生まれ変わったトバモリー蒸溜所【後半/全2回】
文:ガヴィン・スミス
トバモリーの仕込み水は、「ギアー・アブハイン」という名の小川から引いている。糖化は5トンの鋳鉄製(蓋は銅製)マッシュタンで1サイクル9.5時間。発酵はオレゴンパイン材の木製ウォッシュバック4槽(容量は各23,000L)で、発酵時間は48~100時間だ。
現在のところ、トバモリー蒸溜所で生産するモルトウイスキーは、52%がノンピートで48%がピーテッドという割合である。ピーテッドモルトのフェノール値は38~40ppmだ。蒸溜所では、この2つのモルト原酒を時期で区切ってつくり分けている。年間生産量は75万Lで、フル稼働したポテンシャルの約75%にあたる。
「ゆっくりと長時間をかけた蒸溜のプロセスが、すべてのウイスキーの酒質に影響を与えています。さらに一風変わったライパイプ(最上部でS字型に曲がっている)も、かすかにオイリーな特徴と柑橘風味をスピリッツに授けています」
蒸溜所長のエレイン・マカダムが、蒸溜工程について説明する。蒸溜室にはウォッシュスチル(初溜釜)とスピリットスチル(再溜釜)が各2基あり、容量はそれぞれ22,000L(使うのは18,500L)と17,100L(使うのは15,500L)だ。
昨夏は蒸溜所の操業再開を祝うことができた。既存の「トバモリー10年」の代わりに、「トバモリー12年」を発売したのもこのタイミングだった。現在のところ、トバモリーの通年商品はこの1種類のみである。一方のレダイグは「レダイグ10年」と「レダイグ18年」のコンビが存続している。
「トバモリー12年」はファーストフィルのバーボンバレルで熟成され、その後にアメリカンオークの新樽で最長9ヶ月間の時を過ごす。トバモリーを所有するディステルで、ブランドディレクターを務めるデレク・スコットが説明する。
「トバモリー10年は素晴らしいウイスキーでした。それでも原酒が持つポテンシャルをまだ完全に表現しきれていないという結論に達したのです。トバモリーのように実績のある古いブランドにとって、この変更はとても大きなものでした。でもたった数年の違いで、ウイスキーは本当に大きく変わることができたのです」
コアレンジの新顔は「トバモリー 12年」。アメリカンオークの樽で12年熟成され、アルコール度数は46.3%だ。ノンピートの大麦モルトからつくられ、甘くてフローラルな風味を特徴とする。生き生きとしたフルーツ香やスパイスも魅力である。
両ブランドの数量限定商品にも注目
一方のレダイグは、コアレンジを温存している。「レダイグ 10年」は、バーボン樽で10年熟成したウイスキーで、アルコール度数は46.3%。「多様な表現を巧みに生み出すトバモリー蒸溜所の象徴であり、ピーテッドモルト原酒のエッセンスを表現したウイスキー」と評される。パワフルなピートのスモーク香と甘みがあり、海のそばでつくられたウイスキーらしく塩気の余韻がいつまでも続く。
また「レダイグ 18年」はバーボン樽で16年熟成した後に、2年以上シェリー樽でフィニッシュを施したウイスキー。アルコール度数はやはり46.3%だ。甘みとコショウのようなスモーク香がバランスをとり、シェリー樽由来のリッチで複雑な風味も加わっている。完熟のアンズ、焼いたナッツ、甘口のシェリーを思わせる味わいだ。
通年商品のコアレンジを補足するように、トバモリー蒸溜所はいくつもの限定商品を発売している。いずれもディステルが恒例でリリースする「リミテッド・リリース・コレクション」の一部だ。2019年のコレクションには、「トバモリー(1999)マルサラフィニッシュ」と「レダイグ(1997)マンサニージャフィニッシュ」がある。
他にも入手可能なリミテッドエディションには「トバモリー 2007 シェリーフィニッシュ」(度数62.4%)も挙げられる。これは2007年11月2日に蒸留したスピリッツをリフィルのホグスヘッドで熟成し、最後にシェリーバットで22ヶ月間後熟したものだ。
本物のトバモリーマニアで、しかも1本2,500英ポンドのウイスキーが買える人なら、シェリー樽の風味が濃厚な42年熟成のトバモリーもある。蒸溜所長のエレイン・マカダムによると、まだまだ興味深いリリースが予定されているようだ。
「来年はレダイグとトバモリーに、それぞれ1商品ずつの定番品を追加する予定です。どちらがいつ出るのかといった情報は明かせませんが、蒸溜所でも発売を楽しみにしています。品質には自身を盛っており、ご愛顧いただいている熱心なお客さまのコレクションに加えていただけるものと確信しています」
さらに蒸溜所では、限定エディションの商品を用意している最中だとエレインは言う。
「まだ詳しい内容はお伝えできません。でもトバモリーとレダイグのファンのみなさまには、もうすぐ大きなプレゼントをお贈りできることになるでしょう」