ルーツに立ち返るハイランドパーク【前半/全2回】

August 18, 2017

ハイランドパークがパッケージを一新した。鮮やかに描き出されたモチーフは、生産地オークニー諸島におけるヴァイキングの伝統を表現したものである。古代スカンジナビア文化の名残りを探すため、クリストファー・コーツが現地へ向かった。

文:クリストファー・コーツ

 

ついに、この地までやってきた。エディンバラから北に6時間車を走らせ、ケイスネス郡のギルズベイからMVペンタリーナ号に乗って、ようやくオークニー諸島(より正確にはサウスロナルドセー島)に辿り着いた。陽光が降り注ぎ、車の窓は開け放っている。カーステレオから聞こえてくるのはエラ・フィッツジェラルドの歌声。生まれて初めて、私はハイランドパーク蒸溜所を訪ねようとしている。ハイランドパークの「ヴァイキングの魂」を探し出すために、はるばるここまでやってきたのだ。

この日に至るまで、ハイランドパークのパッケージ刷新を傍観してきた。オリジナルのコンセプトがいくつかのムードボードを経て最終選考に絞り込まれ、美しく魅力的なボトルが酒屋の棚に並んだ経緯も知っている。 ボトルのガラスにあしらった渦巻状のデザインとボックスのエンボスは、ノルウェーのウルネスにある12世紀建造の木造教会をイメージしたもので、教会の北側のドアに彫られた文様をモチーフにしている。ウルネスの木造教会はユネスコ世界遺産に登録されており、キリスト教と古代スカンジナビアのヴァイキング文化が融合した画期的な建造物だ。

ウイスキーファンには有名なハイランドパーク蒸溜所の門。ハイランドパークのホスピタリティは有名で、2017年のアイコンズ・オブ・ウイスキーでは「ビジター・アトラクション・オブ・ザ・イヤー」に輝いている。

ヴァイキング的価値観が、ハイランドパーク蒸溜所のさまざまな特徴に影響を与えてきたということも承知している。歴史、献身、技術、栄誉、高潔、地域、誇りなどを大切にする態度は、ヴァイキングの伝統として広く理解されている。そしてオークニー諸島自体の歴史、風景、人々も、ハイランドパーク蒸溜所の新しいペルソナに包摂されているはずだ。確信が持てなかったのは、そのようなヴァイキング文化の名残りが、果たして今でも実在しているのかどうかということだけだった。

オークニーでの滞在を通して、はっきりと気づいたことがある。それは議論の余地なく、オークニーでは歴史から逃げ出すことなど出来ないということだ。蒸溜所の門からあてもなく歩きはじめるだけで、この威光あふれる敷地内をくまなく探索したいという強い欲求が湧いてくる。

オークニーは、海に散らばった約70もの島々からなる(島の定義によって数には諸説ある)。その周囲で見られる風景は実に多彩だ。新石器時代の墓石、目をみはるような巨石群、鉄器時代の円塔、ピクト人の農場、歴史ある教会、壮観な大聖堂、廃墟と化した宮殿。海の底には、ドイツ大洋艦隊の沈船や、英国海軍の戦艦ロイヤルオークも眠っている。だがオークニー諸島の総面積はわずか990平米で、アイラ島とジュラ島をあわせた程度しかない。そんな地理的条件もあわせて考えると、歴史の遺構はいっそう心を揺さぶってくる。

 

島々に色濃く残る古代スカンジナビアの伝統

 

もちろんここにはヴァイキングたちの痕跡も残されている。オークニー諸島は、いくつもの墓地遺跡や秘密の財宝で世界的に有名だ。どれも8世紀後半にあえて故郷を旅立ち、勇ましくオークニー諸島へと向かった開拓者たちへの思いをかきたてる史跡である。ヴァイキングと先住民との同化が、穏やかで平和的なものであったのかどうかは議論の分かれるところだろう。だが現代に残されているオークニー諸島の地名の多くが古代ノルウェー語由来である事実を考えると、どちらの文化が優勢であったかはおのずと明らかである。

地図を眺めながらオークニー諸島の地名を調べていると、ヴァイキングたちの気質がありありと浮かんでくる。彼らが単刀直入にはっきりと物事を話す人々であったことは間違いないだろう。例えば、ホイ島の「ホイ」は高い(英語のハイ)という意味で、島にはいくつもの丘がある。またフロッタ島は平らな地形(英語のフラット)を意味し、島には実際にほとんど起伏というものがない。ティングウォールという町は、オークニー諸島のヴァイキング系住民たちが議会を開くために集まったり、喫緊の問題について互いに意見を述べた場所だ。語源は集会場を意味する古代ノルウェー語の「ティングヴォル」である。

