コロナ禍を乗り越えたタリバーディン
文:ミリー・ミリケン
ウイスキーマガジンは、2017年にパースシャーのタリバーディン蒸溜所を訪ねている。当時のタリバーディンは、復活後に目覚ましい進化を遂げつつある蒸溜所として注目を浴びていた。
タリバーディンを2011年に買収した新オーナーのテロワール・ディスティラーズは、大掛かりな設備投資によってウイスキーづくりのほぼ全工程を蒸溜所内で完結させるようにした。自社管理の熟成樽、新しくマスターブレンダーに任命されたキース・ゲッデス、ビジターセンターの建設計画など、未来に向けた楽しみな変革を次々に実行してきた。
その後、ゼネラルマネージャーのマイク・エリオットに近況を聞く機会があった。ちょうど2021年の中頃で、世界もスコットランドもコロナ禍のまっただなか。それでも鄙びたブラックフォード村からは、明るい話題ばかりが届いていた。
前回の取材から4年の間に、どんなことがあったのか。そんな質問に、エリオットは「お知らせしたいことは、山ほどありますよ」と答えた。ビジターセンターは12ヶ月にわたって閉鎖されていたが(2021年4月26日からショップのみ再開)、再オープンを目指してビジターを迎え入れる準備が進めている時期だった。
新しい商品、デザインを一新したラベル、製造工程の工夫、新しいブレンダーの採用など、蒸溜所にはニュースがたくさんあるという。蒸溜所を訪れるビジターも、ツアーの再開を心待ちにしていたことだろう。そんなこともあって、この4年間にタリバーディンで起こった変化をひと通り確認しておきたくなったのだ。
実験精神あふれる商品ラインナップ
蒸溜所の新しい動きは、まずボトルデザインに現れている。2020年11月から、タリバーディンはシグネチャーレンジのボトルやパッケージを一新した。軽くなった紙箱の原料は、地元の森林からサステナブルな方法で調達された木材だ。また新パッケージでは、色付きのヘッドバンドもあしらった。この変化について、エリオットが説明する。
「ブランドのイメージを向上させて、昔ながらの手づくりやタリバーディンの特性を表現するデザインに変更しました。市場のトレンドに応えながら、同時に環境負荷についても真剣に見直す機会になりました」
ポートフォリオにも魅力的な新顔が加わっている。シグネチャーレンジの4商品からなるテイスティングコレクションを2020年夏に発売し、その少し前には「タリバーディン 15年」がファイン・エイジド・コレクションのひとつに加えられた。
人気のマルケス・コレクションでも引き続き新しい香味のウイスキーをリリースしている。もっとも新しい限定ボトルは2021年3月に発売された「マレイ・ダブルウッド」で、これはまずファーストフィルのバーボン樽で熟成してから、ファーストフィルのシェリー樽に詰め替えて仕上げたシングルモルトウイスキーである。
このような限定エディションのウイスキーをつくってファンを楽しませることは、蒸溜所チームにとっても大きなやりがいになっているという。
「限定ボトルは、私たちの多彩さを表現するまたとないチャンス。タリバーディンの素晴らしい風味に、革新的な試みを加えることもできます。この実験精神が、蒸溜所で働く全員を楽しませてくれるのです」
この4年間には、蒸溜所限定ボトルの発売も3回あった。これも蒸溜所チームがさまざまに異なった熟成樽を試してみるチャンスであり、すべてノンチルフィルターでボトリングされている(販売は蒸溜所のみ)。 この蒸溜所限定ボトルは、ここで働くチームと密接に関連しており、それぞれのボトルは熟成樽を選んだメンバーにちなんで名付けられている。
さらに「カストディアンズ・コレクション」も注目だ。1950年代、1960年代、1970年代の長期熟成原酒を使用したウイスキーで、ウイスキー市場でも特に希少かつ価値の高いボトリングである。すでに発売済みの「タリバーディン 1952」と「タリバーディン 1970」に加え、2020年には「タリバーディン 1964」が発売された。エリオットによると、まだ同シリーズの発売予定がある。
そして2022年初頭には、「タリバーディン 18年」が新発売される。「すでに使用する樽原酒をモニタリングしているところです」とエリオットは明かす。彼自身はもちろん、蒸溜所チームの全員が楽しみにしているリリースなのだという。
新しいブレンダーが樽熟成の戦略を刷新
これらの新商品は、過去数年間に蒸溜所で採用した新しい製造工程から生まれた成果でもある。2017年の時点では、糖化工程でかなり多くの面倒な作業があったのだとエリオットは明かした。このような業務上の改善を経たことで、タリバーディンらしい特性を維持しながら生産量を増やすように最適化できたのだという。純アルコール換算で230万リッターだった年間生産量は、今や300万リッターに近づいているのだとエリオットは言う。
このような変化も、新しいブレンダーである「ラブ」ことロバート・ソーマンなしでは成し遂げられなかった。前職でグレンモーレンジィのヘッドブレンダーを務めていたソーマンは、その豊富な経験をタリバーディンで活かしている。タリバーディンの将来を見据えて、原酒のストック構成などについてもエリオットと緊密に話し合っているのだという。
またビジター体験には、「テイスティング・ボンド」も加わった。これは蒸溜所ツアーの最後に組み込まれたテイスティングプログラムである。昨年7月には新しいタンク設備も導入され、ツアーのルートも変更された。どれもビジターにとっては楽しみな変化である。
なかなか蒸溜所を訪問できない地域に住んでいる人たちも、タリバーディンの味わいに関心を寄せるようになってきた。2021年には「タリバーディン アルティザン シングルモルト」と「タリバーディン 12年」を米国市場で発売。海外への輸出拡大も予定されている。
コロナ禍によって、ビジターやパートナーたちとの交流が滞った時期もあった。それでもタリバーディンは、どうやら嵐を乗り越えてコロナ以前よりパワーアップした。再びビジターたちを迎える準備が整い、エリオットは現在の状況に幸運を感じているのだと強調する。
「確かにコロナ禍は大変でしたが、このウイスキー業界で働いてきた幸運を噛みしめるような時期にもなりうました。こうやってビジターツアーを再開できることにも喜びを感じています」