アメリカンウイスキーの人気はどこまで続く
アメリカは空前のウイスキーブームに沸いている。国内のウイスキー消費が増え、海外でもアメリカンウイスキーの人気が高まり、メーカーは原酒のやりくりに苦心している。バーボンを愛する辛口ジャーナリストのフレッド・ミニックが、消費者の立場から提言。
文:フレッド・ミニック
ウイスキー業界の発表によると、昨年ケンタッキーの蒸溜所を訪ねたビジターは百万人を超えた。ケンタッキー・バーボン・トレイルができたのは1996年。それ以前にビジター体験を提供していた蒸溜所がメーカーズマークだけだったことを思い起こせば、まさに隔世の感がある。
セールスの最前線に注目してみよう。米国蒸溜酒産業評議会の報告によると、バーボン、テネシーウイスキー、ライウイスキーは全体で売上を7.8%伸ばし、原因は主に輸出市場の拡大によるもの。関税障壁が取り除かれ、生産者が海外市場に照準を絞れば輸出額は伸びる。主要な輸出先は、イギリス(2億2610万米ドル)、カナダ(1億9470万米ドル)、ドイツ(1億2850万米ドル)、オーストラリア(1億2610万米ドル)、日本(1億830万米ドル)、フランス(8410万米ドル)である。
昨年のケンタッキー・ディスティラーズ・アソシエーションの報告によると、ケンタッキー州の貯蔵庫には、現在チャーを施したオーク樽が5,669,682本ある。これは州内の樽の数が580万本程度であった1975年以来最高の数字だ。この1975年以降、バーボンは凋落の一途を辿った。ホワイトスピリッツの隆盛、インフレ、経営判断のミスなどによって、バーボンは長らく酒屋の棚の最下段の地位に甘んじることになるのである。
1980〜2000年にかけて、バーボンの売上は死線をさまよっていた。だがメーカーの情熱、良質なウイスキー、消費者の需要がバーボンを復活させた。だが現在の状況を見てほしい。ウイスキーの人気は爆発的で、かつて日常的に楽しんでいたウェラー12年などのバーボンが入手できない。フォアローゼスリミテッドエディションスモールバッチを手に入れるには、長蛇の列に並んで待たなければならないばかりか、55%も値上っている。パピー・ヴァン・ウィンクルが欲しくて酒屋に電話しても一笑に付されるだろう。抽選で決まる購入申し込み名簿に名前を書き込み、運を天に任せるより他にすべはない。手段を選ばない人なら、もちろんオンラインのコミュニティーサイトで探すことはできる。個人の保有者と連絡を取り合い、夜の駐車場で待ち合わせて現金と品物を交換する例のやつだ。
これが現実である。私たちのようなバーボン愛好家は、プレミアムブランドが酒屋の棚からすっかり消えてしまったことに業を煮やしている。これもすべては人気のせいだと諦めて、状況に慣れていくしかない。
過熱する人気のさまざまな影響
ウイスキーが変わってしまったことで、お気に入りのブランドに愛想を尽かすファンもいる。最初の例は、2013年にメーカーズマークがプルーフを90(45%)から84(42%)に下げたときに起こった。消費者は怒り、メーカーズマークはプルーフを元に戻した。
ベリーオールドバートンとジムビームブラックから年数表示が消えたときの抵抗は、メーカーズマークほどではなかった。そして数年前にオールドグランダッドがプルーフを下げたときは、気づいた者もほとんどいなかった。
そして今やヘブンヒルが、人気のエライジャ・クレイグ12年から年数表示を取り除こうとしている。新しいエライジャ・クレイグは、8年熟成の原酒と12年熟成の原酒によってつくられることになる。ヘブンヒルによると、ブランドを存続させるために必要な12年熟成の原酒が不足しているという。それでも18年ものと21年ものは将来も供給していくらしい。エライジャ・クレイグ・スモールバッチは、年間7万ケース(9本入り)という生産規模の製品だが、ヘブンヒルはこれを30%減らして将来のエライジャ・クレイグ18年用のストックに充てるとしている。マスターディスティラーのデニー・ポッター氏はこう釈明している。
「ブランドのフレーバー・プロフィールを守るための措置です。こうすることで11〜12年物の原酒は大量に確保できるでしょう。思うように出荷ができず、がんじがらめの状態でした。他の銘柄よりも数が出まわっていないので、これまでは相応しい評価を受けられずにいたのです」
おそらくこれは真実だ。そしてほとんどの人が、ウイスキーの品質はしっかり保持されていると納得することになるのだろう。
だがエライジャ・クレイグ12年は、本当に愛すべきウイスキーだったのだ。大ファンのひとりが私だ。すべてのバーボンの中で最高のお値打ちがあった。正真正銘のベストだった。年数表示をなくす方針はスコッチウイスキーにもみられ、ラム業界でも起こり始めている。私もビジネスマンなので理由は察しがつく。年数表示はストックの原酒に制約をかけ、採算性を下げてしまうのだ。
だが私を含む消費者にとって、年数表示はバーボンを選ぶ際の便利な指標だった。もちろん年数はただの数字あって、品質を測るものではない。だが製品同士を比較するときに、ある種の基準を示してくれるのも事実だ。
メーカーの皆様に申し上げたい。奈落の底からアメリカンウイスキー人気を復活させたのは、私たち消費者の功績でもある。そして私たちは、実のところ年数表示が好きなのだ。業を煮やしたファンたちは、バーボンを見限って他のお酒に注目し始めている。昨年、カルヴァドス、アルマニャック、ラム、コニャックは、全米で売上を16%も伸ばした。アメリカ人の多くは、1本のボトルを買うために長い列で待つことを厭わない。だから年数表示についてもメーカーの好きにするがよい。ただしそのリスクを負うのもまたメーカー自身だ。