ジム・スワン博士は引っ張りだこ【後半/全2回】

February 21, 2013

ジム・スワン博士は蒸溜所を救うため、世界各国を飛び回る。ウイスキー業界の「サンダーバード」だ。博士の活躍の一部をご紹介しよう。

Report: ドミニク・ロスクロウ

ジム・スワン博士は引っ張りだこ【前半/全2回】

スワン博士の経験は、業界の技術面で働いたキャリアに根ざしている。
化学を専攻した博士の最初の職場は、アメリカの経営コンサルタント会社だった。
いくつかの仕事にスコッチウイスキーが関わっていたため、間もなく博士はウイスキーの研究開発と蒸溜所の問題解決という方向に進み始める。
仕事を続けるうちに他の酒類メーカーと接触するようになり、南アフリカのKWV、ニュージーランドのハーディーズ、オーストラリアのローズマウントといったワインメーカーと一緒に働いたことが、製造工程を理解する上で貴重な経験になった。

意図してというより幸運に恵まれて、最終的にスワン博士は他に類を見ないビジネスを展開している。似通った仕事をしていた人たちが引退あるいは姿を消した上、シングルモルトウイスキーに対する関心が高まっているため、博士がこの分野に集中する度合いはますます増えている。また、同じように専門店や高級品に対する関心が急騰しているラム酒部門でも仕事を続けている。

ペンダリン、キルホーマン、カバランは、自分が好む仕事のやり方を最も良く示していると博士は言う。そもそもの始まりから工程に携わり、発端からウイスキーをつくるまで蒸溜所と一緒に働く。そしてスピリッツの進展をチェックするために定期的に関与して、助言を与え、コンサルタントとして力を貸す。ペンダリン蒸溜所の場合など、チームと共に働くために毎月足を運ぶようにしたそうだ。

新しいワクワクするようなウイスキーをつくることはもちろんだが、博士は全く違う場所での仕事というチャレンジも気に入っている。これまでの仕事はひとつとして同じではなく、それぞれの状況がもたらす難題を克服しなければならなかった。

「カバランとの仕事を始めるまで、台湾に行ったこともなかった」と博士は言う。「それが魅力だった。どこに行ってもウイスキーは似ている。しかしそれぞれの場所はとても異なることにはいつも驚かされる」

その土地の条件に抗うのではなく、それを利点として活用することが秘訣だ。台湾では、気候の問題があった。台湾はミネラルウォーターが豊富で、湿度もスペイサイドとほぼ同じだが、ただ気温が15.5度高い。そのため水を適正な発酵温度に保つ方法を考えなくてはならなかった。そこでステンレス製発酵容器の側面を二重にして、中に冷却コイルを入れた」

製造を開始した蒸溜所で問題が発生して呼ばれることもあり、そういう場合の方が責任も大きい。例えばあるときには、オーストラリアのワインとスピリッツのメーカーから、不快なカビ臭をもたらしている汚染の問題を調べ、原因を究明して解決策を提案してくれるよう依頼された。

博士によると「数十万ポンドを左右する解決策をメーカーに提示しなくてはならなかった」という。「ありがたいことに、そのときは正しい答えが出せた」

スワン博士は1年の4分の1に相当する時間を移動に費やすため、昔から飛行機代は惜しまないことに決めている。逆に不経済だと判断したのだ。火山灰はともかく、その方針は十分に有益だった。

「お陰で無駄な日を出さずに済んだこともある」と博士は語る。「バンコクにいたとき、反政府派のデモで空港が閉鎖されたが、私は最初の飛行機に乗ることができた。何日も足止めされていたかもしれないところだった」

スピリッツ業界の現状を考えると、スワン博士の多忙は当分続きそうである。いい時代だと博士は言う。「すべてのスピリッツが元気だ」

「ウイスキーだけでなくラムも人気があるし、ユニークな小規模蒸溜のジンの需要も増えている。業界全体が活気づいている」

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