ダンネージ式 VS ラック式 【前半/全2回】
貯蔵庫―ウイスキーが長い年月を過ごす重要な建物だ。その貯蔵庫に2つのタイプがあることはご存じだろうか?
モルトウイスキーの個性の約7割が、熟成の段階で決まると言われている。
その熟成が行われる貯蔵庫はダンネージ式が伝統的で、ラック式は1950〜60年代に生まれた。ダンネージ式とラック式は確かに大きく違って見える。しかし、ほとんどの蒸溜所が両方を使っているため、いくつかの疑問が湧く。温度、湿度、空気の循環…環境にどのような違いがあるのだろうか?
スコットランドにおいては一般的に、ダンネージ式熟成庫は天井が低く、石かレンガの壁に土の床とスレート屋根、樽は4段程度まで積み上げる。それ以上積むと重量が下の樽にかかり過ぎてしまうのだ。もちろん、樽の大きさにもよるが。
ラック式熟成庫はレンガやセメントブロック、クラッド鋼の構造物を使って高く建設し、概ねコンクリートの床にトタン屋根だ。スチールのレールを装備した高いラックに8〜12段ほどまで樽を積む。
ラック式熟成庫の薄い壁とトタン屋根は、ダンネージ式熟成庫の厚い壁とスレート屋根より温度変化が伝わりやすい。さらに、ラック式熟成庫は高さがあるため、床と屋根付近の温度差が大きい。しかし、年平均の庫内温度はどちらも同じだ。
温度の重要性は、「サイクル」と呼ばれる熟成工程において重要な作用を促進する点にある。
春と夏に気温が上がると樽の中のスピリッツは膨張し、オークの樽板の中に浸み込んでいく。この時に、木材に含まれる物質…風味に影響を与える要素が液体に溶け出していくのだ。
反対に、秋と冬に気温が下がると、スピリッツは収縮してオークから滲み出し、スピリッツ「本体」に樽材由来の要素が広がっていく…まるで、グラスの中の水にインクを落とした時のように。例えば、バーボン樽からバニラの香り、ペドロヒメネスのシェリー樽からコクのある甘さが引き出されるのだ。
熟成庫内の温度は、樽から水とアルコールが蒸発する早さにも影響を及ぼす。量が減ってしまうため望ましくないと思われがちな「蒸発」だが、ウイスキーに複雑さを与えるのに役立つ。
温度が上がると蒸発のスピードも上がる。前述の通り、同じ条件下にあるダンネージ式とラック式の熟成庫の平均庫内温度は同じなので、年間蒸発率(いわゆるエンジェルズ・シェア)も樽の中身のおよそ2〜2.5%と同じだ。蒸発率の違いによるウイスキーの風味への影響は、熟成工程で最大の謎とされることのひとつではある。こればかりは天使に訊いても首をかしげることだろう。
温度は空気の流れにも左右される。
ダンネージ式熟成庫は普通、両側に格子と網がついた窓があり、ラック式熟成庫は壁に沿って通風口があることが多い。空気は通すが雨が入らないようになった羽目板のようになっている。
重要なのはどの程度の通風があるかとういことだが、窓と通風口は同程度に空気が流れるとされている。このため、熟成庫全体にわたって安定した温度が維持され、安定した熟成工程になると考えられている。
次に熟成環境に関係が深いのは湿度だ。ダンネージ式熟成庫は一般的にラック式より湿度が高い。これはダンネージ式熟成庫の床が湿気を出す土で、コンクリートは通路にしか使われていないことが多いのに対して、ラック式では普通、床がコンクリート製だからだ。
一部の蒸溜業者は、湿度が高いと熟成の速度が遅く(つまり望ましく)なると考えている。湿度の違いがもたらす影響についても、研究が行われている。
【後半に続く】