人気の新興アメリカンウイスキー蒸溜所を訪ねよう
クラフト蒸溜所ブームが続き、蒸溜所の総数が1,000軒に届きそうなアメリカ国内。有名な「バーボントレイル」以外にも、充実したビジター施設を誇る蒸溜所はたくさんある。ライザ・ワイスタックが、ケンタッキー州外から注目のスポット8箇所を厳選してご紹介。
文:ライザ・ワイスタック
フィラデルフィア・ディスティリング(ペンシルベニア州フィラデルフィア)
2005年創業のフィラデルフィア・ディステリングは、2016年10月に人気のフィッシュタウン地域へと本拠地を移転したばかりだ。45年も放置されていた築100年以上前のビルを改装し、真新しい蒸溜所設備の周囲にはバーや屋外の休憩スペースを設置。蒸溜所機能は、まさにステージのようなセットの中心部にある。バーの背後には高さ3.5メートルの窓が6つあり、バーテンダーの肩越しに蒸溜所の設備が見えるのが面白い。真新しい2,500Lの銅製ポットスチル、創設時からある1,500Lのポットスチル、新品のコラムスチルという顔ぶれだ。ここでで生産される「ブルーコートバレルリザーブジン」は、ウイスキーファンにもおすすめの銘柄。グレーンを粉砕し、発酵し、蒸溜し、ボトリングする工場内の様子を、バーや屋外のテーブルからドリンクやガストロパブ風のスナックを味わいながら眺められる。
www.philadelphiadistilling.com
ニューヨーク・ディスティリング・カンパニー(ニューヨーク州ニューヨーク市ブルックリン区)
ブルックリンでも最高にヒップな倉庫街として有名なウィリアムズバーグ。この町にあるニューヨーク・ディスティリングのツアーは、予想を裏切る驚きの連続である。蒸溜所の呼び物のひとつは、大きな窓付きの壁で仕切られたレンガ造りのバー「シャンティ」。スタイリッシュな店内は、カクテルを愛好する来客たちで毎晩遅くまで賑わっている。クラシックなカクテルを中心にしたドリンクのラインナップは、ここニューヨーク・ディスティリングでつくられたスピリッツがベース。ストレートライウイスキー「ラグタイムライ」や、ウイスキーとロックキャンディーからつくる古風な製品「ミスターキャッツロックアンドライ」などが、ブルックリンでも人気の銘柄である。
セントオーガスティン蒸溜所(フロリダ州セントオーガスティン)
フロリダのセントオーガスティン蒸溜所は、1日あたり何百人もの旅行者が訪れる名所である。というのも、街中の主要な見どころを回る乗り降り自由の観光トローリーバスが、蒸溜所の目の前を通っているのだ。昨年の訪問者は約12万3千人。蒸溜所のツアーに参加すれば、ジン、ポットスチル蒸溜のラム、ウォッカ、カクテルなどがテイスティングルームで味わえる。2016年秋からは新商品「セントオーガスティンズ・ダブルカスクバーボン」も登場。湿度の高い気候で熟成された独特の効果が味わえるウイスキーだ。1917年に建てられた製氷工場を改装し、2014年に創業したこの蒸溜所。古きフロリダの面影を残すビンテージスペースは、バーのロケーションにもぴったりだ。蒸溜所内に併設された風格あるバー「アイスプラントバー」の経営は別途だが、蒸溜所で生産されるさまざまなスピリッツを提供している。
http://staugustinedistillery.com
ブラックダート蒸溜所(ニューヨーク州ワーウィック)
マンハッタンから約1時間で行けるニューヨーク州ワーウィック。ブラックダート蒸溜所の生産拠点は2箇所に分かれている。第1の施設は、2002年に創設されたワイナリー兼蒸溜所。居心地のよいカフェ、屋内と屋外のテイスティングバー、屋外のグリルスペース、秋のリンゴ狩りなどが呼び物である。10年遅れて創設された第2の施設は、そこから数キロ離れた場所にある。生産量も増大させたブラックダートは、地元産スピリッツのファン層を州内で拡大中だ。2016年9月には約30キロ離れたウッドベリーコモンに新しくテイスティングルーム&ショップ「ブラックダートバーボンバーン」をオープン。ウッドベリーコモンは、ハイエンドのアウトレットを集めた人気の巨大ショッピングゾーンだ。気候が良い季節には、買い物客がてら屋外の席でブラックダートのカクテル、ビール、チーズ、地元農家の作物を使用した料理などが楽しめる。
