空前の規模で遂行されてきた話題の拡張計画を、ついにお披露目する時が来た。新しいマッカラン蒸溜所は、ウイスキーブランドと蒸溜所建築の未来を先取りしている。

文:ガヴィン・スミス

 

新しいマッカラン蒸溜所のスチルルーム。ウォッシュスチル(容量13,000L)が12基、スピリットスチル(容量3,900L)が24基で、年間1,500万リッターを生産する。

ここ何年もの間、スペイサイドでは数々の新しい蒸溜所が建設されてきた。何もない土地に建物の基礎ができて、蒸溜器から最初の一滴が流れ出す感動の過程も幾度となく目撃した。だが新しく建設されたマッカラン蒸溜所ほど、度肝を抜かれるようなスケールの事業は他にない。

英国の幼児向け番組「テレタビーズ」を思わせる建築スタイルに目を奪われる 。地下に大きくスペースをとった4つのドーム型構造は、これまでの蒸溜所建築の常識を完全に一新してしまった。マッカランのクリエイティブディレクターを務めるケン・グリアーが、この画期的な建築設計の背景を説明する。

「みんなで『世界の傑作ワイナリー』という本をめくっていて、スペインのラグアルディ町にあるボデガ・イシオスの写真に目が止まったんです。非常に個性的で、未来を先取りしたような外観でした。夢の建設計画が始まったのは、まさにあの瞬間でした」

新しい蒸溜所の建築デザインを公募するコンペがスタートした。議論の過程で、紀元前700年ごろからスコットランドに建設された「ブロッホ」という円塔形の要塞を現代によみがえらせようというアイデアが生まれる。ブロッホは、外観から想像するよりも内部がかなり広く造られているのが特徴だ。最終的に採用されたのは、ロジャーズ・スターク・ハーバー+パートナーズの設計案だった。

「蒸溜所の建築は、建設地の雄大な風景に溶け合っていなければならない。そんな考えから生まれた設計案です。50万トンもの土を掘り出す必要があり、ドーム型の屋根を造るのも信じられないほど複雑な工程でした。外観からは見えない内部構造に、5万トンのコンクリートが使用されています。コンクリートの三角形を2,500個用意し、巨大なジグソーパズルのようにはめ込んで屋根を構成しました」

建設に関わった業者は25社で、総工費は1億4千万ポンド(約200億円)。蒸溜所の設備を一新することで、生産量を以前の3分の1増にあたる年間1,500万リッターにまで増加させる。設備を製造するのは、ロセス村にあるフォーサイス社の仕事である。 「フォーサイスは既存のすべてのスチルからデスマスクを取るように形状やサイズをコピーして、出っ張りや凹みも再現しながら精確なコピーのスチルを製造したんです」とグリアーは振り返る。

「新しい蒸溜所は、世界でもっともラグジュアリーなウイスキーブランドであるザ・マッカランを見事なまでに象徴しています。驚くべき細部へのこだわり、クオリティのあくなき追求、卓越したクラフトマンシップなどが、この蒸溜所の建築にも込められているのです」

計画から6年、着工から3年半でここまで辿り着いた。フルラウター式のマッシュタンは容量17トン。ステンレス製のウォッシュバック(容量69,000L)が21槽ある。ウォッシュスチル(容量13,000L)が12基、スピリットスチル(容量3,900L)が24基に増えた。

近年、ウイスキーブランドは透明性と正統性が重視されている。新しいマッカラン蒸溜所もそのような価値観を代弁する存在だ。

「ザ・マッカランというブランドのタマネギの皮を剥くような気持ちで、蒸溜所の新設を見守ってきました。そして出来上がった蒸溜所は、期待を上回るほど素晴らしいものです。内部に足を踏み入れ、設備に触れながら涙がこぼれてきました。6年間にわたる大事業を完成させた誇らしい気持ちと喜びから溢れ出た涙です」

 

真新しい蒸溜所の内部を歩く

 

地上に出ているのはガラス窓だけ。ドーム状の内部が外観から見えない未来的な建築は、ロジャーズ・スターク・ハーバー+パートナーズの設計だ。

新しいマッカラン蒸溜所では、どのようなビジター体験が提供されているのだろうか。古代スコットランドの要塞「ブロッホ」をイメージした幻想的な視覚効果を強調するため、メインエントランスへと続く小道は徐々に細くなっていく。辿り着いた広大なスペースは、艶のあるコンクリートや木材で構成された現代的な美観。コンペに勝利したロジャーズ・スタークが得意とする空間演出である。

エントランスの左側には、ケン・グリアーが「マッカランの宝箱」と呼ぶ場所がある。天井から床までの全面を使用したガラス製の壁に、840本のボトルを展示したアーカイブだ。電子潜望鏡のような設備で各ボトルに照準を合わせれば、ビジターは840本すべての詳細情報を得ることができる。

ビジター向けのツアーが出発する階上にはカクテルバーがあり、実に952種類ものマッカランをグラス単位で購入できる。建設計画が始まったときから、マッカラン蒸溜所のチームは1824年以来続くマッカランブランドの伝統を表現するために知恵を絞ってきた。ビジターが目にする最初の展示は、イースターエルキーハウスの見事なミニチュア建築である。タイトルは「スピリチュアル・ホーム」。18世紀から受け継がれた調度品も、窓からはっきり見えるように再現されている。

次に目に入るのは「小型スチルの不思議」と題された展示物。これは大小2種類のスチルを展示用に小型化したもので、コンデンサーに向かって流れる蒸気の様子が観察できるようになっている。スチルのサイズによるメカニズムの変化もわかり、蒸溜の仕組みが視覚的に学べる展示だ。マッカランのスタッフが説明してくれる。

「わたしたちのスチルは小型で、スピリッツが銅に触れる量を極大化できる形状になっています。その結果として、リッチで、フルーティで、ボディもしっかりとしたザ・マッカラン特有のフレーバーがニューメイクスピリッツに授けられるのです」

(つづく)

スペイサイドが誇るシングルモルト「ザ・マッカラン」の歴史、製法、商品情報が満載の公式ブランドサイトはこちらから。