“Promised Land” ― 余市 【後半/全2回】
ニッカウヰスキー誕生の地、余市。この蒸溜所でつくられるウイスキーは、何故これほど独特の風味を持つのか?創業者竹鶴政孝氏の信念を今も守り続けるこだわりの製法を探る。
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創業から2年後の1936年、ついに余市蒸溜所のポットスチルに石炭がくべられ、ニッカでのウイスキーづくりの歴史が幕を開けた。
竹鶴氏がこの蒸溜所で目指したのは、重厚で力強い、本場スコットランドのものと同じつくりのモルトウイスキーだった。過酷な環境での2年にわたる修行期間で学び取った製法…竹鶴氏の心に焼きついたウイスキーづくりの現場をそのまま再現することにこだわったのだ。
その最たる例が「石炭直火蒸溜」。実習を行ったキャンベルタウン地方、ヘーゼルバーン蒸溜所での製法に倣い、石炭による直火でポットスチルを加熱する蒸溜方式にこだわった。
この加熱方式では、石炭を炉に投げ入れる角度やタイミングを誤るとスチル内部の温度差ができてしまう。適切な温度の調節には熟練の職人技が要求されるが、その分独特の香ばしさ、重厚感のある味わいやコクが得られるのである。
現在ではスチームを使った間接式の加熱法が多いが、伝統的なつくりにこだわる蒸溜所ではこの直火加熱式を採用している。
しかしそれでも石炭を使用するところは、世界的にも非常に稀だ。非効率的であっても、本物のウイスキーをつくるという創業以来の製法を頑なに守る…竹鶴氏の信念は今もしっかりとこの地で息づいている。石炭の炎と同様に、今もつくり手の心にその情熱は燃え続けているのだ。
しかもポットスチルは下向きのラインアームを持つストレートヘッド型。ヘビーさやオイリーさなど様々な香味成分を含むアルコールができるため、原酒に複雑で豊かな味わいをもたらす。
この力強いスピリッツは、通常であれば木の影響を受けすぎてしまうといわれる新樽で熟成しても、本来の強さを失うことがない。お互いの強さと良さを、じっくりと時間をかけて調和させ、独特の風味をつくり上げていく。
原酒は樽に詰められて土間造りのダンネージ式倉庫で眠りにつく。この熟成期間に大きく影響するのがスコットランドと同様の、年間を通じて寒冷な気候だ。
気温が高く乾燥した環境では、アルコール度数が上がりすぎたり、熟成が早く進みすぎたりしてしまう。石狩湾からの潮風を受けつつ、森林や湿地の多い余市の空気は湿潤で、樽を乾燥から守る。アルコールも水分も過度に蒸散することなく、樽材とゆっくりと反応して芳醇な香りを液体に閉じ込める。
つまり、蒸溜においても熟成においても、他のどの蒸溜所とも違う独特の過程を経て、余市ならではの個性がつくられていくのである。
そして熟成の頃合いを迎えた原酒は、ブレンダーの手によって複雑にブレンドされ製品となっていく。
「シングルモルト余市」はノンエイジの500mlボトルから、「10年」「12年」「15年」「20年」と熟成年数とともに円熟味や奥行きを増した異なる個性で楽しませてくれる。
そしてニッカウヰスキーの主力ブランドである「竹鶴ピュアモルト」や様々なブレンデッドウイスキーでも重要な役目を果たしている。
もちろん、どれもニッカの「品質本位主義」という哲学を貫き、いろいろなシチュエーションに合わせて楽しめるようにブランドが展開されている。
「ウイスキーの約束の地」余市で生まれ、育まれたウイスキーを、ぜひ改めてじっくりと味わっていただきたい。最高のウイスキーを愉しめる幸せなひとときに、マッサンの熱い思いを感じていただければと思う。