世界中の蒸溜所訪問を夢見るウイスキーファンは多いことだろう。クラフト蒸溜所が激増しているアメリカでは、各地に「ウイスキートレイル」が整備されている。2回シリーズのレポート。

文:マギー・キンバール

 

バーボンの蒸溜所訪問を目的とした観光は、かなり以前から定着している。バーボンの父と呼ばれるエドモンド・ヘインズ・テイラー大佐が、オールドテイラー蒸溜所(現在のキャッスル&キー蒸溜所)を設立し、来訪者が蒸溜所を見学しながら丸一日過ごせるような場所にしたのは19世紀のことだった。

ケンタッキーの中でも小規模な町を選んで訪ねるカム・ファインド・バーボン・トレイル(メイン写真も)。予想外のパーソナルな体験もトレイルの魅力だ。

その後、20世紀に入って、ジュリアン・”パピー”・ヴァン・ウィンクルも、共同事業者のアレックス・ファーンズリーとアーサー・スティッツェルと共に同様のスタイルでスティッツェル・ウェラー蒸溜所を建設した。

バーボン業界は、本来ならライバルでもある同業者同士で協力しあいながら発展してきた歴史がある。ケンタッキー蒸溜酒メーカー協会(KDA)が「ケンタッキー・バーボン・トレイル」を整備したのは1999年のこと。ウイスキー観光が本格的に盛り上がってきたのはこの頃である。

観光客が1軒だけでなく複数の蒸溜所を訪ねらるように環境を整備し、蒸溜所を中心にして地域の観光が組み立てられるようにする。それがトレイル発足の狙いである。

「ケンタッキー・バーボン・トレイル」の誕生以来、米国の蒸溜所観光は急速に成長してきた。2015〜2018年の間だけでも、観光客の数は1.6倍に増えている。年間100万人だった観光客が、ほんの数年で165万人になったのだ。ケンタッキー州ルイビルでは「アーバン・バーボン・トレイル」が生まれ、KDAは「クラフト・ディスティラーズ・トレイル」の普及に力を入れている。

 

広いアメリカで次々に生まれるトレイル

 

ルイビルの「アーバン・バーボン・トレイル」は、ケンタッキー・バーボン・トレイルを訪ねてやってきた観光客たちが、ルイビルに宿泊する際に夜の目的地を指南するためのガイドだ。一方の「クラフト・ディスティラーズ・トレイル」は、大規模な蒸溜所だけでは飽き足らないウイスキーファンに、小規模蒸溜所の見学を楽しんでもらおうと企画された。

アメリカ東部のブルーリッジ山脈。ウイスキーの旅は、都市観光で行けない場所にも連れて行ってくれる。

後発でケンタッキー州北部に生まれた「Bライン」は、オハイオ州シンシナティ南部の郊外にある蒸溜所、バー、レストランを巡るルートである。他にもブリット郡の「ワイン&ウイスキー・トレイル」など、ケンタッキー州内だけに目を向けてもたくさんのトレイルがある。

ひとつの州でもこれだけのトレイルがあるのだから、全米にまで視点を広げると嬉しい驚きで声を上げることになるだろう。もちろんこの現象は、現在のクラフトウイスキーブームのおかげである。米国内のどこに住んでいても、数時間ドライブすればどこかの蒸溜所のツアーに参加できるような状況になっているのだ。

早期からクラフト蒸溜所ブームに乗った地域なら、蒸溜所見学のトレイルが整備されている可能性も高い。たくさんの州が、それぞれラム、ジン、ウォッカなどの多彩なスピリッツを産出しているが、その一群には必ずといっていいほどウイスキーの蒸溜所が含まれている。

王道の「ケンタッキー・バーボン・トレイル」を制覇した人も、全米各地に広がるウイスキートレイルを訪ねて、未知の蒸溜所に出会う旅を楽しんでみよう。次回は全米に広がる13のウイスキートレイルを一挙紹介。
(つづく)