生産力を維持しながら、高品質なシェリー樽熟成のシングルモルトへと路線を転換。タムデューはスペイサイドの象徴として次の100年を見据えている。

文:ガヴィン・スミス

 

長年にわたって、タムデューはスコッチウイスキー界で唯一サラディン式モルティングを採用している蒸溜所として知られてきた。製麦用のボックスは10個あり、それぞれが最高で22トンものモルトを製麦できる。

この設備によって、タムデューは自社のみならずハイランド・ディスティラーズ傘下にある他の蒸溜所にもモルト原料を供給してきた。一時はハイランド・ディスティラーズが必要とする総量の30%も賄っていたほどである。サラディン式モルティングの晩年には、マッカランのイースター・エルキース・エステートで栽培されたゴールデンプロミス種の大麦をマッカラン蒸溜所にも供給していた。

タムデュー蒸溜所の蒸溜棟。ウォッシュスチルとスピリットスチルのセットが6組ある。

1970年代には、スコッチウイスキー業界全体で原酒増産の動きが見られた。1972年には、それまで1組だったタムデューのポットスチルも増設されて全4組に。その3年後には、また2組を追加して全6組の生産体制になった。結果的に、タムデューの年間生産量は400万リッターにまで拡大された。量産が可能なハイランド・ディスティラーズ傘下の蒸溜所として、1999年にはエドリントン・グループに買収された。

しかしそのエドリントンがハイランドパーク、マッカラン、グレンロセスのシングルモルトウイスキーに注力する方針を定めると、タムデューは2009年から余剰施設として休業を強いられる。だがここで独立系ブレンダー&ボトラーとして知られるイアン・マクロード・ディスティラーズ(IMD)が救世主となり、2011年6月にタムデューを買収した。

当時のイアン・マクロードは、すでにグレンゴイン蒸溜所のオーナーでもあった。ブランドディレクターを務めるイアン・ウィアーが、タムデュー買収時の状況を次のように説明している。

「イアン・マクロードはすでにハイランドのグレンゴイン蒸溜所を所有していたので、タムデュー蒸溜所を買収することでスペイサイドの蒸溜所もポートフォリオに加えるメリットがありました。もちろんスペイサイドは、スコットランドでもっとも有名なウイスキー生産地。前のオーナーたちが素晴らしいオロロソシェリー樽熟成の原酒を仕込んでいたことも、私たちの目には魅力的に映りました。2003年にグレンゴイン蒸溜所を買収しましたが、蒸溜所もブランドもうまく成長させられていました。2011年にタムデューが買い手を探していると聞き、イアン・マクロードのポートフォリオ拡大にぴったりだと判断したのです」
 

新オーナーと次の時代へ

 
エドリントンはタムデューの旧管理者として行く末を案じ、イアン・マクロードが工場を再稼働するときも親身に協力してくれた。蒸溜所のオペレーションは、シフトごとにマッシュマンとスチルマンがいる2人体制。だが既存の自動化システムは1972年製と老朽化していた。そこで、すべてを新しいコンピューター制御のシステムに入れ替え、オートメーションでできる範囲も広げることに。その結果、シフトごとに1人の担当者が全生産工程をコントロールできるようになったのである。

伝統主義者にとっては残念なことだが、この改修時になくなったものがある。それはタムデュー自慢のサラディン式モルティングだ。その後、徐々に9槽の木製ウォッシュバックが新品に置き換えられ、6基あるコンデンサーのうち4基が新調された。スチルもみな改修され、23棟の貯蔵庫、2棟の樽詰め施設、1棟の樽工房が新たに建てられた。

シェリー樽熟成を究めるには、スペインのボデガとの協力関係が欠かせない。樽材の選定から最高の品質が求められる。

さらにはVIP用の宿泊施設とエンターテインメントセンターが用意され、古い駅舎が改修されてガスの本管が設置された。蒸溜所チームは周囲の自然環境にも配慮し、 近所のノッカンドゥ川から魚が通れる水路を引いた。鮭や鱒が産卵のために遡上してくる。

1997年以来、エドリントンはタムデューのニューメイクスピリッツを非常に高品質のオロロソシェリー樽で熟成してきた。その多くがファーストフィルの樽であり、新しいオーナーであるイアン・マクロードもまとまった在庫を手にすることになった。

イアン・マクロードは、現在も戦略的な判断によってシェリー樽での熟成を続けている。そしてシェリー樽熟成のウイスキーだけをタムデューのシングルモルト商品として発売する方針に転換した。

タムデュー蒸溜所ではバーボン樽でもスピリッツを熟成しているが、これらの原酒は自社のブレンデッドウイスキーに使用される。また樽詰めしないニューメイクスピリッツは、業界の慣例によって他の蒸溜所との交換用としても取引される。

蒸溜所長のサンディ・マッキンタイアは、次のように説明している。

「シングルモルト用のタムデューは、度数63.5%でシェリー樽に樽詰めされます。シェリー樽の木材には、アメリカンオークとヨーロピアンオークの両方を使用しています。ファーストフィルとセカンドフィルを併用し、貯蔵庫もダンネージ式トラック式を併用していますが、大多数はダンネージ式での熟成です。シングルモルト以外のタムデューはバーボン樽に樽入れして、蒸溜所内でパレット式に貯蔵されています」

特注のオロロソシェリー樽を調達するために、イアン・マクロードはスペインのヘレスにあるテバサ、バシマ、ウベルト・ドメックといった樽工房との関係を深めている。シェリーのメーカーであるウィリアムズ&ハンバートや、ボデガス・バロン(サンルーカル・デ・バラメーダ)も緊密な連携相手だ。現在、タムデュー蒸溜所ではヨーロピアンオークとアメリカンオークのオロロソシェリー樽を併用しているが、そのすべてが18ヶ月以上の空気乾燥を経た樽材を組み上げてからオロロソシェリーでシーズニングされたものである。

イアン・マクロードは、オロロソシェリー樽で10年熟成したタムデューのシングルモルトを2013年から市場に再投入している。それ以来、シングルモルトのラインナップは徐々に拡張され、売り上げも大きく成長してきた。イアン・ウィアーは次のように語っている。

「タムデューの売り上げは、急激に伸びてきました。世界的な需要に応えられるほどの数量は用意できず、ほとんどいつも地域ごとに割り当てを組んでいる状態です」

タムデューは今年で創業からちょうど125周年を迎える。記念事業の計画はすでに固まっており、イアン・ウィアーによると待望の新商品「タムデュー18年」をはじめとする希少なウイスキーが発売予定であるという。このような商品は、世界中の熱心なウイスキーファンやコレクターに向けた感謝のメッセージだ。

「VIP用施設であるタムデュー・カスタムズ・ハウスもオープンします。スピリット・オブ・スペイサイド・ウイスキー・フェスティバル用に各地のイベントを周遊する旅程を組み、世界の主要なウイスキー市場でブランドを宣伝するイベントも開催します」

シェリー樽熟成のウイスキーを愛する世界中の人々は、タムデューの近況から目が離せない。アニバーサリーであらためて実力を示しながら、その安泰な未来に向けてこれからも順調なリリースが続いていくだろう。タムデューのスピリッツは、シェリー樽熟成のシングルモルトウイスキーとして揺るぎない地位を築いている。