六本木の三賢人 スピリッツ・アカデミー【その3】
知られざるテキーラの魅力
ナビゲーター:フェリー・カデムさん/AGAVE
来日から気づいてみれば20年。今やフェリー・カデムさんは世界最大級のテキーラバー「AGAVE」のカウンターでテキーラ文化の伝道をしている。酒類・食品・飲料の総合商社であるリードオフジャパン株式会社の経営であるため、他店では実現し難い、テキーラとメスカル実に400種類もの品揃えを誇る。あなたの知らない美酒の世界が、ここにはある。
テキーラとの邂逅
来日してから数年後に勤めたリードオフジャパン株式会社経営による恵比寿のレストランが、私とテキーラの出会いの場でした。その店は80〜100種類のテキーラを揃えていたのですが、当時の私はまるで関心なし。その後、特別な銘柄を飲むようになってテキーラの奥深さを認識するようになりました。
テキーラの好みは人それぞれで、強烈な飲み口を好む人もいれば、樽香やスムーズさを求める人もいます。私の好みはブランコ※1。よくできたブランコにはアガベ(竜舌蘭)の風味が漂い、熟成させたテキーラよりもむしろスムーズです。
どのテキーラを飲むかは時期や時間次第。夕食前にはブランコ、食中酒としてはレポサド※2、夕食後にはアニェホ※3でしょうか。上等なテキーラを飲んでいる限り、二日酔いになることはまずありません。(※1…ブランコ=製造後すぐに瓶詰めされたもの ※2…レポサド=樽で2ヵ月〜1年間熟成したもの ※3…アニェホ=樽で1年以上熟成したもの)
驚くべきバリエーション
世の中のテキーラを飲まない人は、テキーラといえば現在日本市場において多く流通している銘柄を連想する人が大半でしょう。実はそれらのほとんどはテキーラ・ミスト(Tequila Mixto)と呼ばれる、混合原料から作られたテキーラ。世界市場では10年ほど前から100%アガベ・アスール(アガベ・アスールはテキーラの原料に指定されている唯一の品種)のものが主流となっています。こうしたことからも、日本には一般的にはまだまだテキーラのバラエティが豊かであることや、テキーラについての基本的な知識が不足しています。
テキーラの産地にもスコッチ・ウイスキーのようにハイランド(ロスアルトス)とローランド(バジェス)があり、土地の特徴が風味に表れることをご存知でしょうか。ハイランドは赤土で、鉄分とミネラルが豊富な土壌。そのためローランドよりも大きくフルーティなアガベが育ちます。ローランドのアガベはスパイシーです。
スコッチ・ウイスキーには何十年も熟成されたものがありますが、テキーラの熟成は長くても10年。ウイスキーは定番のボトルに瓶詰めされますが、テキーラのボトルには個性的な形状があります。ユニークな瓶に入ったクオリティの高いテキーラは更なる楽しさをかきたててくれるでしょう。
テキーラの祖と呼ぶべきスピリッツが「メスカル」。 テキーラが1種類のアガベ(アガベ・アスール)から作られるのに対し、メスカルは様々なアガベ(約25〜30種類)を原料とします。テキーラは最低2回蒸溜されますが、メスカルは1回の蒸溜でおしまい。テキーラが原料をスチームするのに対し、メスカルはスモークします。またテキーラには副原料を用いるタイプがあるのに、メスカルはすべてアガベ100%。また、メスカルには香草やイモ虫が入っているメキシコらしいボトルもあります。
スモーキーなお酒を飲みたいとき、私は上等なメスカルを選びます。最初はクセが気になるものの、何年もテキーラを飲んでいるうちに力強いものが欲しくなる。それがお酒の嗜好というものです。
本物の魅力を知ろう
まだテキーラに慣れていないお客様に、私は「いつも飲んでいるお酒は?」と尋ねます。焼酎や日本酒を飲まれる方へのおすすめは、上質なブランコ。それ以外の方なら、まずは「ドンフリオ」や「オレンダイン・アニベルサリオ」などのアニェホから入るのがいいでしょう。ショットグラスではなくスニフター(小型のブランデーグラス)でお出しするのは、一気に飲み干さないよう諭すため。ショットグラスをあおるゲーム感覚の飲み方を覚えてしまった人に対しては、時間をかけて先入観を変えていこうと思っています。
若い世代はハードリカーを飲まなくなったといわれますが、はたしてそうでしょうか。テキーラの魅力を正しく知れば、きっと真価は理解してもらえるはず。東京にもたくさんのテキーラバーがオープンし、ファンも増えつつあります。以前ならこのバーで好みのテキーラを名指しするのは外国人ばかりでしたが、 今ではマニアックな銘柄を日本人のお客様がリクエストして私を驚かせてくれます。(談)
AGAVE(アガヴェ)
東京都港区六本木7-15-10 クローバービルB1F
18:30〜翌2:00(金・土は〜翌4:00)
定休日:日曜、祝日の月曜
03-3497-0229
www.agave.jp
カデムさんのおすすめテキーラ
●長い一日の終わりに
ドンフリオ1942 3,900円
すっかり夜も更け、あとは眠りに就くだけというひとときにぴったり。スムーズでありながら甘さはなく、ストレートでじっくりと飲んでほしい大人のテキーラ。●コストパフォーマンスなら
オレンダイン・オリータス・レポサド 1,000 円
100%アガベのレポサドをこんなに安く飲めるバーは少ないはず。 経営が輸入商社である強みを生かした価格。● テキーラファン待望の1本
アガバレス・ブランコ 900円
2012年12月から販売開始する「アガバレス」からブランコを。アガベの香りが強く、ショットでもカクテルベースとしてもおいしく味わえる。●本場のメスカルを味わおう
ベネバ 1,300円
ブランコ、レポサド、アネホの3タイプとも秀逸。(2011年春号掲載 / 2012年11月改訂)