熟成で最初の3年間に起こること

August 21, 2017


スコッチウイスキーの熟成年が、最低3年間と決められているのには科学的な根拠があるという。それでは樽入れされたスピリッツに、最初の3年間でどんな変化が起こっているのだろう。イアン・ウィズニウスキが熟成初期のメカニズムを解剖する。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

ウイスキーの熟成において重要なのは、蒸溜所の特性(フルーツ、シリアル、ピートなどの風味で構成されるニューメイクスピリッツのプロフィール)と熟成の特性(樽の種類、気化、酸化などの熟成条件による影響)の比率を変えていくことである。

最初の比率は、もちろん100:0(蒸溜所の特性:熟成の特性)である。これが樽入れして数週間も経てば、スピリッツに変化が現れる。それでも3年の熟成を経たスピリッツが、蒸溜所の特性と熟成の特性のバランスでどの位置にあるのかを簡単に算出できるわけではない。そこには数々の要因が関わってくるからである。

例えば、軽めのニューメイクスピリッツには、リッチなニューメイクスピリッツよりも熟成の影響が早期に現れる。これはピートを使用していないニューメイクスピリッツと、ピートを使用したニューメイクスピリッツでも同じことがいえる(ピートが強ければ強いほど、熟成の影響が出るのに長い時間がかかる)。

それと呼応するように、樽のプロフィールによってスピリッツに与えるフレーバーの内容も変わってくる。一般的な選択肢のひとつはバーボンバレルで、バニラ、ハチミツ、フルーツなどの風味をスピリッツに付与する。またシェリー樽は、バニラ、ドライフルーツ(レーズンなど)の風味をもたらすことが知られている。

樽からもたらされるバニラ風味は、樽入れから数週間ではっきりとスピリッツに現れる。最初の3年で急速な影響を与えるが、それ以降は影響力を下げていくという点も重要だ。バニラ風味の大きなメリットは、フルーツ風味などの他の要素も生み出して、酒質をリッチでまろやかにしてくれることである。

バニラ風味に加えて、タンニンの影響もまた重要である。ウィリアム・グラント&サンズのマスターブレンダー、ブライアン・キンズマン氏が説明する。

「樽からタンニンが移る割合は、最初の3年間が最大です。その後は急激に低下しますが、かといって完全になくなることもありません。タンニンはスピリッツにボティ、構造、ドライな風味などを授け、バニラなどの甘味とバランスをとる対照的な要素になります。またタンニンは口当たりにも影響を及ぼし、リッチで口内を覆うようなテクスチャを生み出します」

 

フィルの違いで多彩な原酒を育てる

 

樽からの影響の度合いは、「フィル」によっても左右される。ファーストフィルといえば、モルトウイスキーを初めて熟成する樽のこと。セカンドフィルは2回めに使われる樽で、サードフィルやフォースフィルまで使い込めば熟成用としての限界に達する。

樽はフィルの回数が増えるほどスピリッツへの影響力は減少していくが、その度合はさまざまな要因(前回のフィルで熟成した期間の長さなど)によって変わる。シーバスでブレンディングディレクターを務めるサンディー・ヒスロップ氏が説明する。

「ファーストフィルのバーボンバレルで3年間熟成すると、濃厚なほどにクリーミーで甘いバニラ風味や、ジューシーなキャラメル風味がスピリッツに備わります。フィルの回数を重ねても似たようなバニラ風味が得られますが、その濃密さは徐々に減退していきます。しかしこれを逆から見ると、例えばセカンドフィルのバーボンバレルで熟成された原酒は、ファーストフィル熟成の原酒に比べて、蒸溜所の特性をより色濃く残しているということにもなるのです」

結局のところ、すべてのフィルにはそれぞれの価値があるということなのだ。サンディー・ヒスロップ氏が説く。

「セカンドフィルやサードフィルの樽は、レシピを組むときにとても便利な原酒をもたらしてくれます。それぞれに異なった表現が生み出され、その表現がファーストフィルの原酒と合わせることで増幅されるからです。異なったさまざまなフィルを併用することで、レシピは驚くほど多様で複雑なものとなります」

樽のサイズも重大な要素だ。シェリー樽にはホグスヘッド(250L)とバット(500L)があり、バーボンバレルは約200Lだ。サンディー・ヒスロップ氏が語る。

「バーボンバレルの影響は、バットよりも早く現れます。樽のサイズが小さいため、それだけアルコールが樽材と触れる面積が相対的に増え、オークの風味成分がより多く引き出されるのです。同様に、同じ樽材を使用していても、ホグスヘッドのほうがバットよりも濃厚な風味をもたらします。私はホグスヘッド熟成の原酒とバット熟成の原酒は完全に別物と考えており、どんなレシピでも異なった要素として取り扱います」

熟成における変化はまだ他にもある。それはニューメイクスピリッツに含まれるシリアル風味と硫黄成分が、数カ月のうちに減少を始めることだ。これらの成分を樽が吸収する効果によるもので、気化(年間約2%のスピリッツが蒸発)や酸化(樽の外部と内部を空気が通過することで発生)と関連しながら変化が起こる。シリアル風味や硫黄成分(野菜、肉、ゴムのような匂い)などの主張の強い風味が減少することで、軽やかな風味が顔を覗かせることになる。軽やかな風味とは、つまりエステル香(フルーティ)のような甘さのことで、熟成中のスピリッツのプロフィールを大きく変える働きがある。ブライアン・キンズマン氏が語る。

「モルトウイスキーの風味を形づくる過程において、非常に重要なのが最初の3年間。なぜならこの時期に、さまざまな特性が急速に備わってくるからです。しかし同時に、6~18カ月の間は、蒸溜所の特性と熟成の特性のバランスにまとまりがありません。新しい均衡に達するには、最低3年という時間をかけて調和させていく必要があるということなのです」

 

ウイスキーの色

 

ニューメイクスピリッツは無色透明である。つまり熟成されたモルトウイスキーの色は、すべて樽からもたらされるということになる。しかし樽材に含まれるどんな要素が色をもたらすのかは不明な部分も多く、いまだに研究の途中だ。

スピリッツを熟成して数週間が経つと、最初の色づきが始まる。この頃が最初の3年間でもっとも急速に色がつく時期であり、数週間を過ぎると色づきも緩やかになる。

ウイスキーの色調や着色のスピードは、樽のタイプによって大きく変わる。バーボンバレルは麦わら、ゴールド、琥珀などの明るい色調になり、シェリー樽はマホガニーのような赤みがかった色調になることにすぐ気づくだろう。

ファーストフィルの樽はセカンドフィルの樽よりも色づきが早く、サードフィルはセカンドフィルよりもさらに変化がゆるやかになる。またホグスヘッドは、同様の木材を使用したバットよりも短期間で濃厚な色を授けてくれる。

 

 

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