シガーとウイスキーの再会【前半/全2回】
文:ニック・ハモンド
シガーとウイスキーの組み合わせには、長い歴史と伝統がある。昔ながらのウイスキーファンにとっては、世界的に有名なペアリングといってもいいだろう。
ウイスキー愛好家の多くは、これまでもずっと上質な手巻きのシガーを好んできた。それだけでなく、ウイスキーとシガーには味の特徴、スタイル、強度などに明確な共通点がある。
シガーもウイスキーも、人間が丹精を込めて巧みにつくり上げた製品だ。何世代にもわたって培われた知識と伝統を駆使し、時間をかけて丁寧に育てられた文化の結晶であり、どちらも退廃的な自分へのご褒美を象徴する贅沢品というイメージがある。
独立系ボトラーのアンガスダンディでマスターブレンダーを務めるイアン・フォーティースは、正統派ウイスキーファンの例に漏れずシガー愛好家を自認している一人だ。
「以前はウイスキーのつくり手ではなく小売業で働いていました。職場であるウイスキーショップで時間を過ごしながら、店内に併設されているヒュミドールについてもよく理解するようになったんです」
そして自分がウイスキーをつくる側になってからは、良質のシガーと組み合わせたウィスキーを紹介しようと考え始めた。ここ数年のうちに、英国でシガーとのペアリングイベントをたくさん開催してきたのだという。
「私自身の偏見も混じっていますが、ウイスキーとシガーの相性は掛け値なしに素晴らしい。この組み合わせは、主にアメリカで楽しまれて発達してきました。私はその文化を英国でも広めようとイベントを開催しています。イベントはいつも盛況で、その回数はもう数えられないほどになっています」
実を言えば、私自身もオンラインや対面でウイスキーとシガーのペアリングイベントを数多く開催してきた。最近よく感じるのは、ウイスキーとシガーの相性が良すぎるということだ。組み合わせてうまくいかないケースが、驚くほど少ない。たとえその場で選ばれたウイスキーとシガーが天国のような好相性でなくても、一晩かぎりのエンターテインメントとして楽しむには十分に面白いペアリングであることが多いのだ。
禁煙ムードの中で生き残ったニーズ
世の中の禁煙運動は、主に紙巻きタバコのユーザーを対象としているが、シガーやパイプなども対象になっている。最初は市民同士で喫煙を抑止していこうという流れだったが、今ではそんな段階を通り越して、完全に法的な要請の問題になってきた。英国では2002年に「タバコ広告・宣伝法」が制定され、その名の通りタバコの宣伝活動が禁止されている。
だが広告基準庁によれば、この禁止は「タバコに関するすべての議論」にまで及んでいる訳ではない。米国の連邦法でもテレビや印刷媒体におけるタバコの宣伝は制限されているが、店内広告については喫煙者に譲歩している部分も見られる。
このような状況を総合的に判断しても、喫煙全般をポジティブに語るのは非常にデリケートな問題につながりかねない。大手スコッチウイスキーメーカーでも、近年までタバコのイメージを宣伝に使おうと検討した企業はいくつもある。だが顧問弁護士がタバコを自社ウイスキーブランドに近づけてはならないと主張して頓挫する。そんな内情を密かに嘆いてきた関係者も少なくはない。
だがそんな風向きにも、静かに変化が訪れている。イアン・フォーティースが、トミントールの新しいシングルモルトとしてつくった「シガーモルト」もそのひとつ。素晴らしい出来栄えで、瞬く間にブランド内のベストセラーとなった。
シガーモルトという比較的未開拓の市場には、熱狂的なフォロワーが大勢いる。現代のウイスキー業界は、そんな事実にようやく気付いたようだ。他のブランドからも、この動きに追随して類似したコンセプトのウイスキーが発売されるようになったのだ。フォーティースが経緯を振り返る。
「ウイスキー業界でシガーモルトといえば、ずっとダルモアのシガーモルトが唯一の存在だと考えられていました。単なるコピーと思われたくなかったので、私たちも発売前に長い間よく考えました」
この世界には開拓すべき分野がまだまだある。そして何よりフォーティース自身が、シガーとウイスキーのペアリングに特別な情熱を持っていた。自分たちができることを極めようと突き進んだ結果、トミントールのシガーモルトは飛ぶように売れたのだという。
「個人的には、オロロソシェリー樽でフィニッシュしたウイスキーがシガーによく合うと思っています。甘くて香ばしいフレーバーが、シガーのスモーキーな感触を美しく引き立ててくれるからです」
(つづく)