ウイスキーのささやきを堪能する
「ささやくウイスキー」と見事にマッチするフード。調味は手際よく。デリケートな食材は細心の注意をはらって選ぶ
Report :マルティーヌ・ヌエ
この考え方は、ある程度説明しなければならない。ウイスキーの仕事仲間であるデイヴ・ブルームにこの考えを話すと、しばしば、彼の目にはいらだちとは言えないにしても懐疑が現れる。(こういうことは女性のほうが目ざとい。紳士諸君、性差別的なコメントで申し訳ない)
ささやくウイスキーって? 何を言っているんだ?
私のテイスティングノートで「ささやくウイスキー」と呼ぶものは、ほのかで繊細なタッチの、ほぼ透明なハーフトーンで自分を表現するウイスキーのことだ。
水彩画に対して、厚く塗られた油絵。グレンカダムは前者を、アードベックは後者を代表するだろう。
香りは、最初はかなり抑えられているが、やがて花のよう、あるいはフルーティな甘い特徴となって姿を現す。それも、ジューシーなフルーツのことである。ただし、煮込んだものではなく生のフルーツだ。また、頻繁にハーブ店の特徴も現れる。つまり、レモンバームであり、アンゼリカであり、ライムである。「ささやくウイスキー」の味はエーテルっぽい特徴が現れる。つまり、ライトでフルーティ、そして、蜂蜜をかけた夏のフルーツと、時には砂糖で煮詰めたフルーツの特徴をともなう。
もっとも、これは古いタイプのウイスキーの場合だが。舌触りはシルクのようで滑らかになるだろう。フィニッシュは持続して、穏やかなスパイスですっかりドライになる。このような芳しい特性を得るためには、ウイスキーはシェリーカスクではなく、バーボンカスクかホグスヘッドのリフィルで熟成させなければならないだろう。ソーテルヌカスクでフィニッシュすればより甘い特質を生み出していたかもしれない。
しかし、「ささやく」といっても、風味に欠けるということではない。最初に誤解されるのはこの点にある。繊細でありながら強い個性をもつことは可能なのだ。滑らかでなく、シロップのようでもなく、砂糖のようでもなくとも、甘いということがあり得る。深みがあってもライトであり得るのだ。
叫ばないでささやくことによって自分を表現することは、語るべきことが何もないということではない。一心に耳を傾けなければならない。それがすべてだ。結論としては、これらのウイスキーをテイスティングで評価するのは難しい。テイスターにとってやりがいのあるウイスキーだ。私がこのウイスキーを好きな理由のひとつかもしれない。困難であれば仕事は少し楽しさを増す。
シルク、サテン、滑らかさ、繊細さ
ささやくウイスキーはどれか? 上述したグレンカダムは、ピュアで洗練されたスタイルで果樹園のフルーツのようなフレーバーを現す。
アランの「ピーコック1996」を含め、多くのアランのエクスプレッションは、花のようでフルーティな特性を現し、タンジェリンと新鮮なヘーゼルナッツの特徴をもち、和らげられた、心地よいフィニッシュをともなう。
グレンモーレンジィの一部のシリーズ、とくにネクタードールは水彩画のような特質をもつ。ソーテルヌカスクでフィニッシュされて、ささやくというよりも高い声でずらりと並んだエキゾチックなフルーツの特徴を現し、サテンのような口触りで申し分なくプディングと合う。
グレンモーレンジィ・ソナルタは、ペドロヒメネス(PX)のカスクでフィニッシュされて、ナッツっぽくてビスケットのようでフルーティなフレーバーをもつ上品な特性を見せてくれる。
最近テイスティングしたその他の数本のささやくウイスキーの中には、オーヘントッシャン1999 とコニャック生産者のレオポール・グルメルのオリヴィア・ブランによってボトリングされたグレンオード1999アイリーン・ギランが入っている。オーヘントッシャンについて、「甘く洗練されている。夏のそよ風の優しい感触、あるいは柔らかいトーンの水彩画に似ている。風味があって、スムーズで爽やかである」と描写した。
ブルターニュにあるケルティックウイスキー社がボトリングしたばかりのコルノグは、高いアルコール度数でボトリングされたピーティなウイスキーであるにもかかわらず、「甘くて心地よく口にまとわりつく。優しいカスクストレングスのウイスキー」である。これらすべてのウイスキーはイベントのディナーメニューに登場して喜ばれるだろう。これらは以下に紹介するどの料理とも調和するだろう。ただし、グレンモーレンジィソナルタとコルノグはプディングよりも主菜とのほうがよく合うだろう。
前菜
●新鮮なシェーブルのグジェール
●3色のベリーヌ
●セサミスティック
スターター
●レモンとウイスキーとサツマイモのブルーテ【6人分】
メインディッシュ
●サーモンとエビのクランブル
デザート
パイナップルのミルフィーユ ココナツ&ウイスキー風味のカスタード添え