ネッシー探索の前に、ぜひ味わってみたいビールとスピリッツ。ウーラヴェイシュトは、ウイスキー生産地としてのインヴァネスを見事に復活させてくれるだろう。

文:ガヴィン・スミス

 

ウーラヴェイシュトはビールとスピリッツの両方を製造できる画期的な生産拠点だ。スピリッツ蒸溜を管轄するヘッドディスティラーのドリュー・シアラーは、エディンバラのヘリオットワット大学で醸造と蒸溜の修士号を取得している。

ウーラヴェイシュトで働く以前のシアラーは、スコットランド中部にあるグレーン用のスターロー蒸溜所とラム用のマトゥガ蒸溜所で働き、インヴァネスシャーのアヴィモア近郊にあるキンララ蒸溜所(ジン製造が主体)でも経験を積んできた。ウーラヴェイシュトでつくるウイスキーの酒質について、シアラーは次のように語っている。

「ウーラヴェイシュトでは、非常に軽やかな香味のシングルモルトスタイルをつくっています。発酵工程に使っている酵母は、すっきりとした味わいで知られるアメリカンエール酵母(サッカロミセス・セレビシエ)。スピリッツの繊細なニュアンスを際立たせ、自然な特徴を損なうことなく複雑さを加え、洗練された深みのあるウイスキーに仕上げられる酵母です」

この酵母は、繊細なフルーティーなエステルとマイルドでバランスのとれた香りをもたらし、熟成後のウイスキーに滑らかな舌触りを授けるのだとシアラーは言う。

また蒸溜器のヘッドにあるボールやライアームの傾きは、蒸気の還流を促して軽やかな香味のスピリッツを生み出す設定だ。原料の大麦モルトは、インヴァネス市内のベアーズモルト社から調達している。熟成に使用する樽も良質なものだけを厳選しているのだとシアラーは説明する。

「原酒の熟成具合を見極めながら、まずは3年ほどで素晴らしいウイスキーに仕上がっていることを期待しています。ボトリングのタイミングは、まだ決めていません。まだ熟成途中の原酒をボトリングすることはありませんが、ウイスキーが3年熟成した時点で最初のリリースを用意したいと考えています。ただしごく限られた数量での発売になるでしょう」

取材した2024年11月初旬の時点で、樽138本分の原酒が熟成の途中である。これらの原酒はおおむね蒸溜所が商品ように使用する予定だが、その一部は個人の顧客にも販売済みである。熟成樽はバーボン樽が主体だが、一部でシェリー樽も使用されている。

ヘッドディスティラーのドリュー・シアラー(左)とアシスタントディスティラーのニコール・ヘンドリー(右)。蒸溜所は若い才能に支えられている。

樽ごとに販売する2024年のプログラムでは、クォーターカスクに入った樽原酒が販売された。チャーで再活性化したクォーターカスク、ピーテッドモルト原酒を貯蔵したクォーターカスク、通常のモルト原酒を貯蔵したクォーターカスクなどのバリエーションがあった。

「インヴァネスでウイスキーづくりが復活した第一歩として、数量限定のクォーターカスク熟成ウイスキーを市場に提供できるのは誇らしいことです。細心の注意で蒸溜したニューメイクスピリッツには、とても繊細な香味が感じられます。自分たちが求める高い品質に見合った樽を慎重に選びました。インヴァネスのウイスキーは、どこまでも高品質でなければなりませんから」

チャーを施したクォーターカスクは、ウイスキーに豊かなバニラの香りを与えてくれる。チャーによって木材に含まれるリグニンが分解され、香味成分のバニリンが生成されるからだ。甘味と深みが重なり合い、フレッシュで活気のある風味がそこから生まれるのだとシアラーは言う。

「通常のモルト原酒を貯蔵したクォーターカスクは、まろやかで繊細な風味です。熟成中にフローラルな香りが少し加わることで、洗練された繊細な風味が生まれます。一方、ピーテッドモルトを貯蔵したクォーターカスクでは、海藻を思わせるスモーキーな香味がはっきりと感じられます。樽が以前に貯蔵していたアイラモルト特有のニュアンスです」

