アイルランドの巨人

February 17, 2012

かつて世界を席巻したウイスキー大国が帰ってきた。ミドルトン蒸溜所は今もアイリッシュウイスキーの誇りである。(文:イアン・バクストン)


かつて世界をリードしたアイリッシュウイスキーが衰退して久しい。1960年代後半まで、ほとんどのアイリッシュウイスキーはポットスチルで作られたモルトウイスキーだった。その後、軽快な味わいを好む世界的な傾向によってブレンデッド中心のスタイルへと移行したが、この変化は中途半端で遅きに失したように思われた。

しかし近年、明らかな変化が起きている。その立役者は、アイルランド第二の都市コーク近郊のミドルトン蒸溜所。経営するアイリッシュディスティラーズ(ペルノ・リカール傘下)は、コークディスティラーズ、ジョン・ジェムソン&カンパニー、ジョン・パワーズというアイルランド南部の3社が合併して1966年に誕生した企業である。

スコットランドの蒸溜所を訪ね歩いてきた者にとって、ミドルトン蒸溜所の規模はショッキングだ。ディアジオがスペイサイドに新設した巨大なローズイル蒸溜所も、生産量はミドルトンの3分の1に過ぎない。しかもミドルトンは、数年のうちに現在の生産量を倍増させようとしている。一般的なシングルモルトの蒸溜所が1年間で生産する量よりも多くのウイスキーを、ミドルトンは1ヶ月で生産しているのだ。

蒸溜所の大きさは、アイルランドの伝統である。19世紀、ダブリンのジェムソン蒸溜所は世界最大規模を誇っていた(同地は現在も観光名所)。同蒸溜所のツアーでは世界最大のポットスチル(容量14万リッター)が目玉である。このような大型装置が象徴するアイルランドのウイスキーづくりは、品質の一貫性が何よりの自慢だった。それが本質的に多種多様なスコットランドのシングルモルトと好対照をなしていたのである。

ジェムソンの躍進

ポットスチルでつくるアイリッシュウイスキー固有の特徴は、しっかりと残されている。その作法を簡単に説明すると、穀物原料には大麦麦芽とまだ芽が出ていない麦芽の両方を使用し、銅製のポットスチルで蒸溜をおこなう。ミドルトン蒸溜所では3回蒸溜を採用しており、それが丸みを持ちながら非常に香り高いスタイルを作る。しばしば「オイリー」と評されるクミーリーな舌触りやのどごしは、世界のウイスキー愛好家を魅了してきた。

1975年に操業を開始したミドルトン蒸溜所は、ポットスチルとコラムスチルの併用でウイスキーを生産している。ジェムソンは、主にコラムスチルの連続式蒸溜によるすっきりとした味が特徴だ。その売り上げは驚くべき伸びを見せており、1988年には11万5千ケースだった年間出荷量が、今や300万ケース超。売り上げの3分の1は米国だが、ロシア、南アフリカ、フランス、そして英国にもその人気は急速に拡大中だ。

蒸溜だけではなく、熟成に使う木材の品質も重要視している。新たに使用される樽の大半はバーボンバレル(195ℓ)で、それにシェリーのバット(480ℓ)が続く。ユニークな蒸留法と同様、この2種類のカスクを併用することが製品の細やかなフレーバーを特徴づける鍵になるのだ。

販売と生産の躍進から期待されるのは工場の拡張である。344,000㎡もの土地を保有するミドルトン蒸溜所は、工事中の新施設が完成してもまだ土地が余っているという。苦境からよみがえった巨人の未来は、希望に満ちあふれている。

 

 

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