ウイスキービジネスで活躍する女性たち
イノベーションと独創性が求められるアメリカのウイスキーシーン。米国コロラド州のブレッケンリッジ蒸溜所では、ビジネスの中核を女性たちが担っている。文：クリステン・スチュワート
朝6時。ロッキー山脈から涼しい風が吹き下ろすコロラド州ブレッケンリッジは、ピリリとした新鮮な空気が張り詰めている。こんな時間からブレッケンリッジ蒸溜所に到着して、1日の仕事を始める女性がジーナ・レチュガだ。老舗ブランド「カーハート」のワークウェアに身を包んで、トウ部分が鉄製になったアメリカンブーツを履いている。蒸溜室に入ると、彼女は灯りを点けて周囲の点検を開始した。
「ご存じですか？ ここは世界でいちばん標高の高い蒸溜所なんですよ」
この蒸溜所で、ジーナ・レチュガはウイスキーのディスティラーになるべく本格的なキャリアをスタートした。
2008年に創立されたブレッケンリッジ蒸溜所は、ライ比率の高いアメリカンスタイルのバーボンウイスキーで有名だ。「ブレッケンリッジバーボン」は、クラフトバーボンのなかでも特に人気の高品質なウイスキー。数々の栄誉ある賞に輝き、同業者たちからも羨望のまなざしを集めている。
またブレッケンリッジ蒸溜所は、2018年にウイスキーマガジンのアイコンズ・オブ・ウイスキー（IOW）で「ブランドイ・ノベーター・オブ・ザ・イヤー」を受賞している。その革新的な経営スタイルは本物だ。
ウイスキーアワードで存在感を放ちながら、ブレッケンリッジ蒸溜所は着実に社内体制を現代化してきた。具体的にいえば、ウイスキービジネスのさまざまな要職で積極的に女性たちを登用している。従業員はほぼ半分が女性で占められており、上級管理職を含むすべての階層で男女比が同等だ（バイスプレジデント職の50％が女性）。営業、販売、マーケティングはもちろん、この蒸溜所ならではのユニークな役職も女性が担っている。その象徴が「リキッドシェフ」のビリー・キースリーだ。
ビリー・キースリーは、ブレッケンリッジ蒸溜所を代表して全米各地を飛び回っている。イベント、会合、ワークショップなどへの出席を重ねながら、蒸溜所併設のレストランで幅広いメニューにあわせたドリンクをキュレーションするのも彼女の仕事だ。「ドラゴンストーン」などのクラフトカクテルは、ドリンクメニューの中でも「魔術的なミックス」と称される逸品。これは「ブレッケンリッジ ダークアーツ シングルモルトウイスキー」にジンジャー、オールスパイス、搾りたてのレモンジュース、キャラメルオレンジ、そしてアップルウッドを焼いた煙をミックスしたユニークなカクテルだ。こんな自身の役割についてビリー・キースリーが語ってくれた。
「自分の創造力を掻き立てて、素晴らしい同僚たちからもアイデアを引き出すのが私の仕事。そのためにリーダーシップを発揮することが必要で、この職場で元気に働くためのやりがいも生み出しています」
クリエイティブな雰囲気で高品質のウイスキーを生産
コロラド州担当の営業マネージャーを務めるケイティー・クロイは、蒸溜所で働く42人の女性を代表して次のように語ってくれた。
「ブレッケンリッジのCEOは、私たちの情熱や意見をいつも心待ちにしているんです。女性たちの意見に本気で耳を傾けてくれますから」
ケイティー・クロイは、わずか25歳の若さでブレッケンリッジ蒸溜所の最重要地域ともいえる地元コロラド州内のセールスを管轄している。このような人事を喜んでいるのは、カリフォルニア州北部の営業マネージャーを務めるシャノン・ギルだ。
「ウイスキー業界で働いてもう20年以上になりますが、以前ならオフィスや会議室で唯一の女性という状況が当たり前でした。そんな伝統も、ようやく変わりつつあります。女性はスピリッツ業界における重要な消費者であり、どんな企業にも大きな価値をもたらすことができるのです。そんな事実を受け止めて、女性を要職に登用してくれるブレッケンリッジ蒸溜所が大好きです」
ブレッケンリッジ蒸溜所の創設者兼CEOであるブライアン・ノルトは、ウイスキービジネスで女性の力を重視する理由について次のように語った。
「会社のなかでの女性たちの地位や信頼は、彼女たち自身が実力で勝ち取ったもの。私はみなさんを信頼しており、単純に適材適所で得意なことをやってもらう方針です。女性たちの活躍なくして、会社の発展は望めないでしょう。もっと多くの女性のみなさんに、実力相応の要職で働いていただきたいと思っています」
ブレッケンリッジが生み出すウイスキーの品質には、業界内のあらゆるマーケティング担当者たちが注目している。その秘密の一端が、現地取材で明らかになった。女性のパワーを重視するクリエイティブな蒸溜所の雰囲気は、好調な業績と間違いなく関係がありそうだ。
