒歩圏内の岬からは、アードベッグ蒸溜所の見事な写真が撮れるだろう。ウイスキーを片手に岬を目指して夕陽を待っていると、最後の訪問客が帰ってウサギたちがのびのびと敷地を跳ね回る。蒸溜所に静寂が訪れるひとときは、深い満足感に包まれるはずだ。
こんな魔法のような場所から、一時たりとも離れたくない。そんなときにぴったりなシーフードのデリバリーが「ブー」と「イシュベル」だ。獲れたてのロブスター、クルマエビ、ホタテ、カニなどが選べるので、前日までに予約しておこう。時間があるのなら、近くにある歴史遺産「キルダルトンクロス」に足を延ばしてもいい。ムードたっぷりの屋根がない教区教会のなかに、9世紀のケルト式十字架が立っている。ここの駐車場の無人販売ボックスに、ポット入りのお茶とケーキが残っていることがある。レモンドリズルケーキのスライスをかじりながら、複雑に削られた十字架と中世の墓地を見学するのも一興である。
(つづく)
アイラ島への行き方 アイラ島内の移動 ベストシーズン暖かい季節には天気が穏やかであるばかりでなく、営業時間も長く、催行されるサービスやツアーの数も多い。 |