大論争 低温濾過と着色料 その2(容認論)
ウイスキーの品質を一定に保つ、低温濾過と着色料の使用。容認派は市場拡大の必須条件だと反論する。(文:エド・ベイツ)
ティムの指摘はある意味で正しい。彼が問題にしているウイスキーは、良質で誠実な、良いグラスで氷を入れずに飲むべき1杯であり、E150や低温濾過とも無縁のウイスキーのことだ。本物のウイスキー通なら、誰もがそのようなウイスキーを飲みたいと思うだろう。しかし私の論点は、ここから分かれていく。
いかにウイスキーが好きな人でも、自宅の裏庭に蒸溜所を建てたりできる人は少ない。そんなことが可能なら、みんなが自分たちの飲みたいウイスキーだけをつくっている。しかし私たちは、現実としてスコットランドのウイスキー業界が生産する製品に頼らざるをえない。
私が言いたいのは「産業」を包括的に理解してほしいということだ。ウイスキー産業はスコットランドにおける最重要産業であり、年間で数十億ポンドもの利益をスコットランド経済にもたらし、直接雇用も1万人以上ある。産業はグローバルに展開されており、必然的に英国よりも大規模な海外市場に集中している。
ディアジオやペルノ・リカールなどの大企業にとって、米国、中国、ロシア、インド、台湾、ブラジルなどは、英国市場よりも重要な市場だ。企業にとって最も重要なウイスキー消費者とは、上海、ニューヨーク、ムンバイ、サンパウロなどのお洒落なバーに押し寄せる人々なのである。
世界市場の主役はブレンデッド
ディアジオの組織体制のなかで、各種シングルモルトを管轄する「リザーブブランド」の部門は、ジョニーウォーカーなどの「グローバルブランド」の下位にある。その理由を理解するには、数字を見るだけで充分だろう。ジョニ赤とジョニ黒の売上はざっと1億8千万本。これに比べて、シングルモルトのベストセラーであるグレンフィディックの売上は1千万本である。産業全体で、ブレンデッドウイスキーとモルトウイスキーの売上比は15:1だ。
個人の好き嫌いに関係なく、企業にとってはブレンデッドウイスキーの大ブランドが重要なのだ。そしてニューヨークのロウアーイーストサイドであろうが、台湾の仁愛路であろうが、お洒落なバーで供される1杯が見かけも味も同じであることが重要視される。
ティムの意見は、純粋主義だ。私がここまで説明した産業の背景を考えると、実情に合っていない。ウイスキーの世界全体を考えると、スコッチウイスキーのブランド力を成長させ続けるために、必要な手段としてE150と低温濾過をウイスキー業界は使わざるをえないのだ。
わかりやすく説明しよう。ここに2種類のウイスキー「A」と「B」がある。「A」は古いカリラで、何も添加せず、何も引かれていない。「B」は英国外で売られている15年もののブレンデッドウイスキーで、心配になるほど飲み心地がソフトだ。ウイスキーの素性として、「A」と「B」は完全な別物である。
我々が「A」のような素晴らしいウイスキーをこれからも楽しみたいのなら、ブランドオーナーや蒸溜所は「B」のようなウイスキーもつくり続けなければならない。どちらかひとつだけという訳にはいかないのが、ウイスキーの世界における現実なのである。