美しい「ハイランド12年 ヴァイキング・オナー」の新パッケージ。ノルウェーにある世界遺産「ウルネスの木造教会」の壁面装飾をモチーフとし、ハイランドパークのルーツであるヴァイキング文化を色濃く反映している。

このようなヴァイキングの伝統(ちなみにヴァイキングという呼称は、厳密にいうと外国の海岸部を侵略して定住した古代スカンジナビアの海賊たちを指す言葉だ)は、ノルウェーの伯爵がオークニー諸島を支配した874~1468年にまで遡る。つまり当時の島々は、正真正銘のノルウェー領だった。やがてデンマークとノルウェーの王だったクリスチャン1世が結婚持参金の負債を精算するためにオークニー諸島とシェトランド諸島を断念して、この地はスコットランド領となる。そのときまで、オークニー諸島の人々は500年以上にわたって古代スカンジナビアの歴史の一部であり、スコットランドとはまったく異なる文化のなかで生きていたのだ。

今日でも、オークニー諸島の文化は他のスコットランドの地域とはっきり一線を画している。オークニー諸島の旗はスコットランドとノルウェーの遺伝子を共に受け継ぐようなデザインではあるが、はるかにノルウェーの影響を色濃く感じさせるものだ。そして政治的にはホリールードよりもウェストミンスターとの関係が強い土地柄ではあるものの、最近はイギリスのEU離脱を機にオークニー諸島の代表者たちも自治権拡大の方向性を意識するようになった。再びノルウェーと一緒になろうかというジョークが飛び出すくらいなのである。

 

現代に連なる神話の世界

 

オークニー伯領の創生や伯爵たちの物語は、『オークニー諸島人のサガ』に記されている。匿名の作者によって1200年頃に著された中世の書物だ。サガの性格上、すべてが事実に基づいていると断定することはできない(サガは数世紀前に起こった出来事を描き、そこに歴史と神話の要素が組み込まれている)。それでも記述の大部分は、他の史料によって立証されている。

サガに描かれているのは、勇敢で、勤勉で、苛烈なまでに独立心が旺盛な人々の物語だ。彼らは一族を守るために戦い、誇り高く生きる者たちを支援する。時間が経つにつれて、私にもわかるようになってきた。そこに描かれているのは、オークニー諸島の歴史に共鳴する伝統であり、何世代にもわたって受け継がれながら現代のオークニー人たちのアイデンティティにも結実している価値観なのだ。

古代スカンジナビアの伯爵たちと、その臣民たちの偉業には目を見張るものがある。希望、怖れ、諧謔の心を持った生身の先人たちがいちばん身近に感じられるのは、ステネスにあるメイズハウ羨道墳の石壁に刻まれたヴァイキングの「落書き」だ。「インギゲートは世界一の美女だ」「シギュルトの息子オフラムがこのルーン文字を彫った」「トーニがよろしくやっている間にヘルギが彫った」(あえて婉曲に訳したが、これが私のお気に入り)など、古代北欧のルーン文字で書かれたメッセージが墓の内部で見つかっている。どんなに時代が異なっても、人間には不変の要素があると実感できる内容だ。

まだオークニーの歴史とヴァイキングとの関係について信憑性を疑う人には、最近おこなわれたDNAテストが完全に疑念を払拭した証拠を紹介しよう。2015年の調査によると、オークニー人被験者の30%から古代スカンジナビアの遺伝子が検出され、DNA全体の約26%がスカンジナビア人と一致することが結論付けられた。さらにはこのスカンジナビア由来の遺伝子が導入されたのは、ちょうどオークニー諸島がノルウェーの植民地となった時代に符合するらしい。

(次回につづく)

 


ハイランドパーク12年 ヴァイキング・オナー

アルコール度数:40度

容量:700ml

希望小売価格(税別):4,200円

※新パッケージは2017年9月15日(金)より出荷・発売を開始します。アルコール度数、容量、価格、中身に変更はありません。現行の『ハイランドパーク12年』は2017年9月14日(木)をもって出荷終了となります。

 

世界最北の蒸溜所から生み出されるウイスキー「ハイランドパーク」の製品情報を網羅したオフィシャルサイトはこちらから。

 

WMJ PROMOTION

 

カテゴリ: features, TOP, 最新記事, 蒸溜所