現在は生産量を増やしている最中で、バーボン樽にして年間200本分の原酒生産を目標にしている。生産設備の拡張計画もさまざまな形で検討中だ。コアとなる原酒ストックを十分に確保したことで、今年以降はさらにさまざまな試みがおこなわれることになるだろう。

ウーラヴェイシュトのチームがシングルモルトの熟成を待つ間は、ブレンデッドモルト「コルパック」と「ニューメイク」が購入できる。

ブレンデッドモルトの「コルパック」には、ピート香の効いたタイプ(シー・アンド・スモーク)とピート香のないタイプ(アース・アンド・スパイス)の2種類がある。

「シー・アンド・スモーク」は、ハイランドモルトとアイラモルトをブレンドしてバーボン樽で熟成させ、ほのかにスモーキーな味わいが特徴だ。また「アース・アンド・スパイス」は、複数のハイランドモルトをブレンドし、バーボン樽とシェリー樽で熟成させた飲みやすさが特徴だ。

またウーラヴェイシュトのツアーに参加する人々には、ヘッドディスティラーが案内する90分間のツアーをはじめ醸造所と蒸溜所のさまざまなツアーが提供されている。ツアーには「コルパック」のテイスティングが提供され、現在製造されている4種類のビールの試飲もできる。

そんなツアーの魅力も手伝って、ウーラヴェイシュトには酒好きの住民がよく訪れる。醸造所から直接ビールを飲めるのは嬉しいし、アイデア満載の軽食や300種類のウイスキーを取り揃えたバーも人気を呼んでいる。

ウーラヴェイシュトは、インヴァネスで130年以上ぶりに建てられた新しい蒸溜所だ。ネッシーでも有名なこの町を訪れる人にとって、欠かせない観光スポットとなりつつある。
 

かつてインヴァネスにあったウイスキー蒸溜所

 
インヴァネスには、かつて商業用蒸溜所が3軒あった。いずれも1980年代まで操業していたが、現在残っているのはミルバーン蒸溜所の跡地だけだ。ミルバーン蒸溜所跡は、市街地から1.5kmほど離れたミルバーン・ロードにある「プレミア・イン・オールド・ディスティラリー・バー&レストラン」の一部として保存されている。

インヴァネスにあった3軒の蒸溜所で、最も最初に建てられたのがミルバーン蒸溜所だ。設立の時期は、1805年から1807年頃だとされている。何度か経営者が変わり、1943年からはディスティラーズ・カンパニー・リミテッド(DCL)の所有となった。多くの蒸溜所と同様に、1922年4月に発生した火災で深刻な被害を受けた。この火災は、近隣のキャメロン・バラックスの軍隊の協力により鎮火されている。

スコッチウイスキー業界の生産過剰により、DCLは1980年代に20軒以上の蒸溜所を閉鎖した。ミルバーン蒸溜所もその犠牲となり、インヴァネスにあったグレンアルビン蒸溜所とグレンモール蒸溜所も同時に閉鎖された。

グレンアルビン蒸溜所は、カレドニアン運河にも程近いビール醸造所の跡地で1844年に創設された。閉鎖されるまで、ほとんどの期間を通じてブレンド用のモルト原酒を生産していた。

グレンモール蒸溜所は、グレンアルビン蒸溜所の隣で1892年に創業した。そして1972年にはグレンアルビンとグレンモールの両方がDCLに買収されている。

グレンモールのモルト原酒も主にブレンディング用として生産されていたが、シングルモルト製品も市場に広く出回って高い評価を得た。グレンモール蒸溜所では、1923年から1937年にかけてニール・M・ガンが常駐税務官を務めている。税務官の仕事をしながら、『ウイスキーとスコットランド』を書き上げたことでも知られる著名な小説家だ。

グレンアルビンとグレンモールは、どちらも1983年にDCLによって閉鎖され、その3年後に建物も取り壊されている。その跡地は、現在テルフォード・リテール・パークとなっている。一度はウイスキーづくりが途絶えたインヴァネスだったが、その約40年後になってウーラヴェイシュトが伝統を復活させたのである。