ワイルドターキー 「伝説のダイヤモンド」【前半/全2回】
ワイルドターキーのマスターディスティラー ジミー&エディ・ラッセル親子が、ジミー氏のウイスキー人生60年目の節目を飾るアニバーサリーボトルとともに来日。
バーボンの中でも、特にケンタッキー、アメリカ西部のイメージが強いワイルドターキー。多くのバーボンが荒々しさを打ち消し、洗練された飲みやすさや滑らかな飲み心地をアピールしている中で、この七面鳥は澄まして我が道を進んでいる。
ワイルドターキーの始まりは1855年、蒸溜会社 オースティン・ニコルズ社設立。そして同社がローレンスバーグに蒸溜所を創設した。
蒸溜所オーナーのトーマス・マッカーシー氏は、七面鳥のハンティングに出かける際、貯蔵庫から1本のバーボンを持参した。このバーボンを気に入った狩り仲間は、野生の七面鳥にちなんで「ワイルドターキー」と呼び始めた。マッカーシー氏はそのユニークなネーミングを好み、後にブランド名にしたのである。
ワイルドターキーの独特な風味の秘密は、まずマッシュビル(レシピ)にある。「バーボン」を名乗るためには、51%以上(かつ80%未満)コーンを使用しなければならない。残りの49%をどう配分するかでバーボンの個性は様々に変化する。ここがモルトウイスキーと違って面白いところだ。
そしてワイルドターキーは、他のバーボンに比べてライ麦と大麦の比率が高い。メーカーズマークは冬小麦の比率を高めてその柔らかく甘みのある風味をつくっているが、ワイルドターキーはライ麦によるスパイシーでドライな風味が特徴だ。この2ブランドは違いが非常に分かりやすいため、バーボンはあまり詳しくないという方も、飲み比べてみればそのマッシュビル由来の個性の違いに気づくはずだ。
このワイルドターキーの蒸溜所で、60年にわたってウイスキーづくりを続ける「伝説の男」、ジミー・ラッセル氏。1950年代から同蒸溜所で働き始め、現在も同じルートを愛車のトラックで通い、マスターディスティラーとして60年前と変わらぬウイスキーづくりを続けている。
さらに息子のエディ・ラッセル氏も同蒸溜所で30年以上バーボンづくりに携わっている。今年、エディ氏はマスターディスティラーに任命され、親子二代でワイルドターキーの味を守り続けていくこととなった。
そして、ワイルドターキーの次世代を担うエディ氏が、ジミー氏の勤続60周年を祝してつくり上げたのが今回数量限定発売となった「ワイルドターキー ダイヤモンドアニバーサリー」である。
エディ氏が、父であり師匠でありケンタッキーの偉人でもあるジミー氏に贈る、マスターディスティラーとしての初仕事。13年から16年の長期熟成原酒のみを使用したという、ワイルドターキーの長い歴史上でも例を見ない最高級アイテムだ。
このボトルの発売に伴って、ラッセル親子が来日。インタビューのお時間をいただいた。
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ウイスキーマガジン・ジャパン(以下WMJ) 本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。お二人には以前にもWMJでインタビューをさせていただいたことがありました。今回もどうぞよろしくお願いします。
早速ですが…「ワイルドターキーは他のバーボンと明らかに違う」と感じているファンは少なくないと思います。私もその一人ですが。これは敢えて違うものを目指してつくっているのでしょうか? それとも、つくり続けているうちに自然と際立ってきたのでしょうか?
ジミー・ラッセル氏(以下ジミー氏) ワイルドターキーの製法は、私が入社した61年前から何も変わっていません。イーストもその頃から使っている、自家培養のものです。他のバーボンと違うものをつくろうとして変えていることは何もありません。
WMJ 「変わらないこと」が個性であると。守り続けている製法、こだわりはたくさんあると思いますが、その中でも一番有名なのはライ麦の比率が高いことですね。他にも度数を低く蒸溜し、貯蔵する際の度数も低いと伺いましたが、これは何故ですか?
ジミー氏 原酒の度数をあまり高くまで蒸溜してしまうと、スピリッツは味気ないものになってしまいます。せっかくの穀物からの風味が残らないのです。バーボンの法律では80%以下で蒸溜するという規定がありますが、私たちはそれより低めの度数、60%~65%で蒸溜します。そして樽詰めの度数も規定では62.5%以下となっていますが、私たちは54~55%程度で樽に詰め、熟成させます。こうするとボトリング時に足す水も少なくすみ、樽出しの原酒に近い状態の、風味豊かなバーボンが製品化できるのです。
WMJ その分、エンジェルズ・シェア…熟成によって失われる分量も多いのではないですか?
ジミー氏 ええ、でもかまいません。昔からそのようにやっていますから。気温が高くなると樽の中の液体は膨張し、樽材の中へ浸透していきます。気温が下がるとその液体はまた木の繊維から浸みだして、樽の中に戻ります…呼吸するように。ケンタッキーは季節の気温差だけでなく、日中の気温差も大きい。液体が膨らんだり縮んだりして木材からの影響を十分に受ける。これが良い熟成です。この熟成を経た原酒の風味を損なうことなく、ボトリングするのが一番の目的です。
WMJ 生産量よりも、変わらない品質を守ることに重きを置いているのですね。
ジミー氏 60年の間に、設備を整えたりコンピューターを導入したりということはありますが、本来の製法は全く変わっていません。遺伝子組み換えでない最高の穀物と、ケンタッキーの素晴らしいライムストーンウォーター、そして60年以上前から使っているイーストでつくり、昔と同じ焦がし方(チャーレベル)をした樽で、昔と同じ熟成をする…これが私たちのこだわりです。
【後半に続く】