http://blackdirtdistillery.com
オールスモーキー蒸溜所(テネシー州ガトリンバーグ)
グレートスモーキー山脈国立公園への表玄関にもほど近いガトリンバーグ。大自然に憧れる旅行者が、年間約1,000万台の車で国立公園へのゲートをくぐっていく。13種類のムーンシャインを生産するオールスモーキー蒸溜所も、そんな大勢の旅行者を余裕で受け入れる施設が自慢だ。訪問者数は年間250万人で、ジムビームの倍以上を誇る。ザ・ハラーの異名をとる蒸溜所は、地元テネシー流のマウンテンキャビン様式で建てられたU字型の建物が印象的。オープンスペースにはステージが設営され、何列もの椅子が並んでいる。ここで毎日ブルーグラスのショーが開催されるのだ。蒸溜所設備はステージに向かって右側、テイスティングルームと広いショップは左側にある。
ウッディンビル・ウイスキー・カンパニー(ワシントン州ウッディンビル)
2010年、シアトル郊外のレーニア山を見晴らす素晴らしいロケーションに創設されたウッディンビル・ウイスキー。オープン直後より、蒸溜所には大勢の訪問客が押し寄せた。ここから半径8キロ以内には100軒以上のワイナリーがあり、クラフトビール醸造所の老舗であるレッドフックにもほど近い。このワシントン州の一角がドリンカーあこがれの場所ということもあり、ウッドビルの共同オーナーであるオーリン・ソレンセンは土地の伝統を活かそうと考えた。70年の歴史がある居酒屋「ハリウッド・タヴァーン」を再建し、蒸溜所見学とテイスティングを終えた訪問客に伝統的な西海岸北部の名物料理を提供しているのもそんな戦略の一環だ。この居酒屋は2013年に開業し、食事の他にウイスキーのテイスティングセットやカクテルも提供している。蒸溜所の商品はバーのドリンクだけでなく、バーベキューソースやミルクセーキなどの隠し味にもなっている。
キングズカウンティ蒸溜所(ニューヨーク州ニューヨーク市ブルックリン区)
ニューヨークシティでも指折りの歴史を持つ「ブルックリン海軍工廠」界隈。キングズカウンティ蒸溜所は、このクリエイティブなビジネス地域のなかにある。上階の「ブージアム」は、こんな地域にぴったりの博物館。禁酒法時代のスチル、新聞記事の切り抜き、禁酒法以降のニューヨークで初めてつくられたウイスキーとなる当蒸溜所の商品など、ニューヨーク州における蒸溜酒づくりの歴史が展示されている。蒸溜所から少し歩いたところにはニューヨークの工業史跡ともいえる2軒の守衛詰所があり、このうち1軒がアンティークでシックなテイスティングルームや訪問者および従業員用のバーに改装されている。キングズカウンティのウイスキーは、ストレートまたはカクテルで販売。ブルックリンでは他の地元ビジネスとのコラボが盛んだが、ここでもアイスクリーム店「ピープルズポップ」をオーダーし、ウイスキーのチェイサーにするのがユニークな楽しみ方である。
http://kingscountydistillery.com
ハイウエスト蒸溜所&サルーン(ユタ州パークシティ)
ウイスキー好きのスキーヤーには朗報だ。パークシティのダウンタウンにあるハイウエスト蒸溜所は、スキーを履いたままでも楽しめそうなスポット。パブと蒸溜所を合体させた「ガストロ・ディスティラリー」にはスキーが常備されており、冬になると訪問客はサルーン(西部開拓時代の居酒屋)までスキーを滑らせ、屋外の焚き火で暖を取りながら蒸溜所のウイスキードリンクを味わうことができる。豊富なバリエーションを誇るハイウエストだが、限定エディションのバーボン「イピカイエー」は特に要チェック。サルーンは1904年頃の建築物で、訪ねるだけでも古きよきアメリカ西部を感じられる楽しみがあるだろう。食事には美味しいバーガーやシーフードがおすすめだ。ちなみに第2蒸溜所は町から25分ほど郊外に離れている。