ダンネージ式 VS ラック式 【後半/全2回】

July 28, 2014

2つの異なるスタイルのウイスキー貯蔵庫を比較する連載の後半。それぞれの特徴を探る。

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一方で、ダンネージ式ラック式を比較する場合、どちらも様々なタイプがあることも重要なポイントだ。
先ほど述べたことに自ら異論を唱えるようで恐縮だが、ラック式熟成庫の中には、コンクリートの量を通路に限定したり、断熱も行って温度を安定させたりしているものもある。
同様に、一部のダンネージ式熟成庫では、コンクリートの床とコンクリートの壁に通風口を備えたものもあるのだ。

さらに、スコットランド内に限定しても地域によって気候に大きな差があるため、熟成庫の内部環境は立地による影響も受ける。厳密に言うと、蒸溜所の敷地内でさえ、周囲の影響を受けやすい場所や受けにくい場所、湿度の違いなどがある。その上、ひとつの熟成庫内でも局所的な環境の違いがある。例えば「ドア近くの方が涼しい」などだ。従って、熟成庫は個々に評価するのが理想ではある。

また、熟成庫の影響だけを抽出して比較することはやはり難しい。
そのひとつの理由は、全ての樽がそれぞれ異なるからだ。同じバッチのスピリッツを同じタイプの樽に同じ日に詰めて、同じ熟成庫に隣り合わせて置いて熟成しても違いが出るのはご存じのとおり。その違いはごくわずかな場合も、著しい場合もある。
熟成工程で最も影響を及ぼすのは樽で、熟成庫はその次と考えられているのはこのためだ。それでも、ダンネージ式とラック式でモルトウイスキーの個性に及ぼす影響に違いがあるのかどうか、そしてどの程度異なるのかをテーマに研究が続いている。

そのような結論(結論とさせてくれない方もおいでだろうが…)が出たところで、改めてダンネージ式とラック式の別の角度での比較をしてみよう。実務的な問題である。
ダンネージ式熟成庫では、樽の移動は基本的に人間が行うために労働力を必要とする。多くの場合、水圧式の傾斜路か、小さなフォークリフトを使用するだけだ。そのためダンネージ式熟成庫のドアは小さい造りになっている。結果的に、ラック式では1時間で済む仕事が、ダンネージ式では最大3〜4時間かかることになったりもする。

また、ラック式は建設費が高くなるが、スペースを効率的に使うことができる。一軒家かマンションか、ということに似た比較だ。そのような検討を経て、蒸溜業者は貯蔵庫のタイプを選択し建設するのである。
多いのは、最初は蒸溜所の規模に見合ったダンネージ式の貯蔵庫を経て、年々増える熟成中の樽に対応するためや生産の増加に伴って、ラック式の貯蔵庫を増築するパターンだ。

重要なポイントは、ほとんどの蒸溜所では、どちらの熟成庫にも必ず様々な熟成年数のモルトウイスキーを分散して貯蔵していることだ。ひとつの熟成庫で火災などの事故が発生しても、あるヴィンテージの原酒が全て失われるのを防ぐ堅実な方法だ。

ダンネージ式とラック式…どちらも一長一短があり、どちらが優れているというものでもないのはお分かりいただけたかと思う。次の蒸溜所見学の際にはぜひ参考にしていただきたい。

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